それは純粋な

それはもう綿密に計画を立てたのだ。いつどうやってどんな風にどんなタイミングで…あとは計画を実行するだけだったのに。
「ちゃんと殺そうと思ったのにどうしてこう簡単にばれるかなぁ…?」
「あったり前でしょうが。俺、これでも上忍ですよ?それもそれなりに名の知れた」
ソレはよく知っている。
それ以外のことも沢山知っているけれど、そもそも知り合ったきっかけだって、この人があの子を抑えられると見込まれてのことだったから。
…他にも、頻繁にいちゃぱらを読んでる振りしてこっそり俺の方を見てたりするとか、ガイ先生が苦手だとか言いながら、いつガイ先生から襲撃を受けたか記録していて、2週間以上来なかったときに不安そうにしてたこととか…それと、イク時は何時も俺の名前を呼びながらだとか。
こんなに沢山知ってるのに、どうして失敗したんだろう?
「ねぇ。やっぱりこれって、嫉妬?」
「いいえ?いらなくなったのに他の誰かの物なのが腹が立っただけですよ?」
恋人なんてものになったのは、正直物の弾みだったかもしれない。
でも、この人は俺のモノだったんだ。
…つい、この間までは。
「なんでこういう行動にでちゃうかなぁ…?それもいきなり。どうせなら問い詰めるとか、信じて待ってるとかさ」
ぐちぐち文句を言われても、そんなのは勝手な理屈だ。
「なんでそんなことしなくちゃいけないんですか?」
好きじゃなくなったなら、別れてくれと言えば良かったのに。まだ俺のモノみたいな顔して家に帰ってくるくせに、他の女とも関係した。
それなら、もういらない。いらないのに俺のモノみたいな顔されるくらいなら殺しちゃった方がいい。
それで処分されても、もう俺のモノ顔した元恋人にいらいらすることはなくなるのだから。
元々自分の大切な者はすごくすごく少なくて、だからとても大切にしている。それなのに、勝手なことをするなら、もういらない。
捨ててしまうのも腹が立つから…消してしまおうと思っただけなのに。
「あのね、怒ってるの?悲しいの?それとも…本当にただいらないからってだけなの?」
…そんな難しい事を聞かれてもわからない。
好きだと言って、好きだと返して、それから生きている間はこの人は俺のモノで、俺もこの人のモノであろうと思ったのに、裏切った。
だから、きっと腹立たしいし、悲しいんだと思うのに、俺の心に湧いてきたのは単純な殺意だけ。
だからきっと、どれも正しくてどれも間違っている。
俺が望んでいるのは…俺以外を見るこの人が消えること。
「殺したいのになぁ…」
ものの見事に失敗した。計画通り俺相手には油断するこの人にトラップを仕掛けて、それから俺自身が餌になって誘い出して…それからもう地面に落としてしまったクナイで綺麗にその白い喉笛を切り裂くつもりだったのに。何度もそれを想像してうっとりしたのも覚えているって言うのに。
クナイを握るはずの手はワイヤーで括られ、ついでに足も動かない。…意外と甘ちゃんだと思うのは、骨を折られていない事だ。本当なら足を折り、目を潰し、それから…拷問部屋にでも連れて行かれるはずなのに。
「死にたかったの?」
ああ、それも正しい。きっとある意味。
負けるだろうなぁっていうのはある程度は織り込み済みの可能性だ。
なにせ分が悪すぎる。普通に戦っても俺には勝てない相手だ。
でも、それでも必死で一生懸命計画したのに。
ああそういえば…生徒たちには失敗は成功の元と教えているけれど、失敗したら二度目はないってことも教えている。
だからまあ、自業自得だ。それで駄目ならしょうがないか。
「殺しますか?それとも拷問部に?」
結果は大して変わらない。多分痴情のもつれ程度の扱いで終わるだろうし、実際内情もはそう変わらない。
「どっちもはずれ。これからアンタはお説教です。それと…泣かないで」
ああ、そういえばほっぺたが温かくてかゆい。どうしてだろう?
「ごめん。だからイヤだっていったのに…!…今更だよね…」
暗く沈んだ声と表情。それにどことなくしょぼくれて見える髪の毛も、全部俺のモノだったのに。
「うぅー…!」
泣いていると自覚したら止まらなくなった。足も手も括られているから拭いようもないし、どうしたらいいのかもわからないからどうしようもなくて、涙だけがどんどんこぼれていく。
「ああもう!だからいったのにあのクソジジイども!」
何だか怒っているけれど、俺にじゃないのが不思議だ。
それにこの状況そのものが不思議でしょうがない。敵には容赦がない人であるはずなのに。
「いくらなんでも口が過ぎますよ?後々面倒だ」
「うるさいよ!この人疑り深いんだからやめてよね!こんな作戦!」
「…では、アナタの警護はここまでで。まあたまには派手に喧嘩するのもありでしょうけど、里全体に影響が出そうなのは止めてくださいね?」
いきなり現れた面をつけたのが言いたい放題言っていなくなった。
作戦?俺のは…さっき失敗したけど、多分それのことじゃないだろう。
「なんで?」
「いいから、おとなしくしてなさい!もーかわいい顔しちゃって!」
ぐずぐずの顔を袖で拭いて、ついでに舐めて、それから抱き上げてくれた。
温かい腕は特に俺のお気に入りで、寒くない時だって意味もなくその手を欲しがって、欲しがられることを喜ぶ人にたとえようもなく幸せな気分になったのに。
「…俺は、アナタのものですよ。ちゃーんと。今でもね?」
「え…?」
悲しい気分に浸りきってしまおうと思っていたのに、それ所じゃないみたいだ。
くるくる回る赤い光が綺麗だなぁと思ったのは覚えている。
*****
布団が温かい。…何故ってそれは俺が殺すはずだった人が俺をしっかり抱きこんで寝ているからだ。
「うー…!」
またとないチャンスに、ひとしきりもがいてみたんだけど、そんなにあっさり放してくれるほどこの上忍は甘くなかった。
そもそも武器がない。もっと言うなら服も着ていない。…いざとなれば素手で相手を殺すことぐらいできるのが忍だが、上忍相手でそれは無謀にも程がある。
「だーめ」
ぱっちり開いた俺のお気に入りだった綺麗な瞳がいたずらっぽく笑っている。
「なんで!」
おかしい。俺はもうとっくにこの人に殺されていても不思議はないはずで、そうでなければ諮問にかけられるか、上層部の判断で消されているはずだ。
それがどうしてこの人の家でこの人の腕の中で素っ裸でいなきゃいけないんだろう?
「だってさ。離したらまだなんにも話せてないのに殺そうとしちゃうでしょ?そしたら俺がうっかりイルカ先生を監禁とかしちゃうかもじゃない?」
それもまあ、楽しそうだけどなんていいながら、脂下がった男が俺撫で回す。
腰の辺りは特に弱いから力なんて抜けてしまうし、うなじに軽く歯なんか立てるから、ぞくぞくしてしまう。
「なんで…なんで…?」
「だからね。全部お芝居なの!俺はあんな女に勃ちません!」
そうだ。不満があるときにこうやって唇を尖らせて子どもみたいに言うのが好きだった。
でも、そんなの聞いてない!
「ウソツキ!そんなのウソだ!だってあの人綺麗だし優しいし、階級も上忍だし!」
そうだ。絶対に適わないと思ったんだ。俺だって男だからあんな風に胸が大きい人を見ると思わずよろめかなくはないし、平らな胸をもまれて喘ぐようになってしまったけれど、それでもあの胸に顔を埋めたらどんな感触だろうと妄想した。
「ソレが酷いの!あのジジイ共、イルカ先生には何も言うなっていうのよ!もー絶対泣いちゃうかと思ったら、もっと熱烈なんだもん!どうしよう!」
馬鹿なことを言いながら舞い上がった男がきゃーきゃー言っている。ほっぺたがピンクで可愛いのに、なんで今更ウソを付くんだろう。
「ウソつき。もういいから殺せよ!」
クナイなんてなくても、それこそこの男なら一瞬で俺を消せる。術でも体術でもその赤い瞳でもなんでも。
「ヤダ!そんなことできるわけないでしょ!だってこんなに愛されてるのに!あんなジジイたちにゴミ掃除ついでに別れさせようなんて企まれてもぜーったいそんなの許さないから!」
ああもう。訳がわからない。
「なんだよ…!」
「だから、俺はアンタのモノです!そんでアンタも俺のモノ!約束したでしょ?」
そうだ約束したのに破ったと思った。…でも、違うんだろうか?
「まだ、俺の?」
ぎゅうぎゅう抱きしめて苦しいくらいの腕も、ピンク色のほっぺも、白くて綺麗な指も、全部?
「まだもなにもずっとアンタのですよ!…あのジジイ共は今度一緒に全員締めに行こうね!」
なんだろう。ウソだと疑ってる自分も確かにいるのに、こんな馬鹿なこというのは確かに俺のだという確信が湧いてきた。
でも。
「今度?」
「そりゃそうでしょ!仲直りにはまずいちゃいちゃしないと!」
いつも通りの素早さで押し倒されて、びっくりする間もなくいつになく性急に求められて沢山気持ちよくなって…とりあえず仲直りにいちゃいちゃが一番だっていうところには同意した。
*****
「もーホントに俺って愛されてる!」
きゃあきゃあ喜んでて可愛いのは元恋人だと思っていたけれど、今も恋人で、かわいくて大切な俺のモノだ。
「もう、どっかいかない?」
不安だしまだ起こってるのでぴょんぴょん跳ねた髪の毛を引っ張って聞いてみたら、蕩けきった表情で抱きついてきた。
「あったり前でしょ!ああでも、今度は俺殺す前に攫って逃げてね!」
まるで少女マンガみたいなことを言う男が、やっぱり俺の大好きなカカシさんだったのでなんだか拍子抜けした。
「そうか…その手があったか…!」
喉笛を切り裂く幻は俺を酔わせてくれたけれど、そっちより手に手を取って…いや、ずた袋か何かにこの人を押し詰めて攫って逃げる方がきっと楽しい。何だか俺のモノって感じがするし!
「そうそう!あ、でも監禁コースもありだよね!次やったらイルカ先生は俺のお家で監禁調教だから!」
何を企んでいるのか分からないが、ろくでもないコトに違いない。にやにやしている顔からは想像できないが、この人はその妄想を実行できるだけの実力がある。
でも。ソレは駄目だ。だって。
「次なんて駄目だからな!もうどっか行ったら捨てる!」
これだけは言っておかなければ。
そう思ってよく聞こえるように宣言したら、またきゃーっていって、押し倒された。
こうして俺の元恋人暗殺計画は失敗に終わった。
だが、次こそは。…いつかこの人を攫って逃げるという計画の方は、もっとじっくりしっかり綿密に計画する予定なので、きっといつか成功するはずだ。何せ協力者が最強だしな。

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てきとうー…。
嫉妬と愛と執着と。
ではではー!ご意見ご感想など、お気軽にどうぞー!

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