からめ手(適当)


 記憶にない痛みを不可思議に思いながら目を覚ました。
 昨日は、久しぶりに任務に出て、とはいえアカデミー教師に振られる任務なんて長期休暇中でもなければその日のうちに終わるものばかりだから、御多分にもれずうっすらと山の稜線が赤く染まるころには里に戻ってこれていた。
 一応気密性の高い信書の伝令ではあったが、敵襲らしい敵襲もなく、ちょっとした小競り合いも適当にトラップで足止めしつつやっつけて、少しばかり忘れ始めていた緊張感ってものを味わった。
忍であることを忘れたつもりはないが、忍らしさを失っていないかと言われれば首をかしげてしまうのも確かだった。そんな時に舞い込んだほんの少しだけ厄介な任務は、むしろ気づかないうちにため込んでいた鬱屈した気分を晴らしてくれた気さえした。
内勤はどうしたって戦闘があるような任務は少なくなる。修行をしない日なんてないし、防衛のための訓練だって欠かさないが、それでも…常に外に出ている上忍に比べれば、勘も鈍るし動きも劣る。
最近特によく目にする上忍が、普段のちょっとした行動にすら隙がないのをみるにつけ、罪悪感と、それから劣等感を感じていた。
大した任務じゃなかった。でも、俺にとっては改めてまだ忍でいられるという実感をくれた。
報告書を同僚に手渡すのも新鮮で、向こうもイルカがそっちにいるのは珍しいとかBランクかよとか好き勝手言ってくるからそのままお互いに軽口を交わして、そうだ。あの時だ。
外に出るのも悪くないよなあなんてのんきなことを考えていたのがいけなかったのかもしれない。
 珍しくパッと見ただけでわかるほどに不機嫌そうな上忍に捕まったのは。
 それが知り合いだったのもあって、ひどくうろたえたのを覚えている。普段は飄々としていてつかみどころがなくて、どちらかというと静かな人なのに、昨日は妙に饒舌だった。
 何してんのとか、お気楽なあんたも任務に出るんですねとか、明らかにこっちを挑発するセリフばかりで、思わずぶん殴ってやろうかと迷うほどだったが、あいにく今日の当番は一人だけで、同僚まで巻き込んじまう訳にはいかない。
 それに、言ってる内容にしちゃ、表情が変だった。
 怒ってるってのはわかるが、それだけじゃない。拗ねてるってのに近いか。
 すっかり委縮しきった同僚のためにも、このままここで騒ぎを起こすわけにはいかなかった。
「表出ましょう」
「いーけど。しらないよ?」
 そんなやり取りの後、同僚が大慌てで止めるのも聞かずに外に出て、それから。
「うぅ…?いてぇ」
 何があったんだか思い出せない。とりあえず全身が痛むが特に人に言えない部分がだな。
 見覚えのある風景からして自宅のベッドの上であることは確実だが、どうやってここに帰ってきたのか記憶がさっぱりない。欠片もない。
「おはよ」
「えぇ?あ、おはようございます。…え?なんで?」
 何で上忍がいる?なんで?俺んちのだよなここ?しかも同じ布団って…ちょっとまて?何で俺もこの人も服着てないんだ!?
「しらないよって言ったじゃない」
 昨日とは打って変わってご機嫌ですと言わんばかりの笑顔だ。この人こんな顔してたんだなぁ。
 …何が起こったのかは自分のために追及しないほうがよさそうだ。
「…飯、食って、仕事」
「ご飯は用意しといたから。歩けないんだから仕事は無理でしょ」
「は?いえ。そんなはず…うぐ!」
 いてぇ。なんだよ。なにしてくれてんだこの上忍。腰が痛い。骨でもずれてんじゃないだろうか。術でふっ飛ばされて岩にぶつけられたときだってこんなに痛かったことないぞ?
「はい。どーぞ。お風呂は…おなかが落ち着いてからね?」
「えーっとその、お構いなく」
 穏便に混乱しつつもお断りしたはずの言葉は、どうやらこの男に通じそうもなかった。
「そーね。これからずっと一緒にいるんだし?もっといちゃいちゃしてからにしよっか」
 抱きしめられて感じたのが嫌悪感じゃなかったことが驚くほど俺の精神にダメージを与え、それから。
 処理しきれない事態に固まっているうちに朝っぱらからヤられた挙句、鮮明な記憶にうめいている間に根回しまで終わっていたって言うのは、普通に怖い話に入るんじゃないだろうか。
「ま、もう俺のだし、我慢してもいいんだけど。ほかの男とあんまり話してるとやりころしちゃうよ」
「…勘弁してください…」
 そしてなにより、さわやかな笑顔の悪魔は、未だに俺の家に居座ってるって言うのが一番怖い話なのかもしれない。

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適当。
まもたせ。

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