戦場で碌な寝床なんてないのが当たり前だ。 それでも上忍の特権ってやつで、他よりはずっとマシなのも知っている。 寝転んで仮眠を取れるのは、相当贅沢なんだってことも。 「部隊長」 「んー?どうしたの」 報告は山のように積みあがっている。それもありがたくないものばかりが。 たとえば犠牲者が増えたことや、まだ残党がうじゃうじゃいるってこととかね。 今回もその手の報告だろうと聞く前からうんざりしていた。ま、顔に出すほど馬鹿じゃないけどね。士気が下がることばかりで、部隊全体が疲弊している今、恋人に会えないからって落ち込んだ顔なんて見せられない。 でも、違った。 「見つけました!今手当てを受けてますが…間違いなくターゲットです」 「…詳しく教えて」 逃げ回る敵には手を焼いていた。 叩き潰しても叩き潰しても湧いて出るのは、表向きは流れ者の忍崩れだということになっている連中の背後に、ありがたくもない支援者…それも大物がついていることの証明でもある。 火の国ほどの大国ともなれば一枚岩ではないのが当たり前といえばそうなのかもしれない。 忍の目からみれば随分と間抜けで先を見通せない連中が多いように思えるけれど、あっちからみればこちらの世界も相当にずれてみえるんだろうからお互い様か。 跡継ぎ問題なんてのは、こっちにもあるしね。一応。 一番強く、それから里を導くにたる器があるものだけが、火影になれる。 …一応、建前上は。 他国ほどじゃないけど、木の葉隠れの里だって結構えげつないことしてるしねぇ? 火影は、絶対者だ。 あまたの忍を統べる者…その重責に見合うだけの権力があたえられている。 火の国の専属便利屋みたいなものでもあるけど、その気になれば成り代わるなり洗脳するなりは簡単だろう。 実際それをたくらんだ里もない訳じゃない。主たる国を支配しようとして…そして失敗した。 主の失脚を狙い続けるような連中はいくらでもいて、事態が露見してすぐに滅ぼされたのだ。 だが一番の理由は別にある。 忍はある意味化け物だ。普通の人間と相容れない。それが上に立つとなったら…便利な道具に支配されるなんて、誰も望まない。道具は道具であるから受け入れられるだけで、自分を簡単に傷つけるイキモノになったらそれは処分される。 異質な存在が自分たちの上に立つことを、彼らは誰一人望まなかった。そうして使われているほうが長く存在できることを知っていた他の忍たちもそれを支持し、処分はごくあっさり終わったと聞く。 忍なんてそんなものだ。…だからこの泥仕合から、俺たちは逃れることは出来ない。 跡継ぎなんて誰でもいい。ちゃんと統治できるだけの頭があれば。 でもあちらさんはそうはいかないっていうんだから、しょうがないんだ。 場所と、それから護衛の状況は聞いた。 今の戦力ならなんとかできるだろう。それに多分あっちはこっちが気づいたことを、まだ知らない。 「生きてた?」 「はい」 「…なら、急がないとね」 イルカ先生が知ったら怒るだろうなぁ。死んでたって生きてたって俺にとっては一緒だったなんて言ったら。子どもが大好きな人だから。 …そのせいで俺は捨てられるんじゃないかっていつも不安にかられるんだけど。 いっそ俺が女でも良かった。つなぎとめる何かを生み出せるなら、どっちだっていい。 あの稀有なほどに純粋な存在を俺のモノに出来たことだけでも奇跡なのに、永遠に失いたくないとも思っている。 生きるの死ぬのの最中にあって、それはなんとも贅沢な望みだ。 でも、本当にそれ以外はイラナイから、全部捨ててもいいからあの人だけが欲しい。 跡継ぎの子どもは二人いて、どちらか生き残った方が莫大な権力を手に入れる。 浚われた子どもも二人。 身代金目的―なんていっちゃいるけど、誰が裏にいるかなんてわかりきっていた。 双方共に膠着したこの事態にうんざりしているはずだ。 同じタイミングで自分たちにとって一番邪魔なものを排除しようとした結果がこれだ。 雇われた方の言い分を聞かなきゃいけないが、どっちでもいいから助けろって言うのもすごい話だと思う。あの人が聞いたら怒り狂うんじゃないかな。 「…死なせたくないなぁ」 あの人を、思う。 がんばったっていったら、きっと驚くくらい褒めてくれるだろう。 …相手を祝う前に強請ることばかりを考えている自分に呆れた。 「決行は」 「夜が明ける前に出る。斥候が戻り次第叩くよ。ま、戻ってこなくても虎の刻には」 「承知」 部下が出て行くのを見送って、再び寝台に逆戻りした。 帰れるかもしれない。 それだけで、俺は舞い上がりかけていた。 ******************************************************************************** 適当。 祝いじゃ祝いじゃ(`ФωФ') カッ! ご意見ご感想お気軽にどうぞー |