意地っ張りな恋人2(適当)



俺の恋人はアホだ。
任務となれば嘘も見抜くし裏の裏まで読むくせに、日常生活とか、それから恋愛の機微なんかにも徹底的に鈍い。
もてすぎてそうなったのかと思ってたが、どうやら親友の好きな人に惚れられたとかで、色々あって、恋愛への忌避感が強まったってのが真相のような気がする。
自分の感情を上手く語ることができない人から無理矢理聞きだしたからどこまで真相に近いのか怪しいんだけどな。
だからあの人が唐突に押し倒してきて、自分がそういう行動に出たことに驚きつつも行為を続行しようとしたときは焦るより呆れた。
なにすんだって怒ってる相手に、なんででしょうはないだろうよ。しかもかわいらしく小首をかしげて見せるもんだから対処に困るの何の。
その上、でも欲しいとか言い出しやがったのだ。あの上忍は。
まあぶん殴ってどうしてそう思ったのかを説明させて、納得したから受け入れたんだが。
「そっか、好きってこういうこと?誰にも渡したくないんですけど」
その台詞だけは今でも覚えている。
それを聞き出すまでに胸に触りたいだの尻に触りたいだの突っ込んでぐちゃぐちゃにしたいだの最低な台詞を山ほど聞いた後だったから、妙に真剣な顔でそういう上忍にも少しばかり感動したものだ。
マトモさは未だに少しも培われた気配がないんだが、必死にラブラブイチャパラ生活とやらを実践しようとするのがかわいくて、いつのまにかすっかりほだされてしまっている。

だから、見知らぬ女があの人の子を孕んだと、だから別れてくれと泣かれたときも、それがうそなのはわかっていた。

あの人はとてつもなく本能的で、一度選び取った相手を変えることはないだろうと確信せざるを得ないほど俺に夢中だ。
むしろ子どもの一人や二人、作れるならいくらだって作ることを望まれているだろうに、これまでも幾度となく水を向けられても一度も首を盾に振った事がない。
少なくとも三代目の側にいたときはそうだった。
まさかそれが随分前から俺に惚れていたせいだとはしらなかったが。
ずっと見ていたと胸を張っていう所を見ると、一度夢中になると他のことなど目に入らないんだろう。
そんな恋人が他の女に反応することなどありえない。
だがしかし。最大の問題があった。
俺の恋人はアホだ。任務馬鹿だし、忍としてはとてつもなく優秀だが他人がどう思うかとか細かいことは気にしない。凄まじく大雑把な所がある。
だからこそなにかこう…任務先なんかでまかり間違って万が一もしかすると…ってこともあるのかもしれないと思い出したら恐くなった。
女の存在が分かれば、多分あの人は何の興味ももてないだろうから、あっさり躊躇いなどなく切って捨てるだろう。
それが文字通り命まで奪う可能性まである。
…興味のない者に対しては、とことん冷淡な人だから。
もしそのせいであの人の子が消されたら…もし本当にそんなものがいたとしたら、あの人ならやるきっとやる。
俺に嫌われることをなによりも恐れているから。
女性の必死さが、狡猾さを感じさせない…高圧的な態度じゃない辺りが俺の嫌な予感を強めた。
この人はもしかして本当にあの人の子を。…それなら。
子どもには何の罪もない。
お互いに形や方向性は違うにしろ、愛はあると思う。
だが同性同士。不毛だというのは事実だろう。少なくとも子は望めない。
産めよ増やせよ地に満てよが忍里じゃ普通だ。まあ同性相手にどうこうしたからって騒ぐような連中もいない程度には性の垣根は低いけど。
何せそれくらい産まないと、かたっぱしから死んでいく忍の数を維持できないからな。
愛した男の子なら、育てるくらい造作もない。俺が強請れば多分、まともな親のフリくらいはしてくれるはずだ。
問題は孕んだという女の方だ。自分で育てるつもりなら、こうして何度も俺の所へ訪れたりはしないだろう。あの人を欲しがっていてもくれてやるつもりはないし、そもそもあの人自身が俺以外の何かを求めていない。
一縷の希望として、あの人に隠れて産めば引き取ることくらいはできるかもしれないが、下手を打てば女性も子どもも消されてしまう。
あの人を確実に騙さなくてはいけない。長くは無理にしてもせめて腹の子がどういう経緯でできたのかを確かめるまでは。
奪われることを極端に恐れる恋人を誤魔化すためにも。毎日のように現れる女性のためにも。
そうして必死に隠れ誤魔化し続けていたのに気付かれた。
詰ってくる姿さえ愛おしいけれど、泣かせたくはなかったのに。
それから、あの女性も。俺は守りきる事が出いなかった。
途中から正常ではないということ…精神を病んでいるらしいことには気がついていたが、だからこそ尚更病院での治療を勧めていて、最近は少しずつではあるが理解し始めていた頃だったのに。
恋人にバレたと知ったのは、いつも通り詰られて泣かれて、それから出勤して。
深夜の受付所で恋人が容赦なく例の女性に暴力を振るう姿を見たときだった。
理不尽な理由で疑われたと、それが原因で俺がやつれていったのだと思いこんで。
完全な気狂いになった女性の腹には何もいなかったのを知っていても、こんな姿を見たくなかったのに。
俺が抱きしめるまで狂ったように彼女を殴っていた。お前のせいでイルカ先生に捨てられると怒り、怯えながら。
泣き言の一つも言うべきだったのかもしれないと後になってから思った。
無理にでも笑っていたくて、笑顔だけをこの人に見せたくて…安心させたかっただけなのに、この人が心変わりをしたと思われたかもしれないと、そんな理由で不安がっていたのに気付けなかった。
「あなたにはね。笑顔ばっかりみせてやるんだって決めたんですよ。…だからこれは俺の意地です」
だから、笑っている間は俺のことだけ考えてなさいと吹き込んで抱きしめて、際限なく欲しがるのをその日ばかりは止めなかった。
…俺は、考えすぎなのかもしれない。
翌日、久しぶりに腰がぬけるほど励んだ結果、そう思うに至った。
女性のことは…どうやら本当に思い込みか何らかの術にでも掛かっているかの裏が取れるようだし、生きてはいる。
後悔なんて血を吐くほどしてても、俺はこの人を捨てられない。
この人こそ、あんなに不安がるくらいまだまだ俺を信用していないことまで分かってしまったが、そこはそれだ。
一生かけて口説いて納得させてやろうじゃないか。惚れちまったのは俺だ。こんなにも愛おしくて、何よりも大事だ。それなら迷う必要なんてないんだ。きっと。
「悩むより、慣れろってのはホントだなぁ…」
新妻のようにせっせと俺好みの卵焼きを焼いてくれる恋人を楽しみながら、そんなことを呟いておいた。
最低で人でなしの喜びは酷く甘いと思いながら。


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適当。
いるかへん。
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