お誕生日攻防戦1(適当)



「ちょうだい?」
「えーっと。何をでしょう」
笑顔の男は得体が知れない。
なぜってそりゃ顔を半分布で覆って隠してる上に、妙ににこやかだからだ。
顔見知りって訳でもない。
…それによくよくみれば服が。
暗部の知り合いなんていない。あるいは気付いていないだけかもしれないが、確実に今回の件には関わりがないはずだ。
下手に答えれば後が恐い。つまりそれとなく受け流し逃げるのが多分正解だ。
「だめ?」
ほらな?答えない。
欲しがっているのもがきっと後ろ暗いものに違いない。
もしくは、俺の命とかそういう…欲しいっていうこと自体がおかしいものなんだろう。
油断も隙もねぇ。
任務帰りの上忍に嬲り倒されたなんて恐ろしい噂もあるもんな。実際に経験したヤツがいるのかどうかは怪しいけど。
…この男も二の腕に刻まれた印は木の葉だが、油断はできない。すこしも。
少なくとも中忍以上。この気配の薄さから考えると上忍である可能性が高い。
いざとなったら記憶操作されるんだろうし、一度も誰かが不自然に消えたって経験はないつもりだけど、忍が本気になったら人一人消すくらいさほど難しいことじゃない。
「…すみません。急いで帰還しろと言われておりまして」
慇懃無礼にならない程度にすまなそうなフリをして、頭を下げた。
実際嘘じゃない。俺がいないとそれでなくても慢性的に人手が不足している受付のシフトは大変なことになってるから、主任にも泣き言を言われたほどだ。
特に今年は産休と俺と同じように任務に出て傷病者リストに載っちまって復帰が随分先になったのが同時に出て、前者はめでたいことだし、前もってわかっていたから補充があったんだが、怪我人の方は補充がまだまにあってないんだよなぁ…。
とにかく、ここで俺が倒れれば受付が危険だ。こんなのに構っている暇はない。
「ふぅん?」
…どうあっても納得してくれそうな気配はないから、思い切って逃げることにした。
「それでは、失礼します!」
中忍のトップスピードなんて大したことないのは分かってる。
だがそれでも俺は中忍の中じゃ相当足が速いほうだ。
トラップ班に振り分けられる事が多くて、設置するなり全力で逃げるってことを繰り返してたらいつのまにか同期の中じゃ一番逃げ足が速くなっていた。
見た目で油断してくれてたらいいんだが。同僚や同期にはよくもっさりしてんのに早いとか詐欺だとか酷いことを言われているから、その残念な容姿がせめて上忍を引っ掛けるのに役立ってくれたらいいのに。
幸い里はすぐそこだ。
受付につくなり休暇返上で明日から代打が来るまで入れって言われそうなのは恐いけど、少なくとも見知らぬ男になんかされるよりはましなはずだ。
それこそなにをされるかほんっとーにわかんねぇからな。
大門を会釈しながら駆け抜け、目を丸くしているイズモとコテツを他所に、受付所まで全力疾走だ。
里の中でも油断できないから、滑り込むように受付所に飛び込んだ。
「お、おい!?なにがあった!」
「イルカ!助かったー!って、どうしたんだそんなに急いで」
暢気な同僚は二人とも疲れた顔しちゃいるが、ホッとした。
すでに記入しておいた報告書を手に持って渡しながら、さりげなく背後に気を配った。
俺が何も言わずに警戒していることに気付いてか、同僚も何かを察してくれたらしい。
火影直通の連絡式を押そうとしている。
「蚊帳の中に虫が入っちまって」
「…わかった」
符丁で何があったかは伝わったはずだ。
何かの中といえば里の中、虫は木の葉につくから身内を指すことが多い。
様子のおかしいのに付きまとわれてると伝わったらすぐに医療班と捕縛班がくるはずだ。敵の術でも食らってたら大事だから。
「ねぇ。用事は済んだ?」
「ひっ!」
本当にさりげなく何気なく肩に手をかけられて息が止まるかと思った。トンだホラーだ。夏だからって誰もこんなモノ呼んでねぇよ!
