遠い、故郷5(適当)



「ナスのみそ汁が食べたい」
「あー先輩好きでしたよね。そういえば」
「さんまが食べたい」
「そうですね。確かにおいしいですよね。旬はまだですけど」
「イルカ先生が食べたい」
「…先輩。疲れてるんですね」
「そうかもね」
ターゲットは目の前。それも厄介なことに二人とも無事だった。
同じ腹から生まれていればこんなに面倒なことにはならなかっただろうに。
ほぼ同じ時刻に生まれた腹違いの兄弟は、その出生のタイミングのせいもあって、常に競わされていたと聞いている。
正妻と妾腹なら話は早かったんだろう。その手の任務ならいくらでも受けた事がある。
…いらない方が殺されるだけだ。
だが今回の厄介な所はどちらも似たり寄ったりな立場の側女が産んだ子だということだ。
正妻は早くに身罷り、他に子ができなかった。
後ろ盾もろくに持たない女二人が、子どもを道具にしてのし上がろうとするのは分からなくもない。
いらない方が決められなかった種の主が、こんな下らない茶番を止めなかったのはどうかしてると思うけどね。
生きていたガキはどういう経緯かしらないが、寄り添ってお互いに仲が良さそうに見える。
しかもどちらも諦めていない。そういう意味じゃ良く似ている。同じ様な女を選んだんだろう。多分。
「大体その手のツテがないのに、ガキを浚わせようなんて考えたら、自分のほうが食いものにされるって気づけばいいのにねぇ?」
金を出して、自分の子どもを失いかけている女たちは気づかないだろう。
この国そのものを奪いたいと思えば、二人とも殺せばいいと考える人間がいるなんてことに。
色々と手間取ったが、どこに繋がっている忍かの裏は取れた。子どもを確保したら後は適当に叩き潰せばいい。そして子どもは目の前にいる。
「馬鹿でもなんでも依頼人です。…いけそうですね」
「ん。早く帰りたい」
「先輩が恋愛脳でお花畑だって噂本当だったんですね。…腑抜けて失敗しないでくださいよ?」
「しませんよー?だってイルカせんせが待ってるし、誕生日もあとちょっとだし」
そうだ。ほかの事はどうでもいい。…そう考えないとやってられない。
裏が取れたと分かった後に、面倒ごとが増えた。
愚鈍な依頼人の依頼の方は、どっちもまるごと無事に届けてやるから自分で勝手に悩めばいい。
だが、もう一人、新たに依頼が。
「…帰りたい。隣と併合されたってどうせ同じ火の国じゃない…!どうでもいい」
愚鈍な為政者を支え続けた古老から、新たに下された依頼は、この件が外部に一切漏れぬよう片付くことに加えて、金を出していた連中の首だ。病に見せかけてとかなんとか…まあ確かにそっちの方がこんな面倒な任務よりずっと楽だけど!
孕ませるだけ孕ませてうだうだ悩んでるヤツより、その爺さんが正しいのは確かだ。
だがしかし、大名クラスへの制裁なんて依頼は、受けるかどうか微妙な話になるから、それだけで時間をとられそうで…。
なんか、なんかもう泣きそう。
間に合うと思ったのに!
「はいはい。わかりましたよ!僕がいけばいいんでしょう!いいから早く片付けちゃいましょうよ!」
よし!言質取った!
ま、優秀な後輩ならそういってくれるだろうなーなんて多少の打算もあったけどね?
「ん。もちろーん!」
「…先輩…また僕をはめましたね…?」
「んー?ま、これも修行修行。欲しがってた本俺のツテで探しておくからさ」
「!本当ですよ!絶対!」
まさに目の色が変わったってやつだねこりゃ。
建築好きのこの部下は、変わった建物が好きで、中でもお気に入りのなんちゃらって建物への執心具合ときたらすごかった。屋根のアーチの美しさだの有機的に構築された設計がどうの…その殆どは聞き流したけど、それにも構わず延々と語り続けていたほどだ。
コイツはその設計図が載っている本を長らく探し回っていた。稀覯本で、その殆どが失われたとも言われているだけあって、中々手に入れられずに愚痴を聞いたことが幾度もあったっけ。
…実は何かに使えそうだからって手に入れておいたんだけどねー?ちょっともったいぶってそれこそコイツの誕生日にでも渡してやろう。
「はいはーい。…行くよ!」
「はい!」
鼻の先にぶら下げたにんじんが効きすぎたのか、あっという間に飛び込んでいった部下に、俺も続いた。
こうなったら意地でも間に合わせてやる。
そう硬く決意して。

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適当。
祝いじゃ祝いじゃ(`ФωФ') カッ!
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