「イルカ先生の黒乳首…!」 低い声でうなるように。 そうして俺に向かって投げつけられた言葉は、平和だった受付所あっという間に混沌に陥れた。 「どういう関係なんですか!?」 「っていうか乳首黒いの?」 「うそー!今のって写輪眼…!」 一斉に向けられる視線だけでなく、ここがどこかを忘れたのか堂々と詰め寄ってくる連中まで。 しかもその中には悪乗りした知り合い以外に美しいくノ一やお世話になったことのある上忍まで交じっていて、それなのに釈明しようにもこの事態を招いた本体はとっくに逃走済みだ。 あんのクソ上忍め…!ろくでもないことばっかりしやがる! はらわたが煮えくり返っても、ここは受付。 叫んだり怒鳴ったりするような常識外れな真似はできない。 「申し訳ありませんが、受付業務中ですので、お話がある方は終了後にお願いします」 卒なく笑顔で流したつもりだったが、殺気は滲み出ていたかもしれない。 全員が全員、こわばった顔で後ずさりし、中にはそのまま外に飛び出していったのもいた。 ああもう無茶苦茶だ!…だが知ったことか。報告にはあとでも来るだろう。急ぎの報告をすっ飛ばすような馬鹿なら忍なんてやってられないはずだからな。 「次の方」 「ひゃい!」 …がちがちに固まった忍に泣きそうな瞳を向けられている。声なんて裏返ってるし、手も震えてるし…だからってどうしたらよかったってんだ! 「…覚えてろ。あんのクソ上忍…!」 思わず零した本音のお陰で、受付所の温度が20度くらい下がったと、後で同僚に泣かれたのだが、その時の俺はどうやってあのすっとこどっこいを締め上げるかでいっぱいになっていたのだった。 **** 「おかえりなさい」 むっつりとした顔で出迎えられたが、食卓にはきちんと美味そうな飯が並べてある。 この人の当番なんだからそれはそれでいいんだが、変な人だ。 まず同性の、しかも俺なんかと付き合いたいと言い出した辺りがおかしい。 挙句袖にしたらしたで付きまとうわ襲うわ。ぶん殴って返り討ちにしたらさめざめと泣いて、最終的には好きなのと喚き倒されるのに疲れた俺が折れた。 というか、泣きながら抱きついてすりよってくるのが哀れっぽくて胸がときめいたというかだな。 同意とは言いがたい行為ではあったが、幸せそうに俺にくっついてるのをみればケツの痛みなんて大したことじゃないと思えた。 だがしかし。俺が怒っているのに逆切れして、挙句受付所でとんでもない言葉を発したのを許せる訳がない。 「アンタ、反省してるんですか」 「…」 押し黙ったままそっぽを向く男の頬は、まるで何かを穂奪っているかのように膨らんでいる。要は拗ねているのだろう。 分かりやすいにも程があるよな…。毎度毎度けんかするとすぐこれだ。 「昨日、ってか今朝まで俺をさんざっぱら弄んどいてその態度ですか」 毎度毎度、今度こそ俺は死ぬかもしれないと思うほど、この男との情交は濃い。 それが今朝は任務明けと俺がうっかり浴衣を着ていたのがスイッチになったらしく、盛大に暴走しやがったのだ。この男は。 本気で死ぬかと思った。朝飯当番なんて当然こなせるはずがなく、だが男は不機嫌になることもなくうきうきしてるってのが丸分かりの態度でせっせと飯を食わせてくれた。 そこまではいい。まあよくはないが、少なくとも世話をしてくれたんだし感謝してる。原因はコイツってのがあれだけどな。 「俺は、悪くない」 「…そうですか」 発端は、水泳の授業で水着を着ている事がばれたことだ。 日焼けの痕跡が思ったよりくっきりのこっていたらしい。肌の色の違いに興奮した挙句に徹底的にやりたおしておいて、何故かしらんが肌をさらすことに執拗に文句を言い出したのだ。 乳首が黒くなるとか、いやもうなってるかもしれないとか、おいしいけどとかいやってほど訳のわからんことを言われた。 身づくろいをさっさと整えて出勤した俺が、一方的に責められる理由なんてないはずだ。 「イルカせんせが悪いんだもん」 「三十路すぎといてもんはないでしょうが」 悪いかどうかに関してはビタイチ納得しちゃいないが、この人の感覚はちょっとどこrじゃなく変わっているから深く考えたら負けだ。 とにかく理由をはっきりさせようと、あえて適当に会話を続けてみたんだが。 「水着なんて俺だってみてないのに…!」 …なんだ。そこか! 「アンタ、そんなことで」 「大事でしょ!俺の大事な大事な…!」 瞳に涙を一杯にためて、男が睨んでくる。アレだけ潤んでたらどうせもう俺なんか見えていないだろうに。 「わかりました。まあ出来る限りパーカーきます」 「うそつき。わすれんぼさんのくせに」 まあ確かによくパーカーを忘れるが、それは暑いからで…ってまあ用意した理由が、まさかこんな普通の野郎の上半身を隠すためだなんて思わないだろ。 でも、この拗ね方は違うな。何か…何かがきっとある。 「…水着、着れば満足しますか?」 「します!」 一か八かで発した一言に飛びついてきた男は、アレだけ散々やり倒しておいて更にまだわけのわからんことをやるつもりだったらしい。 絶倫馬鹿。そしてかわいい恋人だ。腹を括るしかないだろう。 「やってやるけどあんた明日ちゃんと迷惑かけた人たちに謝りなさい!」 「はぁい!」 ちなみに後日、メイド服なんてものを買ってきた上忍には、自分できろと言いつけて辱めにあわせることに成功したので、それはそれと思うことにした。 ******************************************************************************** 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |