しろとあか(適当)


 壁も机も椅子も、全てが真っ白い部屋の中、同じく白い箱に掛けられた真っ赤なリボンだけが鮮烈で、胸元に掲げるようにしてそれをもって立つ人の黒い瞳が、やわらかく笑ってくれているはずなのにどこか遠い。
「おたんじょうびおめでとうございます」
 確かな喜びで彩られた言葉が、嬉しいのに違和感が酷い。どうしてだろう。
「イルカせんせい。どこか怪我でもしたの?」
 その言葉が零れ落ちてから気が付いた。そうだ。この匂いだ。嗅ぎなれた鉄錆臭い。…命が失われるときの匂い。
 繰り返し毎年訪れるこの世に生を受けたその日にも、いつだってこんな匂いを嗅いでいた気がする。
 罪深いと、糾弾される代わりに遠巻きにされることにももう慣れてしまった。
 でも、この人は違ったから。俺がどんな人間であろうと真っすぐぶつかってきてくれたから。
 欲しくて欲しくて仕方がなかったんだ。
「うけとってください」
 あかいりぼん、あかい、におい。
 これをうけとりたくない。でもうけとらなきゃ。だってこのひとがくれたものだから。
「ありがとう」
 箱は思ったより重く、それからほのかな熱を放っている。
 ああ、やっぱり。
「あけてみてください」
 鼻傷をかきながら照れたように笑う人に促されて、震える手でリボンの端を引いた。
 あかいそれがゆかにおちて、なかにあるもっとずっとあかいそれがみえてしまった。
「しんぞう」
「うけとってくださいね?」
 これで俺の全部があなたのモノになるんですから。
 笑顔と共に手を取られ、箱で隠れていた胸元の風穴に、かつて共に戦った少女を自らの手で殺したときと同じようにぽっかりと穴をあけたそこに導かれる。
「…それなら、いらない」
 そう言った途端、もう手遅れなんですよという絶望的な囁きを耳元に貰って、同時に倒れ込む体が疾うに息していないことに気づいて声もなく叫んだ。
 喉が裂ける痛みよりも、失う痛みが、取り返しのつかないことがおこってしまったことへの恐怖が荒波のようにすべてを飲み込んでいく。…ああ、やっぱり手を伸ばしちゃいけなかったんだ。
 眠るように目を閉じて、二度と動かない体に身を寄せて、すぐにいくからと告げて、鈍色に光る愛用の…命を狩るための道具を正しく使うために引き抜いて、そして。

「わあぁあ!なにやってんですか!」
「ああ、イルカせんせい。まっててくれたの?」
「は?いや帰りが遅くなっちまってすみません!ほらケーキ!さんまもあるんですよ!なんでこんなとこでクナイなんか!」
「こんな、とこ?」
 そういえばここは白くない。あの部屋はどこもかしこも白くて、毒々しい赤が贈られた箱からあふれ出してそれを染め上げて行って…。
 もしかして、夢?
「寝ぼけてたんですか…。あぶねぇなあ。もっと早く帰ってくりゃ良かった」
「ううん。だって今日仕事でしょ?」
 そうだ。今日は早く帰りたいけど残業になりそうだって、朝からしょぼくれてたこの人を見送って、日帰りで行ける気軽な任務…つまりは最速でって依頼の暗殺を片づけて、家に帰って、誕生日なのにこんな匂いをさせてたら、イルカ先生が悲しむかもしれないと思って普段より入念に風呂に入って、それから多分、寝てしまった。
 時計をみれば確かに定時上がりとはいかなかったみたいだけど、普段の残業の時間から考えると格段に速い。…多分、俺のために。
 それなのに寝ぼけるなんて上忍にあるまじき真似をした挙句、驚かせて迷惑をかけてしまった。なにをやってるんだろう。俺は。
「…カカシさん。ちょっとこっちきなさい」
「え?ああ、はい」
 手招きする人に誘われるままにベッドの端に体を寄せる。大好きな人からは、あの大嫌いな匂いはしない。
 よかった。…よくはないんだけど。
 ほっとした途端に苦しいくらいにぎゅうぎゅうと抱きしめられていた。
「あんた、自分で泣いてるの気づいてないでしょう?」
「え。あ。ホントだ」
「ホントだじゃないでしょうが!ああもう!しょうがねぇな!」
 抱きしめる力が強くなった。ちょっと苦しいけど嬉しい。イルカ先生に包まれて、あれだけ罪深い真似をした後なのに、最高の憩いの時を過ごしている。
 この人から奪うだけ奪った愛情に溺れて。
「疲れてるから余計なこと考えるんですよ。誕生日、しっかり祝いましょう。それから風呂入って、その」
「えっち、しましょー」
「何急に元気になってんですか!?」
 股間の盛り上がりに気づかれてしまったらしい。だってしょうがないでしょ?好きな人に抱きしめられて、こうならない方がおかしい。…つながりたかった。この人が確かに生きていて、俺のそばにいてくれることが夢じゃないと確信したかった。
「ケーキよりイルカ先生が食べたいなー?」
「ふ、風呂と飯が先です!ちゃんと食わないとその、あー…し、しませんよ?」
 これはある意味お誘いか。自分で言っておいて真っ赤になって照れてるイルカ先生はかわいすぎて腰にクる。
 赤なら、こういう赤がいい。
「好きですよ」
 あんな夢を見たのは、俺とこうなってから何かと面倒ごとに巻き込まれていることを知っているからか、それともこの人が手に入れられたはずの家庭を奪っていることに対するうしろめたさか。
 それとも、あれが俺のせいでもたらされる未来なのかもしれない。 「うぅ…もういいから風呂だ風呂!」
「一緒に入りたいんですけど、だめ?」
「…誕生日特典ですからね?今後は駄目ですよ?」
 釘を刺しているようでいて、結局、この人は俺に甘い。
 優しくなでてくれる人に甘えたまま、手をつないで風呂場に急ぐ。
 罪深い己に与えられた分不相応な幸福に、今だけは溺れたいと思った。

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カカ誕ホラー風味
後ろ向き上忍の誕生日。

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