「ちょーっとお出かけしようか!」 「え?」 イルカも驚いてるけど、俺も驚いた。 先生がわざわざ宣言してくれることなんて滅多にないんだもん。 それに、気付いてしまった。 先生が何かをたくらんでるときはその笑顔に磨きがかかるし、鼻歌でも歌いそうなほど楽しそうだってことはすっごくご機嫌だってことで、それも何かとんでもないことをやらかす前触れである事が多い。 ま、たまにクシナさんにたくさん褒めてもらったんだーとかそういう割りとどうでもいいことだったりもするけど。 とにかく今日はものすごくご機嫌で、何かたくらんでる可能性がとてつもなく高い。 「行くのはいいんですが、何日ですか?」 それは確信。 ちょっととか行ってるけど、どこかとんでもないところへ行くつもりに違いない。 最近周囲を探ってる気配があるから、もしかしてそれ関連だろうか。 父さんが捕まえて幻術で洗い浚い吐かせた後、記憶消してどっかに捨ててたみたいだけど、その中身を教えてもらってない。 捕まえるのも一瞬なら、術をかけるのも一瞬で、すぐに結界張られちゃったから何か聞き出してるのは見えたけど、何を言ってるかはわからなかった。 父さんはそうやってなんでも一人で何とかしようとするから困るんだよね…。世界に自分ひとりしかいないみたいな態度だ。 でも先生はそうやって無意識に隠してることにすぐ気がつくから、父さんが何かやろうとしたのに気付いて…止めないだろうから一枚噛んだかなー…? 父さん、放っておいたら三日くらいごはん食べないのザラだし、風呂は匂いがすると困るから入るだろうけど平気な顔で水風呂…っていうか水浴びで済ませちゃうし、兵糧丸ですませちゃだめだって言ったら捌きかけの鹿に結界張って庭に転がしたりするし…。 どうしよう。父さんの面倒。いっそ任務なら多少ちゃんとしてくれるし、一緒の任務の人が炊き出しくらいはやってくれるかもしれないし、でもどうなってるのかわからないし。 今からでも何か作って冷凍庫に入れておこうかと悩み始めた俺の肩に、先生がとびっきりの笑顔で手を置いた。 「ん!大丈夫!もうたーっぷり俺のお手製フレンチ冷凍庫に詰め込んできたからね!ちゃんと試食任務にしてきたから!」 「そうですか…」 任務ならやり遂げるはずだ。注意事項もちゃんと読んで電化製品使ってくれるし。 …任務以外だとなー…壊すために動かしてるんじゃないの?ってことしょっちゅうやるからなー。 先生がやってもそれは一緒だ。 一度単独任務にでることになって、父さんを置いていくのを心配した俺を安心させるために、先生が同じようなことをしてくれたことがあった。 おいしそうだったんだ。どれも。冷凍庫に入れておいてくれて、更に載せてあっためるだけだったのに。好意で作ってくれたものだったのに。 …帰宅するなり見た光景は衝撃の一言だった。 台所にいろんな物がとびちってて、レンジがぼこぼこになってて、水遁でも使ったのか水浸しになってたっけ。 食べなきゃ悪いと思っただけでも進歩だよって言いながらほぼ一瞬で片付けちゃった先生もすごいけど、謝ってる父さんも滅多に見ないから驚いたんだよね。 そして決意した。もう二度と父さんを放って出かけたりしないってことを。 でも、任務なら確実だ。それは母さんに言われてるはずだから、間違いなく全力で成し遂げるだろう。ちょっと安心した。 興味がないことには徹底的に関心がないだけで、やろうと思ったらできる。よね…? 「…カカシ…お前大変なんだな…」 泣きそうな顔で抱きしめられて、すかさず抱きしめ返した。 最近イルカからのこういう接触が増えた気がする。なんでだかわかんないけど、チャンスは逃がさずにモノにしておかなくちゃね! 「イルカがいてくれるから大丈夫だよ!」 後は…後はちょっと色々他にも心配だけど、忍犬の世話は絶対手抜きしないから大丈夫だろう。 「じゃ、どこがいいかなー?演習場も飽きたから、ちょっと実戦もいいかなーって思うんだ!」 「え!すっげぇ!楽しそう!」 「先生。戦場以外で…」 「ん!任せて!」 ああ、信用できない。これっぽっちも。 でも。 「俺、里の外に出るの初めてだ!」 楽しそうにしてるんだもん。俺ががんばればいいよね…! ちょっと、いや、大分心配だけど、いざとなったら最後の手段がいくつか仕込んであるし。 「いっぱい修行しようね!」 「おうとも!」 楽しくて楽しくて。先生が凄まじい速さで印を組んでいるのに気付くのに遅れてしまった。 「さあ!跳ぶよ!」 「え?」 「ちょっ!」 時空間忍術は反則でしょ!ちょっとは予想してたけど! 一まとめに抱きあげられて、ついでにほっぺたぷにぷにーとか言われながら、ぐにゃりとゆがむ空間をみていた。 ちょっとした距離なら普通に走っても速い先生が術を使うってことは…どこへ連れて行かれるんだろう…。父さんにもなにもいってこなかった。 不安はたっぷりあったけど。 「へへ!がんばろうな!」 そう言ってイルカがぎゅっと手を握ってくれたから、なんだってできる気がした。 「うん!」 ******************************************************************************** 適当。 白い牙は多分むすこさんのご期待にそえません。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |