かさ(適当)


この時期は傘の忘れ物が多い。
雨が降れば傘を差すことはしても、それを持って帰るってことまでは覚えていられない子どもが殆どだからだ。
宿直の見回りをしていた今日もご多聞に漏れず、校庭の端に置忘れられた傘がぽつんと残っているのを見つけてしまった。
こんな時間だ。もうとっくに本人は帰ってしまっている。名前すら書かれていないこの傘の持ち主を探すのは、明日でもいいだろう。
空は降るように星が輝いている。
雨続きで外で遊べなかった子どもたちが、突然の晴れ間に羽目を外すのもわかる気がした。
「イルカせんせ。そんなかわいい傘使ってたの?」
まるで気配に気づかなかった。
とりあえず宿直室に運ぶつもりで持っていた傘は、いつの間にか男の手の中で広げられている。
子ども用のそれは上背のある男が持つとことさらに小さく見えて、少し笑ってしまった。
「それ、忘れ物なんです。さっきそこでみつけたもので」
「ふぅん?」
何が珍しいのかくるくると傘を回した上忍は、ひとしきり弄り回して満足したのかクルリと器用に傘を回して返してきた。
まるでおもちゃのようだ。
それにしても、こんな時間にこんな所でこんな人に会うとは思わなかった。
何かと機密に近い所にいる人だからその理由を聞こうとは思わなかったが、不思議には思った。
火影様に呼び出されでもしたんだろうか。
受付所とアカデミーの距離は近い。こんな夜中でもこの人なら呼び出されることもあるだろう。それだけの実力がある人だから。
「では、俺はこれで」
見回りはここで終わりだ。
宿直室にもどれば茶位は出せるが、狭苦しい部屋に上忍をわざわざ案内するよりも、家に早く帰ってもらったほうが居心地もいいだろう。
会釈をした俺に、なぜか上忍が考え込むような仕草をした。
「ね。イルカ先生。一緒に行ってもいいですか」
「は?」
「だって、その傘先生のだったら借りようと思ったけど違うみたいだし、雨宿りさせてよ」
梅雨時にしては驚くほど晴れているというのに、この人に言われると本当にこれから雨でが降るような気がしてきた。
だがまだ雲も出ていない。この人の足なら急げば家に帰ったほうが速いはずなのに。
かといって、帰れというほど鬼でもない。怪我でもしているのかもしれないと思うと無碍にも出来なかった。
「狭苦しいですよ?仮眠室ですし」
「…それは好都合」
「は?」
「ん。なんでもないです。ただ…ちょっと寒いかなって」
「なっ!急ぎますよ!?」
怪我かそれともチャクラ切れか。慌ててつかんだ手の冷たさに焦る。
半ば引き摺るようにして宿直室に急ぐ間も、このまま倒れるんじゃないかと気が気じゃなかった。
「イルカせんせ。ごめんね?」
謝罪なんかされても却って胸が痛む。弱っている所をみせたくないのか、やけに飄々としているのにじわじわと不安が広がって。
「布団!お茶!ほら寝てなさい!飯は?食えますね?ラーメンですけど!」
生徒だってここまで乱暴に扱わない。ましてや男は上忍だ。
そう気づいた所で後の祭りだというのに、布団に押し込められて目を白黒させている上忍に我に返って顔から火が出そうになった。
「ありがと」
くすくす笑う男は気だるそうに身じろぎしながら、笑っている。
…機嫌を損ねたわけじゃなさそうだ。
「…布団はそのせんべい布団しかないんです。飯はもうちょっとしたら出来ますから、食べたら寝てください。俺が帰るとき起こしますから、送ります」
放っては置けない。
こんな風に弱っている人を…それを表に出せないであろう人をこんなに雑な看病しか出来ないことが歯がゆかった。
「…どうしよ」
「いいから寝る!」
「はいはい。…ごめんね?」
「…謝るな。とっとと休んでください」
「ふふ…じゃ、あとで」
瞳を閉じた男に少しだけほっとして、買い置きのラーメンを作るためにコンロに火をつけた。湯が湧くまでの間に、少しでも休めればいい。
「せめてねぎだけでも買っときゃよかった…」
眠る男に目をやると、何故か笑っていて。
妙にほっとした俺は、男の意図に気づけなかった。
「夜這い失敗かな」
ラーメンをすすりながらこぼされた一言に、驚くまでは。
「は?へ?え?」
「あはは。やっぱりわかってなかった?…ま、そこも好きなんだけど」
「へ?ええ!?」
「今日は何にもしないけど、一緒に添い寝位はして欲しいかな。ちょっとガタ来てるのはホントだから、抵抗されたら何も出来ないし」
「アンタなにやってんですか!?」
好きってなんだとか、添い寝ってなんだとか、それ以上にそんなに弱ってるくせに何やってるんだとか。
ぐちゃぐちゃの頭の中に、綺麗に笑う男の顔が広がって、もっと混乱させられてしまった。
「ご馳走様」
それはラーメンのことなのか、掠め取るように奪われた唇のことなのか。
「なんなんだ…」
「寝てから考えましょ?」
「アンタが言わないで下さいよ…。ね、ねますけど!」
「ふふ。じゃ、おやすみなさい」
手を引いて、何故か当たり前のように抱き込まれて、さっきの冷たさが大分よくなっていることにほっとしてから、その人肌の心地良さに俺はとっとと意識を手放した。
…弱っている姿を晒すこと自体が作戦だったと知って、後で男をなじることになるのだが、弱弱しい姿を晒すくせにふてぶてしい男のにんまりと笑う姿に誤魔化されて。
今日もなんだかんだと一緒にいる自分が、結局は馬鹿なのかもしれないなぁなんて思ったのだった。


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適当。
中忍が天然過ぎる感じでひとつ。
ではではー!なにかご意見ご感想等ございますれば御気軽にお知らせくださいませ!

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