片恋の行方(適当)


「なんか変なんだよねぇ?それも俺に対してだけ」
 愚痴と世間話の混じったようなそれに、腐れ縁の連中は口々に普段の素行が悪いからじゃないの?とか、あいつは晩生だからエロ本持ち歩いてるヤツ見てるだけでも恥ずかしいんじゃねぇのか、あいつは気持ちのイイ男だぞ!どーんとぶつかってみろとか、好き勝手なことを言ってくれた。
 予想通りすぎる反応はともかくとして、一応はちゃんと話を聞いてくれただけ運が良かった。こいつらなんだかんだいって一応優秀な上忍だしね。紅は幻術使いだけあって微細な心の動きを察する能力が高いし、アスマもパワータイプのようでいて父親譲り…っていうと怒るけど、知略にも長けている。それにガイはちょーっと天然っていうの?一切空気読めない無神経さを持ち合わせているが、その野生の勘はすさまじいものがあるからな。好奇心が原動力だったとしても、何かしらの方策のヒントは得られるだろう。
 で、そこまでならよかったんだけど、明らかに会話の外にいたヤツらまで反応してくれちゃったんだよね。面倒くさいことに。
「写輪眼のカカシに楯突くなんて生意気だな。そんな中忍ぶちのめしちまえばいいだろうが」
 そういう男は一応は上忍になれたといった程度の実力で、実際のところそれは能力よりも家名によるところが大きい。図体はでかいが頭の中身は権勢欲でいっぱいなのか、やたらと俺や周りにいる連中に馴れ馴れしい口の利き方をしてくるヤツだった。
 …うっかりしてたねこりゃ。それに場所も悪かった。
 あの人の耳に入るのは逆に気を遣わせそうだし、外でってなるとうわばみ姐さんとヒゲ熊と筋肉青春馬鹿って、最悪の組み合わせと財布と店の酒が空っぽになるまで飲む羽目になることがわかってたから、つい。  普段なら俺がそういうのを嫌うことを知ってる連中ばかりだし、そもそも上忍やってたら、他人の愚痴を情報源にすることはあっても、こんな頭の悪い方法は選ばない。
 ちょっと前だって、うちの部下を卒業させたってだけで、あの人にちょっかいかける連中がいたから、わざとらしく元担任を気に入ってるってことを話題に出したりもした。それを知っていれば、こんな馬鹿な真似をしでかすはずもない。
 ま、こいつ馬鹿だしね。しょうがないか。
「うーるさいよ。ねえ。お前、俺にそんな口利いていい身分なの?」
「なっ!」
 逆上して赤黒くその皮膚を変色させた男が、俺になにやら言い返そうとした途端、そいつはすでに床に転がっていた。
「そうよー?うちの子たちの担任にちょっかい掛けるなんて、たくらむだけでも重罪だわよ?わかってるんでしょうね?」
「あー面倒くせぇな。だいたいよぉ。こいつがわざわざ話題に出してんだから、気に入ってるってわかるだろうが」
「おお!修行か!受けてたつぞカカシィ!」
 さすが悪友たち。わかってるね。…最後の一人はあいかわらずあさってっていうか、サクラ曰く天然っていうらしいけど、そこが持ち味でもあることだし、しっかりターゲットにダメージを与えてるみたいだからいいことにしよう。
「修行はしないよ。…ね、これの後始末、頼んでいーい?」
 お願いごとは後輩ならともかく、頼んだら怖そうなこいつらに頼ることなんて滅多にない。でも今はかわいいかわいい自分のところこ下忍の担任を守るためでもあることだし、俺の愚痴もそろそろ聞き飽きたころだろうから、おそらくはそうそう吹っかけてはこないだろう。
「骨は拾ってあげるわよ」
「無茶なまねすんなよ?」
「うむ!青春か!この俺に任せておけ!きっちりこの男と青春について熱く語りあっておくぞ!」
 足蹴にされている間抜けな男は、最後の台詞で真っ青になって震えだした。馬鹿だねぇ。俺もだけど、ガイが盛り上がったときのしつこさなんてわかりきってたでしょうに。
馬鹿すぎてかわいそうになりかけたけど、こんなのにかまってられない。
「じゃ、行って来まーす」
 後ろ手に扉を閉めると、扉があるにもかかわらず悲鳴と何かを殴ったような重い音が青春パワーだって台詞と共に響いたから、一応ご愁傷様と呟いておいた。
*****
「イルカ先生…あの」
「カカシさん!ちょうどよかった!」
 どうして最近俺の目を見た後速攻そらすのかとか、虚空を見つめてへらへらしてるから心配になって声かけたら嘘がバレバレのうろたえっぷりを披露しながら、だいじょうぶです!ってやたらとかすれた声で言ってたけど何があったんですかとか、聞きたいことはいっぱいあったんだけど、どうやらイルカ先生の方も俺に用があったらしい。
 任務なら事情を聞いた後にしたいんだけど、この分じゃ無理そうだ。
 何せ受付所の衆人環視の元で、痛いくらい腕をつかまれているんだから。
「あの?」
「秋刀魚となすの味噌汁がお好きでしたよね?」
「え、はい」
「そんじょそこらの店より新鮮なのを手に入れたんできてください!うちに!」
「え?え?」
「…お誕生日おめでとうございます」
「…え?」
 そういえばそうだったっけ?完全に忘れてた。そもそも普段から誕生日なんてものを気にしていないし、祝い事事態にも縁遠いんだから当然か。
 知ってたんだ。それで祝ってくれようって。…あーあ。この人、やっぱりホントに何も気づいちゃいない。
 わかってたけどね。この人がとてつもなく色恋沙汰に疎くて鈍いってことも、こっちがいくら好きだって、普通に女と結婚して子供作りたいとか言ってるこの人から見れば、俺なんかそういう対象にすらなれない関係だってことも。
「あれ?違いましたっけ…?」
「いえ、あってます。あってるんですが」
 ってなに?どういうこと?秋刀魚は好物だけど、何でそれを知ってるの?
 期待なんかしたくないんだ。いつだって裏切られてばかりだから。
 …でも、そういうのをおいておいても、祝ってくれるその気持ちがもらえるだけで、胸の奥に居座った獣が、涎をたらして喜んでいるのを感じる。馬鹿みたいに尻尾まで振って、ひとかけらだけでも餌を、この人からの情をもらいたくて、張り付いている。
「よかった!へへ!プレゼントは家に帰ってからお渡ししますんで!」
「…ん。ありがと」
 完全に事態を把握できてるかどうかっていうと微妙だけど、とりあえず俺が何かやらかしたかもってのは考えすぎだったらしい。結構悩んでたんだけどねぇ。そのくせ不思議と腹も立たないのは惚れた弱みか。
「お?ちょうどいい時間ですね。いきましょう!」
「そーですね」
 とりあえず、今日はおとなしく祝われておこうか。一度だけかもしれない好きな人に祝ってもらえる誕生日とやらを堪能するために。

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適当。
周囲はやっと片思いこじらせ馬鹿ップルがくっつくのを察知してたりして。

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