恋人の飼い方(適当)



「閉じ込めたいなぁって」
この人は凄まじい数の任務をこなし、尚且つ隊員の生存率もトップで、難易度の高い任務であっても冷静沈着で、常に作戦を考えてから動くような人だと思っていた。
それがどうしてこんなに馬鹿なことを言い出すんだろう。それも一度や二度じゃなく、あきれるほど頻繁に。
恋情というより執着といっていいほどのそれを、なんだかんだと俺が受け入れ手いるのが悪いんだろうけどなぁ…。
いい加減、現実ってものを見て欲しいもんだ。
俺は、かわいくもか弱くもない、どちらかといえば図太く泥水をすすっても立ち上がる…どこまでも忍だってことを。
「アンタバカですか。しょっちゅう怪我だのチャクラ切れだのでぶっ倒れてるくせに」
腹立ち紛れに正直に言ったつもりだったのに、どうやら理解できなかったらしい。
「そう、ね。…ああその間だって、誰かにちょっかいかけられたらって思うと恐い。任務にだって本当は連れて行きたいけど、何かあったら困るから我慢してるのに」
不満と不安で一杯になって、パンクしそうだってのは見てて分かる。
どうしてそんなに俺が信用できないんだという憤りを、この男には理解できないんだろうということも。
「いいですか。仮にこの部屋に…アンタが俺を閉じ込めたとします」
「窓があるし、外から見えちゃうね。閉じ込めるならもっとちゃんと鉄格子…だけじゃ心配かなぁ。壁…ううん。いっそ空間ごと切り取ろうか?結界張って、二人っきりなら」
幸せそうに、だが病んだ瞳を向ける男は、本気でそれを望んでいる。
俺を籠の鳥のように閉じ込めて、その中で飼えば、俺を独り占めできると信じているに違いない。
「そんなことしたら外を思って泣くかも知れませんよ?」
まあ正直にいうなら、泣くより怒る。
独占欲を暴走させるような馬鹿な真似を諌め、たしなめ、ついでにぶん殴って説教もするだろう。
なんだかんだと俺を閉じ込めたことでちょっとは冷静になって、ついでにふわふわに舞い上がるだろうから、一発殴るくらいの隙はあるはずだ。
そうしたらきっとしょぼくれた顔でコイツは駄々を捏ねるに違いない。
置いていかないでって顔で泣かれでもしたら…あー…まあ、その。そんなことされたらしばらくの間だけなら付き合ってやっちまうかもなぁ。
間違っても今そんなことを言うつもりはないんだが。
「泣いたってしりません。俺以外を思って泣くなんて許さない」
あーあー。怒ってるつもりだろうが、拗ねてるだけじゃねーか。
かわいいっつーかなんつーか。
…まあ馬鹿なんだよな。俺もだが。
「そんでまあ、しばらくはいいでしょう。でもアンタ任務にいきますよね?」
「…ま、そうだね。疑われて探されたら面倒だ」
これで冷静沈着な上忍と呼ばれてるってのが信じられん。
あれだけ家でも外でも俺に執着してるってのが丸分かりのこいつが、俺が不在でも任務をさくさくこなしたりしたら、あっという間に犯人がばれるだろうが。
…まあ、それ以前に大問題があるわけだが。
「もし、もしもそのままアンタが帰ってこなかったら。水はまあ何とかなるとして、食料は早々に尽きるでしょう。そうしたら、せいぜい2週間で俺は…」
「うそ」
頭のいい人だ、俺の言いたいことをすぐに理解できたんだろう。
…おかげで真っ青になって震えている。
俺を失う想像をしただけでおかしくなるのは知っていた。
そもそも告白から押し倒されるまでの流れで、切っ掛けになったのが俺の大怪我だからな。
このまま置いていかれるのかと思ったら耐えられないとか言われて、それまでいい友達だとおもってたやつにさんざっぱら犯られた方の身にもなれってんだ。
おまけにさめざめと泣かれて、好きだ好きだと囁かれ、慣れない痛みと周囲の説得にどれだけ苦労したことか。
…まあ惚れてなかったら顔の形が変わるくらい殴って、二度と顔も見られないようにどっかに逃げただろうけどな。
「うそじゃありません。まあ後追いはギリギリまでしないと思うんですよ。帰ってくるって信じたいし、ギリギリの状態になったらそこまで考えることも出来ずにただあんたを待って、きっと俺は死ぬでしょう」
けなげといえばけなげなのか。これも。
まあ性分だな。待ってろと言われたら、それにこの男のことなら…きっと本当になにがあったってずっと待ってるだろう。それこそ死んだって。ずっと。
「だ、だめ…!そんなの許さない!」
「許さないもなにも、アンタが閉じ込めなきゃいいだけの話でしょうが」
「そしたら他の男か、女か。そういうのがアンタを見つけて俺と同じことをするかもしれない」
ただの中忍の、それも美形でもかわいくもない男相手にそんなことするのはアンタだけだと何度言ったらこの男は理解するのやら。
しょうがねぇなぁ。ホントに。この人は。
「だから、アンタが生きて帰ってきて、ちゃんとこうして俺にくっついてればいいだけのことでしょうが」
「…うん」
落ち着いた、か?心配性もいい加減にして欲しい。愛されていると錯覚できるほど、俺の目はくもっちゃいない。
任務帰りの不安に俺まで飲み込まれたら、この人をひっぱりあげられなくなるからな。
「飯食って、風呂入んなさい。そしたら…あ、朝までくっついてりゃいいじゃないですか」
多少の照れは捨て切れなくて、ついつい一瞬言いよどんだ俺に、恋人は極上の笑顔をくれた。
「そうね。他の誰かが突っ込む隙もないくらい、俺が突っ込んで泣かせて、歩けないくらいしちゃえばいいんだ」
「ちょっと待て!?」
何言ってんだこの馬鹿と、怒鳴りつけるはずの背中はとっくに風呂場に消えていて、この分じゃ飯もすっ飛ばして俺を襲うつもりだろう。
風呂は…他人の血がついたままで俺に触れると、汚された気がして嫌だといってたからまあありがたいというかありがたくないというか。
飯の方が重要だ。ずっと携帯食みたいなもんばっか食ってただろうに。
ああくそ!
「飯、絶対食わせてやる…!」
それから朝までだろうがいくらだって付き合ってやるさ。意識は…どこまで保てるか怪しいが、疲れきっている自覚のない恋人だってそれは同じだろう。
「…ちったぁ俺の愛でも思い知れってんだ」
味噌汁をあたために走った俺は、大急ぎで飯をよそった瞬間に台所でおっぱじめられることなんて当然考えもせず…飯を食えと怒鳴りつけたら一応食ったが、当然のように食うに俺まで含まれることも想像もできなかったのだった。

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適当。
あいじょうたっぷりに飼育しすぎてちょっと甘えっこ。
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