春、とある男の月並みな別れについて(適当)

月並みな話だが、春が来る前に恋人と別れた。
バレンタイン間近のある日、呼び出された先で待っていたのはチョコレートじゃなく別れの言葉だったのだ。
「好きな人ができたの」
そう言って、少しの気不味さも見せずに微笑まれたら、流石に引きとめる気にもなれなかった。
俺がみたことがないくらい明るい迷いの無い笑顔だった。
俺じゃ彼女をそんな風に微笑ませることができなかったのだから…諦めるしかないだろう?
相手が高名な上忍だったからというのは確かにあったとしても、それよりなによりこちらを振り返ることもせず、軽やかに男の元に駆け寄った彼女に別れる以外に何が出来たというんだ。
ここまで同じ男として比べる対象にならないほどだったってことを思い知らされて、これ以上醜態をさらす気にはなれなかった。
…お幸せにとまでは言えなかった。言えるほどの時間をくれなかったとも言うが。
「カカシ!」
男の胸に飛び込んでいったであろう彼女をそれ以上みていることができなくて。
…早く忘れようと背を向けた。
それなのに何故俺はこんな目に合っているんだろう。
「やっあぅ…!い、ぁあ…!」
彼女が飛び込んだはずの腕に捕らわれて、獣の姿勢で貫かれているのは…彼女ではなく俺だった。
「やっと、別れてくれたんだもん…もう絶対逃がさない…!」
「ぁあっ、や、め…っ…ああ!」
男は興奮した様子を隠そうともせずにせわしなく、餓えた獣の必死さで俺を貪る。
どうしてこうなったんだ?
たしか…歩き出してすぐに…。
「あの背中、サイコーだった。後でアンタを返せとかぐだぐだ言われないように、あの女も適当にかまってやるつもりだったけど、相手なんてしてられなくなっちゃった…!」
「な、に…!?」
分からない。何を言っているんだこの男は?
背中…確かにこの男に背を向けた。
里内でこんなケダモノ染みた行為を強いられるなんて思いもしなかったから。
「やっと一人になってくれたんだもん。も、嬉しくて我慢できない…!」
「ひっ…奥、あ、ぁ…!
熱くぬめる何かが出し入れされるたびに、ぐちゃりと音を立て、滴る生暖かい感触が太腿を伝うのが分かる。
信じられないほど奥に入り込んだそれが、幾度も俺の中を汚した証拠を溢れさせているのだ。
「ごめんね…意外とあの女しつこいんだもん。待ってられなくなっちゃった」
「離せ…っ!」
口づけに背が震えるのは快感のせいだ。
どんな手管を使ったのか、この男は俺の快感を引き出すコトに余念がなく、つながる時に痛みすらも上書きされ始めている。
ごまかしようがない方法で屈服させられて、それすらどうでもよくなるほど行為が激しくて。
「全部俺だけでいっぱいにしてあげる」
言葉通り中を満たす熱を感じながら、俺は理性を手放した。
*****
息が苦しい。
「ん…?おきるの?まだ寝てよう?」
散々ヤった。途中から発情期の獣のように腰を押し付けあって果てて、もうどれくらいつながっていたのか分からなくなるほどに互いを貪った。
…目覚めたのは男のせいだ。
ぎゅうぎゅうと俺を締め上げるように抱きしめて離さない男の腕に、噛み付いてやりたい。
「離せ。…アンタ彼女はどうしたんだ…!」
こんな風に…突然理不尽な淫行に散々励んでいるヒマがあったら、任務の一つでも片付けてくれないだろうか。
傷心の痛みさえ打ち壊すほどの快楽を興す行為に、ここまで勤しむほうが馬鹿げてる。
「好きですって言ったから、本気?ってきいたよ。ちゃんと。で。本気だっていうから、ありがとうっていって、イルカ先生さらって来ちゃっただけ」
どうしてそうなるんだか訳が分からない。
「なんでそうなるんだ…!」
「あの女がアナタをいらないって言い出すのをずっとまってた。俺が欲しくてたまらないのに、あの女は当然って顔しててあなたの隣に居座って、俺の方がアナタがすきなのに!」
言い募る顔は真剣そのものだ。
「…アンタ、彼女に何をした」
「なにもしてない。ただ俺は…ずっとアナタを見てて、それをあの女が勘違いしただけ。…ま、気付いてからちょっとだけ煽ったかもしれないけど…あんな女より俺の方がずっと…!」
「ぐえっ!…アンタ力加減位出来ないのか…!?」
怒鳴りつけたら泣きそうな顔をされた。
「だって…好き。俺はイルカ先生じゃなきゃだめなのに、あんな…イルカ先生じゃなくてもいい女に取られるなんて…!」
「はぁ…」
掻き抱く腕の強さに恐怖よりもときめきを覚える辺り、俺も随分と節操がないということだろうか。
それで処分されるのが俺だとしても、絶対に殴ってやろうと思っていたのに。
あの瞳が。俺だけを射抜く瞳がいけない。
…この人なら俺を置いていかないかもしれない。
そう思ったら、雄としての矜持より本能より、俺の中のあの大災厄の日…炎の海に置き去りにされたままの子どもが答えていた。
これが欲しいと。
「イルカせんせ。好きです」
「…どこにも、行きませんか」
「あの女みたいにほいほい浮気なんてしない。あなた以外要らない」
そういえば何度か喧嘩になったっけ。でももういいんだ。
「おいてっちゃだめですよ?」
そういったら俺を締め上げる腕は力を増し、経験もないのに散々蹂躙されて感覚が遠いそこがくちゅりと音を立てた。
「おいてかないから…ずっと俺のモノでいて」
口づけが落とされて、その瞳のまっすぐさに胸が痛んだ。
この人の欲しがる物を与えることなど出来ないかもしれないのに。
でもきっと俺たちは幸せだ。
「俺をあげるから、絶対どこかにいったらだめですよ」
そっと儀式のように交わした唇が、あれだけ散々つながったときよりもずっと、奥深くまでこの人と結び付けられた気がしたから。




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適当!
眠い眠い…。
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