毛並み(適当)



このぬくもりからは離れがたい。
「起きてくださいよ」
「んうー」
折角二人で心地良い寝床にいるって言うのに、腕の中から逃げようとするから、思わず力を込めすぎてしまったらしい。
「ぐえ!いってぇだろうが!」
あー、ホントは殴りたいんだろうなーっていうのは、もがきっぷりと真っ赤になった顔から気付いたけど、ぎゅうぎゅう締め上げてしまっているせいで身動きも取れないらしい。
それにしてもおいしそう。今からやってもまだ時間的には余裕がある。この人は怒るだろうけど、飯なんてどうでもいいし。どうしようか。
「んー…ごめんね?」
とりあえずまだ起きたくない。
ちょっとかわいこぶって謝っただけでイルカ先生が怯む。この顔に産まれてよかったとこういうときだけは思う。
父親に似すぎていて面倒なこともたくさんあったけど、密かに面食いな恋人がうっかり騙されてくれるおかげで、これまでもたっぷり恩恵に与ってきた。
なにしろ笑っただけでぽかんとした顔で固まってくれる。最初にやっちゃったときも…たしか面白半分で素顔を晒したら時を止めちゃったこの人に、思わずこう…むらむらっとね?
で、食ってみたら慣れてないし反応も可愛いければ不安そうなのもたまらなく欲を煽って、止まれないまま翌日出勤できなくなるまで貪ってしまった。
そのくせ起き抜けに、犬に食われたと思って忘れますって。食われちゃったら忘れるどころじゃないと思うんだけど、どう考えても俺が悪いのに怒るでもなく、その神妙っていうか深刻な物言いがまたツボで、そのまま好きって言っちゃったというか、気付いたら自分のモノにしとかなきゃっていう焦燥感が口から滑り出ちゃったと言うか。
そのときも「は?」って言って固まっちゃって、なんかこうその半開きの口とか潤んだ瞳とか首筋に絡みつく髪とかに、スイッチが入ったみたいに興奮して…終わった後へろへろな割に力強く殴られて、この人が動けないって状況が妙に嬉しくて、一生懸命世話を焼いてたら、アンタアホだったんですねって。だから面倒見てくれるって。
それからこのばら色の日々は続いている。
「…っ!謝ったって騙されねぇぞ!」
どうやら今頃気付いたみたいだ。
もう手遅れですよー?だって今日は俺もイルカ先生もお休みだ。
朝から晩までヤってたって、誰も困らない。俺はこの人を独り占めできるって訳だ。
…俺のこの閉じ込め癖に気付かれちゃってるみたいで、必死で抵抗されるのがまた燃える。そんなこと絶対に言わないけどね!
「イルカせんせ」
大名の奥方から手練手管に長けた遊女まで落としてきた笑顔だが、警戒しているイルカ先生には、ほんのちょっとしか効かなかったようだ。
「…なんですか?っつーか離せ。洗濯が風呂がその前に朝飯…!」
「いただきます」
「ふ、ふざけんなー!」
うん。朝からいい声。昨日いっぱいやったのにまだ元気で嬉しいです。でももうちょっとぐったりしてくれてからも楽しいから、今日はやっぱりいちゃいちゃしようっと。
「好きです」
「…う、るせぇ…!」
ああもう。怒ってる顔もたまんない。
あとでまたたっぷり怒られるんだろうけど、今日はもう止まれないから諦めてもらおう。
だってたとえ一瞬でも離れたくないんだもの。
「好き」
思わずにやにやしちゃった俺に、イルカ先生がじとっとした視線を向けたのは一瞬で。
「ああもう。しょうがねぇなアンタは…」
頭をくしゃくしゃって撫でてくれたから、この人のこういうとこも大好きすぎて、やりすぎちゃうだろうなぁなんて思ったのだった。



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適当。
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