遠い、故郷8(適当)



「あーあ」
結局、間に合わなかったか。
今日幾度もついたため息は馬鹿みたいに深くて、少しずつ傾いていく陽を恨めしげに睨むことしかできなかった。
もう陽はとっくに暮れて、今日という日が終わりかけている。
知ってるんだ。土台無理な状況だったってのは。
受付であの人のついた任務が随分と厄介な状況になっていたのを聞いて、増援の手配に大名への交渉に、それから任務調整まで俺が関わった。どんな状況かは痛いほどわかっている。
できるだけあの人への負担が減るように。
それだけを考えて、増援は急いだが、任務の達成を急かすようなことはしなかった。
そりゃ間に合ったら嬉しいに決まってる。
誕生日なんてどうでもいいとはまでは行かないけど、そう大して楽しいものじゃなかったのに、あの人がずっとずっと祝うのだとしきりに言うから…いつの間にか俺まで楽しみに思うようになっていた。
全部あの人のせいだ。今寂しいのも、心配なのも、それから…こんなにもがっかりしているのも。
無茶して木の葉病院に運び込まれたりするよりよっぽどましだ。それは分かりきっている。
幾度もベッドで死んだように横たわるあの人に恐怖した。二度と起きないかもしれないと。
…だからこそこの人と寝るなんてことはできないと決めていたのに。
結局俺は欲望に負けた。
置いていかれたくなくて、失いたくなくて、何よりも強力な未練になることを選んだ。
慰霊碑に刻まれた誰かなんかじゃなくて、生きている俺の元へ帰ってきてほしかった。
こんな風に不安に狩られてばかりいるなら、最初から懐になんか入れなきゃ良かったんだ。
伸ばされた手を、俺を請う声を、強い瞳を、全部気づかなかったフリでにげていれば。
…何もかも今更だ。
「…寝て、起きて、そしたら仕事だ」
急な、それも大規模な増援に受付は混乱している。今日は無理を言って休ませて貰ったが、明日からは忙しくなるだろう。
それでも休みの直前まで任務の予定を調整しておいたから、少しはましになっているはずなのだが。
「あぁ!うみの中忍!」
「へ?」
この声には聞き覚えがある。子どもの、それもアカデミー生位の女の子の声のようでいて、どこか厳しさを秘めた声。
まちがいない。カツユ様だ。
「傷は塞ぎましたしチャクラも多少は補いました。後をお願いします。私は綱手さまの下へ戻らなくてはなりませんので」
ぬるりとした大ナメクジが俺の寝室にのたりのたりと這う様は凄まじい違和感を醸し出していたが、その驚きは更に大きな驚きにあっという間に塗り替えられてしまった。
にゅるにゅるした表面が薄く消えていき、中に閉じ込められていた何かが少しずつ這い出してくる。
「カ…カカシさん!?」
「では、私はこれで。報告も私の方からしておきますが、念のために明日にでも綱手様に詳細を報告するように伝えてください」
それだけ伝えると、あれだけもったりとした動きだった生き物は、煙だけを残して消えていた。
綱手様の元に返ったのか。
そして、残された大きなモノ。…ふわふわと逆立つ銀髪は粘液の成果少しばかり元気がない。慌てて呼吸を確認し、それが規則正しいことを知ると全身から力が抜けてへたり込んでしまった。
まだ、誕生日だ。
「アンタは…また無茶を!」
「…イルカせんせ…?あ、れ…?イルカ先生!今日は!えっと!お誕生日おめでとうございます!間に合ったの俺?」
がばっと起き上がっていきなりまくし立てた男は、見る範囲では健康そうだ。多少疲れてはいるようだが。
…もう、がまんできなかった。
「…っ!遅い!」
抱きしめると忍服までしっとりしている。治療のためとはいえ相当長くあの中にいたのだろう。
「間に合わなかった…?」
不安がるのはそこだけなのか。馬鹿か、この男は。
「間に合ってますよ!馬鹿野郎!無茶しやがって…!」
もしかしなくてもカツユ様はこの人のために協力してくれたんだろう。
傷は塞いだとか…負傷してるのになにやってんだ!チャクラも危なかったみたいだし!
「よかった…!あとこれ!」
人の心配なんて歯牙にも引っ掛ける気がないらしい。ポーチから小さな箱を取り出して押し付けてきた。
「なんですか?」
「誕生日プレゼントですよ?」
「何をしれっとした顔で…!こんなもんよりアンタの怪我とかどうなってんですか!」
「怪我は殆どないです。ただそのー…ちょっと急いでたので。走り続けてバテたのを、カツユ様が見かねて助けてくださったといいますか。ま、綱手姫も噛んでるみたいでしたけどねー?」
…そんなことのためにこんなにぼろぼろになったのか馬鹿野郎。
「…風呂、入れ。飯はその間にあっためときます」
背を向けたのは、泣きそうな顔をしているのを悟られたくなかったからだ。
「箱、開けてよ」
この上勝手なことばかり言う男を殴ってやりたい。そんなことをすればカツユ様の治療を無碍にすることになるからできないけどな。
ことさら乱暴に包装を引き破り、当り散らすように箱を開けた。
「…アンタ、これ」
「おそろいです」
分かりやすいほどに分かりやすい。確かに贈られるとしたらコレかもしれないと予想はしていた。
そろいの指輪。しかも内側を見てみれば、二人分の名まで刻まれている。なんてベタな。
「こんなもの…!」
「結婚してください。っていうか、してるようなもんでしょ?絶対寝てくれなかったのに俺に全部くれた。だから俺の全部も受け取ってくださいよ」
ナメクジの粘液にまみれて、それも半ばへたり込むようにしての懇願。
心配ばかりかけて、その上この最低な告白に、それでも俺は。
気がつけば指輪を嵌めていた。
「これで!いいんだろ!早く風呂入って来い!」
「はぁい!」
飛びつきたかったんだろうが粘液まみれの自分の状態に気づいたらしい。凄まじい速さで風呂場に消えていった。
俺はといえば勝手に赤くなる頬を押さえて、八つ当たりのように冷凍庫からしこたま作ったナス料理たちを引っ張り出し、片っ端からレンジに放り込んだ。
風呂から出たら、腹が破れるくらいコレを食わせてやろう。
…それから、それから…誕生日プレゼントなんだから勝手な真似するなと言い聞かせておかなくては。
「…ああくそ!」
勝手に緩む頬が恥ずかしい。我ながら馬鹿みたいだと思うのに。
…手に入れたモノが嬉しすぎて。
「イルカせんせ!」
「座れ!」
よっぽど急いだのか禄に体も拭かずに抱きついてきた男のお陰で俺までびしょぬれになったから、食卓の惨状に目を剥いている男を置いて、俺も風呂に入ってこよう。
考えるのはその後でいい。…きっともうなるようになる…いや、もうなってる。
「ご馳走ですね…!俺のため?嬉しい…!」
「いいからちゃんと食え!残したら許しません!後俺は風呂に入ってきます!」
振り捨てるように投げつけた台詞にも動じずに、男が笑う。
「愛されちゃってますね!俺!」
「そりゃそうです!アンタは俺のですからね!」
風呂から出たらやっぱり一発殴ろうと決めて、風呂場に急いだ。
…多分今日はこれまでいきてきたなかで最低で最高の誕生日だと思いながら。

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適当。
祝いじゃ祝いじゃ(`ФωФ') カッ!
あとちょっとつづいてもいいですか('A`)
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