けもけも(適当)


 見張りには中忍が一人。それも顔を真横に薙ぐ古傷はともかくとして、全体的にのんびりしてそうなのがいるだけだ。
 見張りは一応ちゃんとしてるし、警戒のためのトラップ構築も素早いし的確だ。
でもねぇ。うろちょろしてるリスにどんぐり差し出してちょっかいかけてみたり、頭の上に鳥が留まっちゃってるのに追い払わなかったり、寄ってきたタヌキに足の上に座られてたり、諦めたのか座ったら、今度はウサギが湧いて出てよっかかられたりしてるんだけど。
 木の葉の里って大丈夫なのかね。これで。っていうか、流石に寄ってくる獣、多すぎない?
 タヌキの時点でどうかと思ったけど、ウサギの次に蛇まで寄ってきて、鳥かウサギが食われちゃうんじゃないかと思ったら、今度は蛇まで肩に止まってどうやらくつろいでいるらしい。
 …特殊能力?そういう忍なの?もしかして。
 俺たち犬使いもたいていの犬の言葉は理解できるけど、あそこまでたくさん使役動物がいるって、聞いたことがない。
 そういう特殊な連中は、たいてい暗部にリストが上がってくる。そいつが使えそうなら引き抜き、危険そうなら早めに芽を摘むために。
 特に俺みたいな隊長格になると、確実にそのリストを目にする。そこに顔形こそ鼻傷以外黒髪黒目で平凡だけど、こんな目立つ能力の男がいたら、記憶しているはずだ。
「…おまえら、俺は飯も何も持ってないからな?それにこれから戦闘になるかもしれないんだ。どこか安全な場所にいた方がいいぞ?」
 言葉もわからないだろう生き物たちは、それでも一様に思ったよりやわらかい声で言葉を紡ぐ口を見つめている。その癖まだ大丈夫だとでもいいたげに、動こうとするやつは皆無だ。膝の上でくつろいでいるタヌキなんて、腹まで出してあくびまでしている。
 困ったように眉をしかめるくせに、口元は緩みきっていて、かわるがわる寄り添う動物たちを撫でてやっている。
 まるでどこぞの童話の世界にでも迷い込んだような光景だ。
 言い聞かせる口調からして、どうやらコイツの口寄せ動物って訳じゃなさそうだね。ってことは、ただ単に動物に好かれまくってるってこと?
 後衛部隊に裏切り者がいるって情報で探りに来たけど、こいつは違いそうだ。俺の勘ってだけじゃなく、こんなに目立つ上に能天気なヤツが裏切りなんて器用な真似はできないだろう。
「さて、どうするかね?」
 迷ったのは一瞬で、次の瞬間にはもう印を組んでいた。
「うお!でっかい犬!」
 普段より随分低い位置にある視界からみると、平凡なはずの中忍は内側から輝いているかのように目を引いた。鼻をくすぐる薄甘い匂いにも引き寄せられる。なるほど。中身が俺だから平気だけど、本物の獣だったらひとたまりもないかもね。
 他の連中も急に現れた敵になりうるはずの俺の存在にも動じた様子はない。お前もかとでもいいたげに、ちらりと一瞥してからまた中忍の体に張り付いただけだ。
 それが気に食わなくて一声咆えた。思った以上に大きかったそれに、殆どの連中が逃げていく。よしよし。これでいい。
 それが犬として縄張りを独り占めできたことの喜びか、この中忍を操作しやすくなったことへの満足感か、自分でも曖昧なまま男の膝に手をかけて、目を丸くしてへたり込んでいるのを舐めてやった。
「うおっ!ちょっと待て!こら!…お前、他のヤツ脅かしちゃだめだろ?お前の食えそうな物はなにも持ってないんだよ。ごめんな?」
 触れられただけで肌が沸騰したかと錯覚した。なんだこいつ。チャクラか?距離をとりたいが抗いがたく、膝が勝手に曲がって男に乗りかかったままへばりつくような格好になった。
「重っ!おまえなぁ…。敵がもうすぐここに来るんだって。お前みたいなのがいたら目立つし危ないだろ?な?聞き分けてくれよ」
 切々と訴えてくるくせに、耳の後ろを掻く指は手馴れたもので、思わず鼻を鳴らして擦り寄っていた。もちろん、当初の予定から、この男の天幕に紛れ込むつもりではあった。俺の鼻も目も、犬になれば誤魔化しやすい。こんな様子なら多少危険そうな動物でも連れ歩くことはいつものことだろうと踏んだ結果だ。
 それ以上にこの男から離れ難い気持ちがあったのも事実だが。
「くぅん」
 哀れっぽい声で首筋に顔をうずめて見せれば、男も諦めてくれたようだ。
「しょうがねぇな。見張りももうすぐ交代だから、餌になりそうなもの見繕ってやるからちょっと待ってろ」
「ウォン!」
 尻尾を振って答えると、もう少し静かにしてくれよとため息を吐いた中忍は、それでも懐っこい図体のでかい犬を…俺を追い払わなかった。
*****
「イルカ!また拾ってきたのかよ!なんだよまた怪我してんのか?」
「わー!こら!しー!しー!…しょうがねぇだろ。腹減ってるみたいだし、俺の取ってきた魚とかまだ残ってるし」
「お前水遁得意でよかったよな…」
「まあな…。っつーかさ、今回の総隊長が魚大好きなんだって。隊長にもやたら魚獲ってこいって言われたんだよな…。俺がここに呼ばれたのってもしかして…」
