「誕生日だから」 ベッドの上でにこにこ…いやにへらにへらと笑み崩れている男と、今さっきまで何をしていたかなんて思いだしたくもない。 とはいえ繋がったままの下肢は否応なく事実を突きつけてくるし、もっと言うなら男はまだ終わるつもりがなさそうだ。 こっちはもうでるもんはできった。精液も涙も悲鳴も全部綺麗に売り切れだ。 嘆くことすら出来ないほど付き合わされて、腰は痛いのを通り越してもはや感覚さえ遠い。突っ込まれている箇所だけズクリと疼くような熱を孕み、咥え込まされたモノをまるで望んでいるかのように食みながら蠢いている。 男としてのプライド以前に、こんな好意を受け入れてしまった挙句に今もまた溺れかかっている事が恐ろしくてならなかった。 「う、ぅう…」 呻き声は聞き苦しいなんてもんじゃない。掠れてざらついて、深夜のアカデミー校舎で聞こうものならチビる連中が続出すること請け合いだ。 ああ、でも。この人は一応祝ってるつもりなんだろう。 色々とずれた所の多い人で、誰よりも術や戦闘には長けているくせに、変なところで不器用で、それに優しくてそんなところも気に入っていたのに。 あくまで友人としてのつもりだったが、どうしてこんなことになっちまったんだろう。 悪気はないんだ。きっと。 悲しいかなソレが分かってしまった。 それはつまり…悪気だけならまだしも常識さえもが欠けていることを意味する訳だ。 受け入れるほうに負担が大きいとはいえ、こんなにも限界だと感じたのは初めてで、涼しい顔で今度は後からやりたいだの、気持ちよくなる薬とやらまで取り出しては弄んでいる。 友達だと思っていたのに。 それともこの少し、いや大分ずれた男にとっては、友人同士でこうも気軽に肌を合わせる事が普通なんだろうか。 家に帰るなり暗闇から腕が伸びて、引きずり込まれたベッドで男の顔を見るまでは、生きた心地がしなかった。 顔を見てホッとして、だからなにがあったか聞けば無言で服をひん剥かれて、どうしたのかと問うたことに応えはなく。 …その直後に身も世もなく喘がされるなんて思いもしなかった。 「イルカせんせもまだできるよね?いっぱい気持ちよくなって?」 気持ちよさなら泣き出したいほど味わった。今も情けないことに腰が動きそうになるのを必死で堪えている。だからもうおなか一杯ですとか、勘弁してくださいとかいえたらいいのに。 大体誕生日だからって、何でこんな事をしようと思ったのかわからん。さっぱりだ。前から謎の多い人ではあったけど、何をまかり間違って同じ男なんかを食おうと思ったのか理解に苦しむ。 こうやって思考をそらすコトに精一杯だというのに、男がゆるゆると腰を揺さぶり始めてしまった。 「う、ぁ、や…!」 「ん。気持ちよさそうね。とりあえずもう一回中で、かな?」 か細い声で拒絶を示しても、調子に乗るばかりでこちらの意図を汲もうとする気はないらしい。中でって、これ以上やる気なのか。もう溢れだしたものでシーツはどろどろになっていて、明日からもこの寝床で寝ることを思うと叫びだしたいくらいなのに。 だが無情にも律動は開始され、そうするとすっかり覚えてしまった気持ちよさに俺の意思など無理して体が反応し、そこからはもう…情けないことに男にすがりついて快感を追うコトに夢中になった。 ***** あれから俺に突っ込んで宣言どおり中に出した後、顔にもかけてきて泣きながらソレを拭おうとするのを嘲笑うかのようにマーキングだと称してたっぷりぬり広げた挙句、更にもう一度とかなんとか言い出して…もうその辺りで意識を手放したんだが、おきてみたらご機嫌な上忍が朝飯を作って待っていた。 「サプライズプレゼントって始めてやったんですけど、案外こういうのも悪くないですね」 その上に、この台詞。 なんだよソレ。だからお祝いっつーもんがなんなのかちゃんと分かってんのかこんちくしょう! 本人がちっともよろこんじゃいなかっただろうが!いや体の方はしっかり悦んでたかもしれんが! 「ッソ上忍…!」 サプライズって意味が違うだろうが。贈る相手を喜ばせるならまだしも、泣かされるわ啼かされるわで散々な目にあった。これのどこがプレゼントなんだ。 「あ、あの。あのね?」 怒鳴りつける…には喉が酷いコトになっているから、少なくとも怒りだけは伝えようとよろよろしながら拳を握りこんだ途端、これだ。 真っ赤な顔でもじもじしやがって。あんだけ好き勝手やっといてなんの冗談だ。 「…んです、か」 一時保留した拳を、男の手が包みこむ。散々味合わされた他人の体温に肌がざわつくのを押さえ込むので精一杯だ。畜生。明日からどうしてくれるんだ。 「プレゼント、どうですか?」 「ぅ、ど、もこ、も…アンタなにしてくれてんだ…」 「俺、よかった?」 「は?」 どうも噛み合わない。よかったって…ナニがだ。ナニがか。よかったっつーか悦かったんだろうが、気分的には最悪だぞ?何の話だこれは。 「プレゼント、気に入ってくれた?下手だった?男はあんまり経験ないからわかんないし。でも一杯出してくれたよね?かわいいからもう我慢できなくて一杯しちゃった」 その恋する乙女のような瞳と仕草とが、昨日の鬼畜な所業が繋がらない。 あ、お水どうぞと差し出された水を一気飲みしたら、少しは喉も潤い、ついでに頭も回るようになった。 「あーその、プレゼントっつーか、アンタ一体何してくれてんだ」 「え?俺はプレゼントですよ?」 ナニ当然のこと聞いてるの?みたいな顔だ。この人と一緒にいると突拍子もないことをしたのはコイツの方なのに、こういう顔をされる事が良くあった。 くっそう!なんなんだ!俺がおかしいんじゃなくて、訳がわからんのはアンタの方だってのに! 「…なんなんですかそりゃ…」 だが、怒りは多少萎えた。そりゃそうだ。これじゃ言っても無駄だって分かったらやる気も無くなるってもんだろう。 どこの世界に友人の、しかも同性に寝技をプレゼントする馬鹿がいると思う? まあここにいるんだが!しかも感想を聞くまで梃子でも動かない構えで。 「だって俺が死ぬまで一緒なんだし、だったら下手じゃないほうがいいでしょ?ま、たくさんすればその内コツも分かるだろうし?だからイイところ、いっぱい教えてね?」 明後日な一生懸命さを見せる男にため息を隠せない。 …言いたいことは分かった気がする。今の言葉でやっと。 「アンタ、俺のこと」 「好き」 にこーっと笑いやがってこの野郎。…どうすんだ。俺まで変えやがって。 「…腰が痛いです。飯食ったら湿布貼ってください」 「ん。お薬もごはん食べたら飲んでね?」 「後、告白が先です。普通は」 「え。そうなの?」 もっと言うなら返事が会ってから色事だろうが、全く持って悪びれない様子にそれ以上言うのは諦めた。 死ぬまで、なんて。もういっそプロポーズみたいなもんじゃないか。 そこはかとなく何事につけずれてはいるが、ウソはつかない男の誓いは、おそらくは命がけで守られることだろう。変わり者め。 「…とりあえず、アンタサプライズ禁止です」 「えー?」 「…ずっといっしょにいるんだから、相談は受け付けますけどね」 「そ?」 ならいいかーとかいいながらいそいそと飯を運び出した男の誕生日プレゼントには、何を贈ろうと考え始めている時点で、完璧に負けている気がした。 ナニにって、まあその、こんな手でほれちまった自分の頭が残念だって話だ。 ******************************************************************************** 適当。 イルたん足慣らし。毎度懲りずにお祝いしたい所存。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |