火影特権(適当)


気付いたときには砂浜に倒れていた。
ここがどこかも分からない。ほどほどに寒く、極端に暑くもないから、さほど木の葉から離れてるって訳じゃなさそうだが。
記憶が途切れる前になにが起こったか最初は思い出せなかったが慎重に記憶を探っていった。
昨日…かどうかは分からないが、意識を失ったその日の朝飯は夕飯の残りの味噌汁とシャケと、あとはご近所さんのおばちゃんから早くお嫁さん貰いなさいねなんていわれながら貰った煮物とで済ませて、ちゃっちゃと身支度を整えて家を飛び出そうとして、そうだ。何かにぶつかったんだ。
カーキ色の硬いもの…忍服のベストだ。
ここんとこやる気がから回りしてて時々物凄い勢いで落ち込んでる隣の家の新人中忍かと(まあ普通の忍は人とぶつかったりしないからな)見上げて、でもその先にあったのがふさふさとして銀髪で、マズい逃げろ!って思ったとこまでも覚えている。っつーか思い出した。
この状況の原因は、あの厄介事の塊のせいだろう。
「またか…」
ため息はだだっ広い砂浜に打ち寄せる波の音すらも打ち消すほどに大きく、原因が分かったところで解決しないこの事態に泣きたい気分になってきた。
火影という存在は、そりゃ重圧のかかる仕事だ。だからこれまで側に過ごした三代目も五代目も、変わった人だったのは確かだ。
でも、尊敬していた。それは時に厳しく、時に優しく、己が身を賭してでも里を守るという強い意志であったり、里人に向ける慈愛であったり、が、この人だからこそ里を守れるんだと確信していたからでもある。
人としての器が大きくて、いつだって俺は側にいることを誇りに思っていた。
だから代替わりしたときも、この人ならきっとよい里になるだろうと信じられた。
戦歴を見ると自己犠牲が過ぎる人で、そこだけが心配だとはいえ、強さと人心掌握術を兼ね備え、おまけに顔もいい。まあ普段は隠してるんだけどな。教え子を通して多少のかかわりがあっただけに誇らしささえ感じたもんだ。
そんな人に俺にできることなど限られているが、全身全霊で支えようと思っていた。
…当代の滅茶苦茶ぶりを身をもって思い知るまでは。
「イルカせんせ」
名実ともに里最強の権力者…最悪の我侭小僧となった男が笑っている。それは申幸せそうにうっとりと目を細めて。
「アンタなにやらかしてんですか!」
「えー?いいじゃないですか。旅行です旅行。砂浜でえっちってロマンでしょロマン」
「どこがだ!その前にその発言はセクハラですよ!女性にちょっかい掛けるにしても絶対その手のやり口は禁止です!」
そう…当代火影の手腕は当初の期待通り、いや期待以上に優れており、里はあっという間に発展したんだが…それら全てを帳消しにしてしまいかねない問題があった。
この男は筋金入りのイチャパラーだったのだ。
「だいじょーぶ。イルカせんせにだけですから」
にこっと微笑まれて優しい瞳をたわめられれば、顔なんざ殆ど見えないってのにほぼすべての人間がその笑顔に屈服した。かわいいってのは分からんが、なんでか逆らっちゃいけない気分になるからな…。もう瞳術使いじゃないってのに。
こうして俺をイチャパラネタに付き合わせるのがこの人の日課だ。事務方の処理能力が欲しいと付き人に指名されて嬉しかったってのに、そんなのは遠い昔。
いまや俺はこの人のちょっとした気分転換にイチャパラタイムにつき合わされるのが常だ。
落ち込んだときの膝枕まではまだいい。なにが楽しいんだか理解はできなくても、生い立ちからしてファザコンの気があってもおかしくないような気もするからそれはそれだしな。
だが…シモネタというか、直接的な表現が混ざってくるとそれには流石の俺も黙っちゃいられないってもんだ。
「俺だけだからとかそういうんじゃなくてですね!里を出たら誰がどこで見てるかわからんのです!ちゃんとそういうことには気をつけていただかないと!」
重く圧し掛かる責任を支えるのはやぶさかじゃないが、疲れて家に帰って同じ布団に潜り込んでこられた上に妙にくっついてこられたりするのはちょっとな…。寝ぼけてるのか、極自然に尻をもんできたりもするし。側近として火影邸に詰めてることが多いのがまずいんだろうけどなぁ。同じ家にいたらあのだだっ広さだと寝床ならどこでもいい気分になるのはわからなくもない。
でもな。まずいだろ。うっかり外でやられたら。じいちゃ…三代目だってエロ本読んでにやにやする人だったけど、外じゃ絶対にやらなかったぞ!
「はぁい。そーですね。いい加減俺も限界ですし。きちんとしないとだめかもねぇ」
穏やかな口調はとてもきちんとなんてしてくれそうにないんだが、とにかく今は仕事が優先だ。
「さあ帰りますよ!今日も西地区の区画整理計画と、砂の国の緑化計画の報告会もあるんですから!」
「ん。そーですね」
にこにこ無邪気っぽく笑ってるが、この人のこれは油断できないからな…。早く仕事を片付けるためにもここは餌が必要だろう。
「終わったら肩もんで差し上げます。俺の取って置きの温泉の素もつけますよ!」
「え!いいなぁ。がんばらなきゃねぇ。帰りましょ」
のんびりした物言いとは裏腹に瞳がきらっと輝いたのを俺は見過ごさなかった。ホントこどもっぽいっつーかな。…まあ、確かにかわいいかもしれんな。こういうとこは。
「ありがとうございます」
極自然に手を差し出されて、無視するのも気詰まりだったからその手を掴んで立ち上がった。砂だらけだ。着替えねぇと。
「どーいたしまして」
ちゅっと音を立てて離れていった唇に、どうもまだお遊びは続いているらしいことを悟りつつ、諦めて歩き出した。
気配もなくついてくるのはさすが上忍だなぁなんてことを考えていた俺は、もりだくさんだった一日の終わりに、この男から告白と共に押し倒されることなんて、少しも予想できなかったのだった。

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適当。
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