「考えるな。考えたら負けだぞイルカ。それよりそっちもでっかい犬みたいなのに飯食わせて来いよ」
「うん…」
 へー?中忍ってこんな会話してるのね。それに魚好きって…もしかして俺のこと?そういえばやたらと食料に魚が多いと思ったらこっちから調達されてたのね。
 隊長クラスならともかく、下っ端にこんな中途半端な情報が流れてるところみると、やっぱり内通者がいるってことか。
「でっかいの!ほら、今焼いてやるからちょっと待ってろよ?」
 暢気な中忍は意外と綺麗な印を組む。火遁の火力調節も中々で、チャクラコントロールは上忍に引けを取らないかもしれない。
 ふぅん?これは鍛えればもっと使えるようになりそう。どうして中忍のままでいるのか知らないけど、いいものを見つけた。この任務が終わったら持って帰って、俺の隊に貰ってもいいよね。きっと。
 浮き足立つ気持ちのままに擦り寄ったら、魚の焼ける香ばしい香りに尾を振っているんだと思われたらしい。そりゃそうか。犬がまさか自分を浚う計画を立てるとか思わないもんね。
「ほら、もういいぞ!ほぐさなくても食えるか?」
 串をちょっと振り回して冷ましてくれた辺り、慣れているんだろう。少しばかり抜けたところも愛らしい。うーん?ペットを飼うつもりはなかったんだけど、この男が家にいたら和みそうだ。
 差し出された魚を平らげつつ、周囲の音を拾う。すぐにえらそうな声が聞こえてきて、探るべき場所の検討がついた。部隊長の天幕だってのに、結界も張っていないらしい。
 声を潜めたくらいじゃろくでもない話し合いは俺の耳には筒抜けだ。写輪眼を這い蹲らせてやるって…そのためにこの部隊を捨て駒にするとか、馬鹿じゃないの?その後も、自己を過信している妄言ばかりを垂れ流している。タイミングが良かったっていうより、もう狂ってるのか。
 苛立ち紛れに勢い良く魚を食んでいるうちに、どうやら全て食べつくしてしまったらしい。
「うっし。腹一杯になったか?」
 綺麗になった串を焼き捨てた手で、ついでに撫でてくれた。動物好きなのか、それとも使役するつもりなのか…ま、前者だな。
 このあけっぴろげな笑顔には、悪意が混じりようがない。
 こんなんで大丈夫なのかねぇ?忍に向いてないんじゃないの?だからリストにも上がってこなかったとか?
 それはもはや確信だった。多少こなれてないけど、十分上忍か特別上忍くらいまでは上がれる素質はあるのに、この性格。向いてないよね。確実に。
「なんだよ?はは!礼ならいいって!気をつけて帰れよ?」
 戯れに顔を舐めてやったら、嬉しそうにするくせに、追い払うようなことを言う。ま、多分ここが敵に襲撃される可能性を考えてるんだろうけど、イライラする。
 それでも見送る言葉に従ったフリで離れてやったのは、本来の目的を達するためだ。
 といっても、魚を食ってる間だけで大体事情は察したけどね。犬の姿のまま茂みにもぐりこんで術を解いた。口の中に広がる魚の味も、匂い消しの丸薬をかみ締めて消す。後は…裏切り者を処理するだけだ。
「テンゾウ」
「はい。ここでしたか」
「そ。ここの部隊長。あとその連れはもしかすると他里のかも。一応縛。それから処理だね。余罪ありそう。あの頭の中を覗かなきゃならない尋問部は可哀想だけど」
「承知しました」
 これでゴミ掃除は済んだ。後は後腐れないように多少手を回せばいいだけだ。
「ありがと」
 無理をさせた後輩に礼を言うと、ストイックと言うかマニアックというか、ちょっと変わり者な後輩からねぎらいの言葉が返ってきた。
「いいえ。任務が片付いたばかりだっていうのに、先輩こそお疲れ様です」
 そう。わざわざ俺がこんなところまで出張ってきたのは、とっくにこの任務が終わっているからだ。後衛に知らせるのを遅らせた理由も、敵の動きがこっちの先を読んでる気配があったからだしね。ま、物量戦じゃ、精鋭ぞろいのうちの隊とやり合って勝てるわけもなかったけど。
 おかげでいい拾い物をしたから、むしろ感謝すべきかもしれない。
「先輩?機嫌よさそうですね。何かいいことでも?」
「んー?ま、そのうちね」
 仲間にするか、それとも俺のところで飼うか、もう一度伝令ついでに顔を出してから決めようか。
 どっちにしろ、俺のモノにしちゃうのは決定だけど。
「待っててねー?」
 うかうかしてると変なの拾ったり懐かせたりしそうだから、帰ったら三代目…も、しっかりたらされてそうだから、適当に丸め込んでしまおう。
 気分良く全てを片付ける気でいた俺は知らなかった。
 とっくに里で厄介すぎるのを懐かせていて、ついでに予想以上に三代目まで落とされてるってことも。




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適当。
中忍の秘密シリーズのようなそうでないような。

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