かさ地蔵(適当)

パラレル注意。後一回くらい続くはず。

雪深い山の中、白く塗りつぶされた小道を一人の男がゆっくりと歩んでおりました。
男の家は村のはずれの山奥にあるのです。
ほそぼそとした畑とそれから山の恵みを集めて暮らしており、時々は里へおりることもありましたが、独り者の男にとっては人里はなれたところに住まうことはさほど困ったことでもありません。
ただ寂しいと思うこともありました。
両親が先立ってから、男は長らく一人で生きてきたからです。
真面目で優しい男でしたから日々を暮らすことにも一生懸命で、体の動かない老人の手伝いや、男手が必要な村人にも気軽に手を貸してきました。
とはいえ誰も寄り添ってはくれませんでした。
真面目で優しい男は、そういった意味では不器用でもあったのです。
村の娘たちはわざわざ村はずれの不便な家に嫁ぐのを嫌がり、お人よしの男を嫌いこそしませんでしたが連れ合いに選ぶこともありませんでした。
独り身でいることを心配する村長が縁談を持ち込もうとしたこともありました。
随分と幼い頃に二親を失って、それにめげずに一人で生きてきた男を殊更心配していたのです。
そんな優しさに、勿論男も気付いていました。
とはいえ細々とした暮らしを好む男には、自分の畑を増やすほどの余裕もなく、今となっては唯一の形見ともいえる家を捨てることもできませんでした。
優しい男は山を切り開くよりは、山の恵みを受ける事を望んだのです。
「近くに川だってあるから井戸でわざわざ水汲みなんてしなくていいし、魚だってとれる。山に入れば食料だってこまらない」
男はそう言って住まいを変えることをしませんでした。
一人で気ままな暮らしをするのも悪くないのだと訴えた男に村長は渋い顔をしましたが、男の必死さについに折れ、一応今のところはそっとしておいてくれています。
勿論男もそれに安堵しました。心配をかけてしまうのが辛かったのです。
でも、寂しさは相変わらずそこにありました。冬ともなれば余計に。
皆扉を固く閉ざして寒さを防ごうとするので、村人と触れ合うことも減ります。
男は人の温もりと言うものを忘れかけていました。
「寒いなぁ…」
もう一つ、困ったことがありました。
通いなれた村への道ですが、ついでに薪を拾って帰ろうと山に踏み込んだ途端、吹雪に巻き込まれてしまったのです。
雪を掘ってやり過ごしたものの、道がわからなくなってしまいました。
慣れ親しんだ山も、こうなると別の場所のようです。
山は恵みを与えてもくれますが、ひとたび牙を剥けば人などあっという間に飲み込まれてしまいます。山に住む男はそれを良く知っていました。
吹雪がおさまるまでは生きた心地がしませんでしたが、雪から這い出して外を見ると、目印となるひときわ高い木はなんとか遠くに見えるので、幸いそれほど道はそれていないようです。
安堵と共につかれも感じましたが、男は足を踏み出します。
「この程度で済んでよかった。あのまま吹雪いていたら危なかったもんな」
男は生来暢気な方です。
ですが山で暮らすには用心深いことが大切だと知っていました。
落ちていた枝を杖にして、ゆっくりと雪に足を取られぬよう歩きます。雪にうずもれているところになにかあっても気付けるようにするためです。
こんな所で村の猟師が仕掛ける罠にかかったら、たちまち凍えて死んでしまうことでしょう。
雪に隠れた沼もあるかもしれません。慎重に歩く必要がありました。
そうしてしばらく歩いて、もうしばらく歩けば元の道に戻れると安堵したときのことです。
「あれ?お地蔵様だ」
雪に半ばうずもれるようにして、お地蔵様が立っていました。
少しばかり変わった形をしていて、さっきまでの吹雪のせいでずれてしまったのか、片目を隠すように頭巾のようなものがかぶさっています。
そしてその瞳を跨ぐように深い傷が刻まれていました。
古びたお地蔵様に刻まれたそれに真新しさはなく、はじめからあったように馴染んでいます。
どうやら相当に古いもののようでしたが、それをみた男はなんとも言えず悲しい気持ちになりました。
「痛そうだ…。それにあなたも、一人なんですね」
どういう謂れでここにあるのかもわからないし、思えば我が家からそう遠くもない所にあるというのに気付きもしませんでした。
それが酷くさびしく覚え、また雪に飲み込まれそうな様子にも胸が痛んだ男は、そういえばと頭にかぶっていた傘を思い出しました。
「せめてこれをかぶっていればこれ以上雪が頭にあたらないよな」
冷え切った中で怪我をしたように傷ついたお地蔵様に、少しだけでも心づくしをと、男はそう望んだのでした。
雪を払い、悴む手に息を吹きかけながらせっせとお地蔵様の周りをきれいにします。
「こうして行き合ったのも何かの縁だ。簡単な屋根でも作ろうかな」
そんな事を呟きながらある程度綺麗にして、お地蔵様の姿がはっきり見えるようになると、先ほどまでとはみちがえるように美しく見えました。
ほんの少しですが喜んでいるようにも思えます。
最後の仕上げとばかりにまだほんの少しだけぬくもりの残った傘をかぶせようと男が地蔵に手を伸ばしたとき。
「うわっ!?ととっ!」
雪で足場が緩んでいたのかもしれません。ぐらりとかしいだ地蔵が男に向かって倒れこんできました。
幸いなんとか受け止めることができましたが、このままではすぐに同じことになるでしょう。
何せ回りは雪だらけ。これから冬が深まっていくうちに、もっと沢山の雪が降ることもあるはずです。
それを防ぐものがなくてはどうしようもありません。
「よし!」
男は背に担いでいた薪を降ろすと、代わりにお地蔵様を背負いました。
もちろん直接縄をかけるなんてことはせず、薪を包んでいた菰で丁寧に包んでからです。
「雪が止んだら…ここにお堂を作るまでは、うちにいてもらってもいいよな?」
そう一人ごちて、男はもう一度歩き出しました。
雪で冷え切っているはずのお地蔵様が少しばかり温かいように感じるのを不思議に思いながら。

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適当。
かさ地蔵風味。
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