「も、申し訳ありません。うみのは受付のシフトがこれから入っておりまして…」
「なにぶん人手不足なものですから」
マニュアル通り笑顔で対応する二人が輝いて見えた。
こんなんで引き下がるとは思えないが、時間稼ぎにはなる。休憩の一つも取れないのはつらいけど、命には代えられない。
「そういうわけでして、申し訳ありませんが…」
「あ、火影様」
「なにをやっておるんじゃ。お主は」
…うん。わかってるさ。上忍だもんなじいちゃ…三代目は。
有事の際は気配なんて出さないに決まってる。護衛じゃなくて本人が来たってことは、それだけこの男が厄介なんだろう。
「イルカよ。任務ご苦労じゃった。夕刻の人手が足らぬでしばし手伝ってくれい。すまんのう」
「い、いえ!大丈夫です!人手不足なのは承知しておりますので!」
妙に杓子定規な言葉遣いになったのは、この得体の知れない男を警戒してのことだ。
「だめ?」
「…だめじゃ」
「えー?でもさ」
「だめなもんはだめじゃ。あと1月はあるじゃろ。他のモノを考えろ」
「ヤダ」
「…人はほいほいやりとりするもんじゃなかろうが」
「んー?じゃ、この人がいいって言ったらいいでしょ?」
「…術、薬物、虫も禁止じゃ」
「はーい」
「無体な真似を強いたら叩ッ斬るから承知しておけ」
「ふぅん。お気に入りってこの人?」
「みなかわいい里の子じゃ。気が優しすぎて少しばかり隙が多いからの。心配しとるだけじゃ」
「じゃ、がんばりまーす」
「好きにせい」
…このイキモノと知り合いなのは確実だな。ニセモノならまだしも火影様が暗部を知らないって事自体ありえないっちゃありえないが、この気安いやり取りからすると相当近しい相手に違いない。
くるりとまるで階段に出てくる生きた人形のように気配も音もなく振り向いた男が、こちらに向かって朗らかに言い放った。
「好きです。俺のモノになってね?」
「嫌です」
即効でお断りしたのは、この人が男だからとか以前に、こんな何も知らん相手にそんな子といわれても全力でお断りだってだけなんだが、どうやら納得はしてもらえなかったようだ。
「じゃ、がんばって口説くね」
「嫌がっておるじゃろうが…!」
「だってまだ1月くらいあるし、それまではいいでしょ?」
「好きにせい!無体な真似は…」
「はいはい。しませんよー」
三代目…!いっそのこと禁じてくださいって思わなくもなかったが、どうせこの人は聞きやしないだろう。
一月とちょっと先になにがあるかは知らないが、それまで耐えればいいなら耐えるしかない。
「すまんみんな…!」
「いや、いいって。その、手助けくらいならさ」
「そうだぞイルカ、無理すんなよ」
同僚の優しさが身にしみる。
厄介なことになった。その言葉が頭を幾度もよぎった。
「じゃ、またねー」
三代目と何かもそもそ話してこの場はとりあえずひきさがることにしたらしい。
油断はできないにしても、少し、いや大分ほっとした。
「イルカよ。9月の15の日を過ぎるまで油断するでないぞ。いざとなれば…コレを使え」
「は、はい!」
手渡されたのは簡易口寄せの巻物だ。すぐさま印を組んで俺のチャクラを染みこませた。コレで盗まれたって俺以外には使えなくなった。
…これって猿魔だよな。多分。たまに将棋一緒にさすこともあるけど、確か無茶苦茶強いはず。
「がんばります…!」
「うむ。気をつけるのじゃぞ」
心配する顔はいつものじいちゃんで、がんばらなくちゃなと改めて思った。
…そのせいで9月15日が何の日なのか聞きそこなったんだけどな。


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適当。
つづいちゃう早めのかかたん。
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