遠い、故郷4(適当)



「イルカちゃん!ほら!ナス!」
「え」
俺がまだほんのガキの頃からお世話になってる八百屋のおばちゃんは、未だに俺のことを両親がいたときと同じように呼ぶ。
それはまあ、うん。生徒にからかわれたりする位だから別にいいんだ。
「いっつもたくさん買って行くだろう?今日はさ、特別いいのが入ったから持ってきな!」
悪気がある訳じゃない。むしろあるのは好意だけだ。
でも、今は。
あの人の好物のことなんて、思い出したくなかった。
「…ありがと。おばちゃん」
笑顔は多分引きつっていなかったと思う。
一応これでも忍だ。確かに誰かをだましたりするのは好きじゃないが、これでも潜入任務なんかは得意だった。
敵意を抱かれにくい平凡な顔に、穏やかな態度と笑顔を心がければ、めったなことで正体が割れることはない。
それと同じことを親戚のおばちゃんみたいに思っている人にしたくはなかったけれど。
「ナス。こんなにどうすんだ。俺は」
誤魔化すことに必死で、言い訳も碌に思いつかなかった。
籠いっぱいのなすはビニール袋につっこまれていて、今日は飯を食うのもめんどくさいなんて言っていられない。
割と食うほうだが、元々これは好物というわけでもない。男一人で食いきるには少々無理をしなきゃならないだろう。
あの男のことばかり思いださせられて、寂しいなんて思いたくないのに。
…食いきれずに捨てるってのもなぁ。
いいものをわざわざ選んでくれた八百屋のおばちゃんのことを考えると気が引ける。
あの男は意外と大食漢だ。見た目はほそっこく見えるし、実際俺より多少体重も軽いような気がするんだが、俺よりよっぽど大食いで特に好物には目がなかった。コレくらいの量なら多分平気で平らげただろう。まあ俺も食うけどな。
それを何かのときにからかったら、後になって俺は好物残さない主義ですからだのなんだのと訳のわからないことを言い出した男に言いくるめられて圧し掛かってこられて散々強請られて…ってまあそれは置いておいてだな。
ナスなんだ。問題は。
いっそ調理して適当に送り届けてしまいたいくらいの量で、勿論俺一人じゃ無理だが、下手に人を呼んだとわかったらそれはそれで嫉妬深い恋人が帰ってきたら大変なことになるだろう。
選択肢は自分で消費するの一択だ。
…間に合うかどうかなんてわからない。誕生日まで後数日だが、あの男がいくら必死になったとしてもできないことなんて山ほどあるんだ。
「第一俺の誕生日にカカシさんの好物作ってどうするんだ」
俺は…美味そうに食ってる顔を見るのも好きだし、多分相当無茶して疲れて帰ってくるだろうから、たっぷり食わせてやりたい。
でも、本人が怒りそうだからなぁ…。お祝いのイメージみたいなものがあるらしく、
子どもっぽいこだわりを、否定したくなかった。
「早く帰ってこないと、なす残しといてやらないからな」
しばらくなす三昧の暮らしを送ることになりそうだと、密かにため息をついておいた。
つやつやして美味そうなナスがなくなる前に、あの人が帰ってくることを祈りながら。

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適当。
祝いじゃ祝いじゃ(`ФωФ') カッ!
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