誕生日プレゼント(適当)


「お誕生日だもんね?」
にこやかな上忍。それも見知らぬ。
階級が分かったのは報告書を受け取ったからで、それだけじゃなく撒き散らす殺気染みたチャクラのせいでもある。
なんだってこんなとこでこんな物騒な気配垂れ流してるんだ。コイツは。
…確かに今日は誕生日だ。祝う人も特にいない。せいぜい酒を飲む口実に使われるのがいいとこだ。
そしてそれを見知らぬ上忍がわざわざする必要はない。
しがない中忍出汁にして飲みたがる上忍なんているはず…まあ訳の分からない行動をとるのが上忍だから一概に否定できないけどな。
まあとにかくそんなのがいたら怖い。基本的には係わり合いになりたくない。
今、受付をやっている以上逃げようがないのだが。
「ありがとう、ございます。報告書は問題ありません」
受け取った報告書だけを処理し、一緒に差し出された得体の知れない男の得体の知れない包みの乗った手は意図的に無視した。
これで引いてくれる可能性は低くても、こちらの意図くらいは読んでくれるはずだ。
例え怒らせたとして、それはそれでターゲットを俺だけに絞れるかもしれないもんな。誕生日に命がけの駆け引きなんざしたくもないが、被害を出すわけにも行かない。
受付所で暴れるようなことは流石にないはずだ。この男が上忍でも、いや、上忍だからこそ、最低限の労力で自分の我を通すためにはなにが必要か理解しているだろう。
受付で騒ぎを起こせば、警備の忍が飛んでくる。ここは里の玄関口。収入源でもあるからな。
「あら、そ?じゃ、後で迎えに来るから」
案の定、男は引いた。
この場が収まっただけでも良しとしたい。…隣で顔面蒼白のまま震えている同僚のためにも。
「なにしたんだよ!なにしたんだよイルカー!」
「なんもしてねぇよ!むしろ誰だかもしらねー!」
「ばっ!本気か!?アレ有名なんだぞ有名なんだぞ有名なんだぞ!どうすんだー!」
「どうもこうもねぇだろ。逃げられねぇ」
混乱の真っ只中にいる同僚を落ち着かせようとしただけだったんだが、どうやら思った以上に俺の言葉はショックだったようだ。
「そ、そうだよな…!?どうすんだ!三代目はいらっしゃらないし…!」
「大丈夫だって。多分、まあ酷くてせいぜいぼこぼこにされるくらいだろ?俺の式をみたら医療班呼んでくれ」
受付の中忍というだけで、この手の危険というか…厄介ごとは日常茶飯事だ。まあ自分の場合は余計にってのもあるか。
「…イルカー…死ぬなよ…!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔は酷い有様だが、心配してくれるのはありがたい。
あの得体の知れない包みの中身が気になりつつも、受け取っていたらここで何が起こっていたかしれない。厄介ごとは早めに片をつけるべきだ。
握りこんだ拳が冷や汗にすべり、どうやら相当に緊張していたらしいことを自覚した。
なるようになれ。だな。
夜勤明けになんて面倒な。
後もう少しだけになった勤務時間が、自分の命の刻限に思えてきそうで少しだけ落ち込んだ。
*****
「おかえりなさい」
「ただ、いま?」
迎えに来るという男の気配を感じないままに仕事を終え、かばんを持ったところまでは覚えている。
これは…もしかしなくてもなんかの術で引っさらわれたらしい。
…それも、自分の家に。
どっからどうみてもここは俺の部屋だ。
そこを我が物顔で占拠して、酷く楽しそうにしている男が分からない。何だコイツ。何がしたいんだ!
ちゃぶ台の上からあふれそうなほどに、でかい肉と美味そうな汁物らしきものと、それから諸々の美味そうなものが湯気を立てている。
呆然としている間に男はせっせと俺の手を引っ張ったまま洗面所に向かい、勝手に手まで洗ってくれた。
「さ、手も洗ったことだし、お祝いしましょうね」
「は、ぁ。えーっと?その」
不法侵入だと怒鳴るべきなのか、なんでかわいいエプロンつけて…そういや変な覆面をつけてたはずなのに、それもなくなっている。
…だれか、助けてくれ…!
混乱のさなかにあるというのに、追い討ちをかけるかのように男が甘い声で囁いた。
「全部、あなたのものですよ…?」
それが料理のことなのか、それとも男の側においてある包みのことなのか、むしろ…男自身のことなのか。
逃げ出したい。…でも、どこに?
逃げ込むべき部屋には上忍。それもご機嫌な鼻歌まで歌ってやがる。
「お酒もありますし、楽しみましょうねー?」
「何をだ!」
「え?お誕生日会」
「なんで真顔なんだー!?どうしてそうなるんだ!」
「あれ?嬉しくないんですか?美味しいですよ?」
「いえその嬉しいって言うかですね!?アンタ誰なんだ!」
「はたけカカシと申します。報告書見たでしょ?」
「み、みましたが!だからなんですか!」
「稼ぎはいい方ですよ?多分」
小首をかしげる男には、何を言っても無駄だと悟った。
「分かりました。お祝いしたらすぐ帰ってください」
「お祝い、嬉しくなかったんですか…」
途端、しょぼくれた犬みたいな顔をされて焦った。何だコイツ。何がしたいんだ?
「まあその、いきなり人んちに入り込んでなにしてんですかあんた…」
「だって、お祝いしてもらったらぐらつくかもって」
「へ?」
「おかえりなさいっていってもらいたいなーって」
そういや心当たりがあるにはある。
職員室で、明日誕生日だってことが話題になって、今更祝うってのもなーなんていいながら、下らない話をしたはずだ。それはまあ、かわいい女の子にならなーくらいはいったかもしれないが。何で知ってるんだ。
そもそもあんたかわいいか。女の子でもないぞ。
そう思って視線をやると…少しだけ涙ぐんだ男が倒れそうなほど顔色を悪くしていた。
ぎゅっと俺の服のすそを握ったままで。
「うー…俺、がんばったんです…!手料理も…!」
ぐらりとした。なにがって…確かにかわいいかもしれないと思った自分にだ。
「あーはい。この肉みたいなのも、そっちの赤い汁物も美味そうです!た、食べましょう?一緒に!」
「食べてくれるんですね…!」
べそべそしてたのに、笑った。
笑顔も、なんていうか、あどけない?イヤ多分年は同じ位だと思うんだけど!
…なにがなんだかわからないが、確かにさっきから鼓動が激しい。めまいも感じる。
「頂きます」
その瞬間、多分俺は恋に落ちていたんだと思う。


無駄に行動力のある上忍が、実は暗部だったとか、警護しているうちに好きになっちゃったんですとか言い出した挙句にやたらとくっついてくるようになったとか、色々あったんだが。
とりあえず、誕生日プレゼントは貰っておいた。
入浴剤のセットとご馳走とケーキと、それから恋人。
全部まとめて大事にしようと決めている。
ただ最近ちょっと妙にくっついて来るんだよなぁ?俺のカカシさん。
「俺の誕生日には、イルカせんせをくださいね?」
ふわふわのオムレツをあーんしながらそう言ってくれたから、誕生日には腕によりをかけて俺もがんばろうと思っている。
「もちろん!」
カカシさんの好物も、丁度誕生日くらいが旬のはずだしな。今から練習しておけばなんとかなるだろう。
「それまでがまんできなかったらごめんね?」
なんていって抱きついてきたカカシさんといちゃいちゃしながら、がっつくカカシさんもかわいいだろうなぁなんて思ったのだった。


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適当。
食われる日はきっと近い…。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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