「カカシさん」 準備が出来たと、花っていうか、太陽よりも輝く笑顔でイルカ先生が手を引いてくれる。 うん。幸せだ。確かにね。 その笑顔の理由が色々と間違っていようと、多大なる勘違いをされていようと、そんなのんどうだっていい。なんだって構わないんだよ。この人から祝ってもらえるのならそれで。 最初に祝ってもらったあの日から、もう随分になる。 最初は友人ですらなくて、わが子か兄弟のように可愛がっていた子の上司だからっていうのと、休日はいつも一人で過ごすと言ってしまったせいで、同情を引いたせいだったんだと思う。 それでも用意された祝いの品々は、自分でも覚えていないくらい些細な会話で零した好物ばかりで、甘い物が苦手だといったせいか、最後に出てきたのはケーキ風のハンバーグで、それを一番喜んだのは自分の部下たちだったにしろ、俺も勿論嬉しかった。 …招かれた彼の家で盛大に飾り付けられた垂れ幕に「祝☆敬老」なんて文字が躍っていたとしても。 事態は、もうすぐだろうと腐れ縁の自称ライバルが手渡してきた誕生日プレゼントを、教え子が祝ってくれようとしたことに遡る。 もうすぐある祝い事というのを、そういったことに疎い意外性ナンバーワン忍者は、当時アイツにしてみれば何でも分かる賢くて可愛い片思いの相手である同じスリーマンセルの仲間に聞いたのだ。 そして説明が下手なアイツが詳細を言わなかったために、この悲劇は起こった。 …毎年俺が敬老の日を祝っていると、そう誤解されたのだ。 俺が里に常駐であったことなど殆ど無かったせいで、俺が敬老の日というものの意味を理解していないと思い込んだ彼は。たった一人で謎の祝日として祝おうとしていると勘違いした彼は…その盛大な誤解のままに俺を傷つけないために一緒に祝ってくれようとしたのだ。 ナルトはともかく、サクラとサスケの哀れみに満ちた視線と、彼の慈愛に満ちた視線を浴びて、一瞬で事態を理解した俺は、結局真実を告げることはできなかった。 だって、好きな人が側にいてくれるんだもん。そんなのどうでもいいかって思うじゃない? この分じゃ、思ったより伸びしろの大きいコイツラは、あっという間に巣立っていくだろう。そうなれば、教え子の元担任ってだけの薄い関係のこの人とは、そう長く続く関係じゃない。 だから、少しでもかかわりが欲しかった。手に入れたいなんて大それたことは願わないから。 そうしてお礼にと、ハロウィンもクリスマスも新年も、それから勿論、日々の食事を共にすることは勿論、彼の誕生日も一緒に祝う頃には、俺が行事好きの変わり者と言う認識は、鞨鼓たるものに成り果ててしまっていた訳だ。 ま、いいんだけどね。この年になれば大抵のことには動じなくなる。 友から預かった瞳を失っても、結局こんなにいい年になるまで生き延びてしまって、こうなればある意味しっくりきてるからいいかなって思うじゃない? それから色々と鈍くて隙が多いようでいて鈍すぎるせいで攻め辛かった彼とは、じれったい時間を過ごしながらうやむやのうちに恋人にまで上り詰めた。 いまや周囲も認める伴侶だ。おしどり夫婦っていうより、くっつきすぎて二人で一匹みたいとは口は悪いが気風のいい悪友の言だ。 毎年毎年彼の誕生日を祝って、ちょっと抜けていてそこが可愛い彼は俺の誕生日のことなど気付かないから、毎年毎年俺と一緒に敬老の日を祝う。 どうもどこかでおせっかいなヤツが、俺の誕生日も敬老の日辺りだと伝えてみたみたいなんだけど、なら一緒にお祝いしようって思っちゃったみたいで、やっぱり優先されるのは敬老の日だ。 俺が、祝いたいと思ってるって信じ込んでるから、俺に喜んで欲しくてやってるんだし、今更特に文句はない。むしろ胸にこみ上げるのは愛しさだ。 だって俺はこんなにも愛されている。 その雑さっていうか適当さっていうか、大雑把なとこだって大好きだ。むしろ愛している。 年月がこの身から俊敏さを奪い、前線で戦うことを辞してからも、こうして寄り添って暮らしているし、これから先だって一緒に過ごす。 なにせかつて借り物の瞳を失ったときに、誓ってくれている。 俺はもう戦うのは無理かもしれないからって言ったのに、なにがあったって側にいるって、そう言ってくれた。 生きるとも。死なぬとも。今度こそ、交わした誓いをたがえてたまるものか。 だからきっと、まさにこの言葉にぴったりな年になるまでは、絶対に。 「お祝い、楽しみだなぁ?」 「今年はくみあげ豆腐ですから!」 にかっと笑って新作のケーキもどきの説明をしてくれる恋人にキスをして、今年もたっぷり敬老の日を祝うことにしたのだった。 ******************************************************************************** 適当。 これもまた愛ということで。カカチてんてーおめでとうございますワーイヽ(゚∀゚)メ(゚∀゚)メ(゚∀゚)ノワーイ ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |