ねこもどきの策略(適当)



ゴミ箱とダンボール。どっちがいいだろう。
どちらかといえばダンボールの方が一般的だが、ゴミ箱の方がよりいっそう哀れな感じがしていいかもしれない。
「どうしようかなー」
まずは気付いてもらわなくてはならない。
出来るだけか細く、そして哀れっぽい声を上げ、尚且つ庇護欲をそそるように…そうだな。おぼつかない足取りで擦り寄ってみようか。
おあつらえ向きに明日は雨。
…こっちにとっては非常に都合がいい。
お人よしのあの人が、弱りきったイキモノを見捨てられるはずがないんだよねぇ?
「やっぱりこっちにしよ」
どこにでもあるようなゴミ箱は随分と小さくて、しかも水を吸い込まない。
溺れかかった子猫を見たあの人の行動なんて、考えなくても分かる。
「ちゃんと拾ってくださいねー?イルカせんせ」
懐に抱えた小さなゴミ箱は、まるで宝物のように思えた。
*****
「にぁー…」
うーん。寒い。
小さい生き物ほど体温を失いやすいことを忘れていた。
そういえばガキの頃はよく忍犬に暖めてもらったっけ。
もうその頃から単独任務が多くて、人肌なんてものに甘えられるほど他人を信用できなかったから。
でも、今は…っていうよりあの人なら。
「ぅー…なぁ」
ゴミ箱の中はもうすっかり水浸しで、そろそろ息も危うい。
どうしようか。暴れて倒せば何とかなるだろうけど。
もがもがとゴミ箱を引っかいて暴れてみたら、何かにひょいっと持ち上げられた。
「何だお前!びしょぬれだし…なんでゴミ箱なんかに!?」
それは俺が変化して中に収まったからです。
…ターゲットはどうやら無事ひっかかってくれたらしい。
「んなぁ…」
ぽてりと手のひらに倒れてみせると、大慌てでベストの中につっこまれた。
俺びしょぬれなんですけど。いいの?ま、らしいっちゃらしいけど。
「わー!?犬塚か!?とりあえず…あっためてやるからがんばれよ!」
もちろんですとも。大分寒くて参ってたけど、イルカせんせの体温のお陰でじんわりと暖かい。
とりあえず…傘もささずに走り出した人にほくそ笑んでおいた。
*****
「んなー」
「そうか。なにいってるかわかんねぇけど、とりあえず肉とかでいいよな?」
おなかは一杯ですよー。というかまあその、ここに居座るつもりだったからいいんだけど。
「うなぁん」
必殺転がる子猫の魔力にまんまと嵌ったイルカ先生は、でろっでろに顔を蕩かせている。
お風呂でも怯えて見せつつきわどい所に猫タッチしてみたり、体を拭かれるときも指かじったりなめたりしちゃいました。
猫っていいよね…!やりたい放題。
「かーわいいなぁ!風呂入れたらまっしろくなったし!貰い手すぐに見つかるぞ!」
え!うそちょっとまって!それは困るんですけど!
「うぅー!」
「なんだ?器量よしが台無しだぞー?どっちにしろトイレのしつけとワクチン済ませてからじゃないとな」
なんか手馴れてるみたい?他にも一杯拾ってるのか。…それはちょっとなんていうか…嫉妬しちゃう。
ま、長期戦のつもりはないからいいんだけど。
「なー」
「うー…母ちゃんいないもんなぁ…。しょうがねぇ。布団に入れてやるけど、トイレすませてからだぞ!」
うんうん。順調。これでいい。
後は布団に入り込んで変化といて、責任とって貰えばいいや。
ちなみに全裸です。そこ重要。…いやだって猫だし。猫って服着てないし既成事実が重要だし。
俺はこの人が絶対に欲しいんだもん!
もそもそと布団にもぐりこんで、しっかり懐に陣取ったら撫でてくれた。
「あはは!いっちょまえにごろごろいうんだなぁ!あったかいし…これなら、だいじょう、ぶ…」
うそ。すごい速さで寝ちゃったんですけどこの人!
「隙だらけにもほどがあるでしょ…?」
早々に変化をといたのは、布団を猫にかぶせることに集中しすぎて背中がはみ出ていたからだ。風邪引いちゃうってこれじゃ。
一応念のために猫耳と尻尾は残しました。これで適当に誤魔化そう。
ぴったりくっついたらやっぱり寒かったんだろう。無意識に抱きついてきた。
「へへ…あったかい…!」
…もっと色々してあったかい所か熱くしちゃおうかと思ったのは秘密です。
しっかり抱きしめてうなじの匂いもかいだし、ちょっとキスマークとかも付けてみたし、ついでに…キスもしておいた。
「うー?んー?」
「にゃあ」
「へへ…」
ふにゃりと笑みくずれる人は今まさにおいしそうに俺の目の前に転がっているわけで。
「んー?」
このままペロッといってもいいんだけど、疲れてるみたいだし起きてからにしようか。
しっかりくっついてまぶたを閉じた。
…ちょっとだけ下脱がしたりはしちゃったけどね!
*****
おきてから案の定悲鳴を上げて驚いたイルカせんせを抱きしめたまま放さず、ちょっとあほなイキモノのフリをしてにゃーって鳴いたら泣かれた。
大丈夫ですよーって台詞は…多分俺が壊れたと思ったんだろうなぁ。
術とか何とかいいながら資料をあさり、膝に懐く俺を今でもせっせと撫でてくれる。
そして俺はちゃんと猫らしくじゃれ付いたり擦り寄ったりしている。
やっぱりこの人いい人だ。…もう逃がさないし。
「あー…くっそかわいい!ホンモノの猫だったらいいのにな」
予想外の方向から落ちてくれそうだ。
この人が俺の物になるまであと少し。
武士の情けとやらで着せてもらったパンツ(イルカ先生着用済み)一丁ですりよりながら、とりあえずほくそ笑んでおいた。

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適当。
偽猫はたち悪い。

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