「あーだるー」 「先輩…。気持ちはわかるんですが」 「んー」 「…ま、まあいいですけどね」 久々に同じ任務についた先輩は相変わらずの腕前で、ざくざくと適当に切り捨てているようにしか見えないのに一筋の傷も負っていない。 みているだけなら鼻歌交じりに散歩してるくらいの気軽さだ。傍らに犬でもいたら完璧だろう。 でも、その身にまとう空気が、空間をゆがめてしまいそうなほど淀んでいる。 不機嫌なチャクラがどろりどろりと溢れては垂れ流されて、側にいるだけで肌がひりつくほどだ。いらいらしてるっていうのが、遠くからでも多分分かってしまうだろう。 もう粗方地に這うだけになった敵にとっては、そんな風に自身を隠そうともしない敵に一刀の元に倒れることになってるって訳だ。 敵に同情する気はないんだけどね。ほんの少しばかり哀れみを覚えないかといわれたらそれはウソになる。 に、しても。どうしちゃったんだろう。先輩は。 飽きたとか面倒臭いとかそういうのはよくあったけど、こんなにも不機嫌なのは、依頼人にセクハラされかかったとか、敵にセクハラされかかったとかそういうときくらいのものだったのに。 今回は殲滅任務で、依頼人も顔も、むしろ声さえも隠したがるような連中だったから、僕の知る限りでは先輩にセクハラどころか側に寄ることすらしなかったはずだ。 おまけに、今回は久しぶりの面つき任務。顔も見えないし、マントで体型だってはっきりとは分からなかっただろう。声も聞かれることを恐れた依頼人のおかげで筆談もどきにしたくらいだ。結界張ってるのに面倒臭いにもほどがある。挙句に面会の場所も何度も変えられるし、そんなに信用できないなら依頼しなきゃいいのに。 まあ、それはいいんだけど。忍の術を理解できないからこそ疑う連中は多いものだからね。そういう連中に限って後ろ暗そうな任務を寄越すっていうのも定番だ。今回の依頼人はは殊更疑り深かったのは事実だけど。 敵はといえば一瞬で倒されてるんだから、当然変な事を言う暇さえ与えられていない。 じゃあ、なんでだろう? 「最後の、一匹」 僕がぼんやり適当に自分に寄ってくる敵だけ相手にしているうちに、先輩がターゲットの首を落としてしまったみたいだ。 コレで任務終了。里に帰れる。 「お疲れ様です。先輩」 「…まだ、夜も明けてない」 「え?ああ、そうですね。まだ日付が変わったばっかりくらいじゃないですか?」 「じゃ、帰る。あとヨロシク」 「え!ちょっと!先輩!」 いきなり走りだした先輩の手には、当然持って帰るよう指示されていたターゲットの首なんてもたれちゃいない。 僕が、やれってことか。なにかよくわからないけど、酷く急いでいるみたいだった。 「ああもう!」 やるしかないだろう。任務も先輩がさくさくかたづけちゃったから、少しも疲れていないのが救いか。 今度あったらなにがあったか絶対聞き出そうと決めて、生臭く命の残滓を纏ったままの虚ろな瞳を晒している首を、丁寧に箱につめたのだった。 ***** 「先輩」 「ん。いいでしょ?これ」 これ見よがしに見せびらかされているのは、首に下げられた銀色に輝く指輪と、特製兵糧丸とやらがみっしり詰まったかわいらしい袋だった。 なんだろう。これ。先輩に群がる女が贈りそうなものとは系統が違う。それに先輩は束縛を嫌うから指輪なんて受け取らないだろうし。 もしかして、これが本命ってやつなのか。 「す、すてきですね?」 へたに口を開けばまずいことになる。その予感に従って、いつだって命を守ってきた。曖昧な返答にもご機嫌な先輩は、僕の冷や汗に気付いていないのかもしれない。 「誕生日プレゼントなの。お前も早くそういう人みつけなさいね」 顔なんかみえなくたって、どんな顔してるのかわかりそうな気がした。幸せオーラがまぶしいよ…。僕なんかあのあと首を手渡すのにまたやたらと場所変えられて筆談しろっていわれて挙句に犬みたいに追い払われたのに! 「…考えておきます」 腹も立つけど、それよりも先輩が幸せそうで、うらやましい。 先輩みたいに誰かに任務を押し付けられるくらい強くならなきゃ無理な気がするんだけどね。 深いため息をついた僕の耳に、この所耳にたこが出来そうなほど延々と惚気続けている先輩の愛の言葉が聞こえてきた。 「イルカせんせーが待ってるから早く片付けなきゃね」 それが、中忍でしかも男で、いきなり連れてこられて先輩に惚気られて思いっきり先輩が殴られるのをみることになるのは…ちょっと先の話。 ******************************************************************************** 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |