一生懸命空回り。あるいは運命とその永遠。(適当)



「お誕生日おめでとうございます」
あれ?何で固まってるの?土下座しちゃったのはやっぱりやりすぎだった?
でもま、まだ肝心の誕生日プレゼントを渡してないから、ここで引き下がるって訳にもね?
「え!え!わああああ!」
ターゲットは確保した。
公衆の面前でっていうのは流石に恥ずかしいのでとりあえず拉致してー。あとはー。えーっと。
とっさに浚っちゃったけど、帰り道だったみたいだし大丈夫だよね。
「ラーメンだと個室って中々ないんで、和食でいいですか?」
「はえ?え?あの降ろして…」
「ん?アレ?じゃ、あそこにしましょうか」
行き着けの前だ。ちょうどいい。今日はここにしとこう。押えといた残りの店にはキャンセルの連絡を飛ばし、さくさく窓から店に入る。
女将も元忍だし、俺の行動には慣れてるから今更騒いだりしないし、飯もそこそこだし、なんと言っても酒が美味い。
「あそこって?あれって?あのですね!俺は!」
「お誕生日ですよねー?」
座らせるために肩から下ろして思わず嬉しくなってにこにこしちゃったら、ぽかんとした顔でへたり込んじゃったんだけど。どうしちゃったの?
まあいいや。靴、脱がせちゃおうっと。
「へあ!だから俺が!自分で出来ますしそれ以前に!」
「酒ですね?辛口でしょ?」
「うお!木乃桜がある!」
「じゃ、それと、草枕ね」
「あい」
人影もないのに応えがあったコトに驚いたのか、きょろきょろとあたりを見渡しているのがかわいらしい。
この人、男前なのにこういうとこかわいいよねぇ?
「ええええとですね!あの!」
「魚?肉もあるよ?好きでしょ肉」
「そりゃ好きですけど!そうじゃねぇ!」
「んー?揚げだし豆腐?」
「うわ!うまそう…!」
「じゃ、揚げ出しと牛叩きと刺身ね」
「あい」
さっとふすまが開いて酒が並べられる。そしてあっという間に消えていく。邪魔が入らない方が落ち着いて飲めるからほっといていいよって言ったから、注文があったら適当に呼べばいいだろう。その辺を弁えているからこそ気に入りの店なんだし。
「うおお!」
感激してくれてるみたいだし、さっきの失態は取り返せたかも。
後はこのプレゼントを渡せば、とりあえず今日のところは目標達成だ。
ま、その前に、目を輝かせてるこの人に、美味しいもの食べてもらわないとね。
「かんぱーい」
「かんぱーい!」
「じゃ、一杯食べてね?」
遠慮しいだからと思って口に肉を放り込んだら反射的にもぐもぐ咀嚼してから幸せそうに頬を緩ませた。
「んぐ!うお!うめぇ!」
「どんどん食べてね?お祝いだから」
「…はい!」
お祝いと言う言葉に一瞬瞳が揺らいだけど、次につまんだ刺身に目を奪われてからはいいお返事が聞けた。
この店にして大正解かも?
「おいしーね」
「美味いです!」
普段俺が頼む物も勝手に並んでるから、それもどんどん食べさせて、ついでに酒もたっぷり飲んでもらおう。
なんてったって今日はお祝いなんだから。
とりあえず食ってからだと呟いたイルカ先生に徳利を傾けながら、そう固く決意したのだった。
*****
「も、もう食えない…!」
「おいしかった?」
「もちろんです!」
「じゃ、これもね」
一生懸命選んだから気に入ってもらえるといいんだけど。
「は?え?これなんですか?」
「え?プレゼントですけど?」
「え?飯だけじゃなくて?え?」
「うん。プレゼント」
「こ、この上またプレゼントだと…!?」
あれぇ?なんだかしらないけどすっごく驚いてる。
んー?中見てから驚いて欲しかったんだけどどうかなー?
サプライズっていうの、やってみたかったんだけど。
「開けてみて?」
「いいいいいやでもですね!中忍の給料じゃ払えな…」
「プレゼント、いやだった…?」
でもお祝いとかってよくわかんないんだよね。先生は忍術書とかクナイとかあとはケーキとか、後は大きい石だよ!綺麗だろう!換金できるよ!とかいいながら宝石もってきたりなー。父さんは忙しすぎてお祝い所じゃなかったし、そもそも誕生日ってモノの存在を知っていたか謎だ。天然だったもん。父さん。
暗部に入ったら経歴は建前上秘密だからお誕生日祝いなんてやらなかったもんなー?っていっても俺は身元がバッレバレだったせいで、酒とか連絡先とか貰ったけど。
どれも違う気がして悩んでたら、馬鹿みたいに浮かれてるクマがいたから、速攻捕獲して問い詰めて、ちょうどいいからそれにしようって決めたのに。
「いえ!あけますとも!ええ!…うお!指輪!?」
凄まじい速さで包装紙を丁寧に剥がし、そうして箱を上げてのけぞるまでの仕草が中々おもしろかった。
トラップ器用に作ってるもんねぇ。手先が器用なんだよね。柱に頭ぶつけてたみたいだけど大丈夫かな?
「ちょっとつけてみて。サイズは…大丈夫だと思うんだけど」
柱にぶつかったまま止まってたイルカ先生の手を掴んでさりげなく指輪を嵌める。
よし!ぴったりだ!忍び込んで測った甲斐があったねぇ。やっぱり。
「え?あ、ホントだ!うお!いやでもですね!指輪っつーのは一体…?」
「おそろいー」
「え、ええとですね…!?ペアリング…?」
「うん」
喜んでたって聞いたからそれならって。ちゃんといざって時に一撃位なら攻撃を防げるように術も仕込んだし、換金しやすいようにまざりっけの少ないのだし、まあ裏にはカカシからイルカへ永遠の愛をこめてーとか彫っちゃったけど。
「…これはその、そういう意味だと取っていいんでしょうか?」
「そういう意味って?」
なんでいきなり思いつめたような表情になったんだかわかんないんだけど、喜んでもらえてないみたいでちょっと悲しい。どうしよう。俺は…俺はイルカ先生にはいつだって笑っていて欲しいのに。
「あー…いえ、なんかわかりました。ええ。…とりあえず、お付き合いということでいかがでしょうか?」
「おつきあい?」
「ま、まあその、一緒に飯食ったり酒飲んだり、気が向いたら俺んちでごろごろしたりとか、ですか、ね?男二人で映画もないもんでしょうし、あと、水族館?海とかですか?」
ってことはだ。イルカ先生と一緒にいられるってことか。なにその天国。
「ぜひ!」
「わ、わかりました!なんだかわかんねぇけど、まあその、色々追々考えていきましょうね?」
労わりと慈愛と、あとなんかこう可愛そうなものを見る目で見られた気もしたけど、イルカ先生の手が、俺の手を握ってくれて、ソレがすごくあったかかったから。
俺の誕生日大作戦は大成功を収めたと言えるだろう。
*****
「…信じられるか?俺んちでカカシさんが寝てんだぞ?それも幸せそーににへーって!にへーって!どうすんだ!これは!運命なのか!」
「うるせーよ。イルカ。いい加減慣れろよ」
「できるかー!」
「もう同棲しはじめて大分経つだろうが!仕事中なんだよ!…まああれだよ。惚気は大概にしとけよ。たのむからさ」
「の、ろ、け?」
「自覚してなかったんだな…。まあ、がんばれ。結婚式には呼ばないでいいから」
「そうだな…せせせせきにんというものが!」
「…で、お前が下なの?上なの?」
「え?上?下?隣に布団敷いて寝てるぞ?かっわいいんだ!」
「…お前に聞いた俺が馬鹿だったよ。末永く幸せにな」
「おう!ありがとな!」


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適当。
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