「誕生日ですね」 ご馳走を前に瞳を輝かせるケダモノの目で、男が笑う。 「そうですねぇ。もうこの年になると祝うってもんでも…」 お互いいい大人だ。祝うこと自体は悪いとは思わないにしろ、そこまで必死にならなくてもいいだろうに。 …いや必死にの方向が辛いというのもあるんだが。 「もう!出会ってから毎年そういってるじゃない!」 「そういやそうでしたっけ?最近物忘れがはげしくて」 最初は照れくさいのと申し訳ないのとで断った。まあ今はまた別に理由になっちゃったんだけどな。 「それも毎年言ってますよー?照れなくてもいいじゃない」 「いい加減落ち着きませんか…?」 照れてることは否定しない。ただ被害を最低限に抑えたいという気持ちの方が強いだけだ。 「落ち着くって?」 「真剣に不思議そうな顔されるといいづらいんですが、毎年毎年今日になると朝っぱらからぎらついた目で俺を見るの、やめてもらえませんかね…」 きょとんとした顔をするのが不思議だ。上忍の洞察力はどこにいっちまうんだろう。 理性をなくしてるんなら、せめてもうちょっと隙があればいいものを、そのくせ今もとろりとした欲望で瞳を輝かせているんだから始末に終えない。 「ああ、無理」 「そうですか。無理…ってなんで即答!?」 「だってずっとずーっと好きなんです。多分これからもっともっと好きになっちゃうし、そしたらもう我慢なんて無理でしょ?」 「そこは我慢ってもんを覚えてください!腰が立たなくて翌日歩けないなんてのはいい加減卒業したいんですよ…。仕事だろうがなんだろうがかまわずに人を襲うのはどうかと思います」 もういい年だ。一晩中したいなんて欲求が湧くほど若くもない。…この万年発情上忍はそうでもないようだが。 もちろん好きだ。そうじゃなきゃ男となんてありえない。とはいえ、身体を酷使するのは辛いのも事実だ。できれば穏便にしたかったんだが、この人は任務意外じゃてんでだめだからな…。 そのくせ勘が鋭くて、こっちの気分だけは鋭敏に察する。行動がめちゃくちゃなだけでいつだって俺のことをきにかけてくれてはいうんだろう。 「えー…?」 「そんな顔してもダメなもんはダメです。週末ならまだしも…」 「え!」 「週末ならいいってもんでもありませんよ?念のため」 油断もすきもない。 …いや、週末に多少…ぐらいならいいんだが、この人のことだ。許可を得たと勘違いして普段の分もとかなんとか言い出されたら、俺の腰としりが死ぬ。 「でも無理なんだけど」 「まだいいますか。無理ったってちょっと我慢するくらい…」 性欲のコントロールができないわけじゃあるまいに。 スルのが絶対ダメだなんていってるわけじゃない。正直そうなったら俺のほうも困る。 だからこそ、ちょっとぐらい我慢してくれたっていいじゃないかと思うわけだ。 諦めずに言い聞かせるつもりだった。…つもりだったってことは、気が変わったってことだ。 「だって気持ちいい。触ってるだけでどうにかなりそうなくらいなのに。我慢なんてしたらおかしくなっちゃう」 泣きそうな顔で縋りつかれたら、そりゃこっちだって反応するに決まってるじゃないか! いいわけさせてもらえば胸が痛むとか、そういうのも勿論ある。…そして当然男としての欲求も。 泣き顔で縋りつく恋人なんて…最高に胸がときめいた。 「ああもう!俺の誕生日だってのに!」 抱きしめ返したのは自分だ。その結果も分かりきっている。 これから俺は、欲望のために自分の痛みと疲労を犠牲にすることになるだろう。 「なに?どしたの?イルカせんせ」 「いいから。黙れ。…今日はアンタが全力で俺を祝ってくれるんでしょう?」 察しが悪いというか、面食らってるのをいいことに、せめてもの意趣返しで先に仕掛けてやることにした。 下に敷かれているせいもあって、主導権は奪われがちだから、今日くらいはいいだろう。 「もちろんです!」 …その言葉を皮切りにせっせと俺を愛撫しだした、あっというまに奪い返されちまったんだけどな。 そんなわけで朝っぱらからその気になった男と腰が抜けるというか魂まで抜けそうなくらい励んでしまった。 とはいえ一応飯は食った。それもやたら豪勢なヤツを。仕出し弁当の出前なんて、さすが上忍というかなんと言うか…。 まあその後もすぐ押し倒されて、どろどろの身体がきもちわるくて風呂に入りたいと暗に労働を申し付けたのに、なぜか盛った男にそれはもうぐちゃぐちゃにされた。 …疲れ切ってベッドに沈みこんでいることしかできない俺とは裏腹に、男は満足げに俺の髪を弄り、背の傷だの腰のきわどい部分をなでまわし、ご機嫌そのものだ。 今日は俺の誕生日なんだけどなぁ。自業自得か。 かろうじて動く腕で髪を?き揚げ、その指にはめられてしまった銀色にため息をついた。 独占欲の強い男のことだから、いつかはやるだろうと思っていた。 裏側に名前と、しかも馬鹿っぽい愛の言葉とやらが刻まれている。ついでに術印らしきものまで乗っかっているのはまあおいといて。 なんて恥ずかしいことをするんだ。…それを受け取って喜んでいる自分は、多分もう取り返しがつかないほどこの恋に溺れている。 「ああもう…明日は起きられないからちゃんと色々頼みましたよ…?」 自分が欲に負けた結果でもあるが、とりあえずそれは棚上げだ。動けないんだからなんとかしてもらわなくてはならない。 「もちろん!…でもちょっとやりすぎちゃいましたね。ごめんなさい…」 後悔するくらいならやるなといいたいが、ある意味襲ったのは自分からでもあるので、そこはつつかないで置くことにした。 どろどろで動けないってのに、今回の休日は自堕落に過ごすしかないってきまっちまったのに。 ああもう!こんなことで涙が出るほど幸せだ。 「お祝いありがとうございます。もう寝ましょう?」 「ん。そうですね」 「なに!?どうしたの!?」 「いーえ。なんにもただちょっと腰がいたかっただけです。いいからほら、誕生日プレゼントはちゃんと俺にくっついてなさい」 「…!はーい!」 驚いた顔も、言葉の意味を理解してほにゃりとゆるむ顔も、しょぼくれた顔だって勿論好きだ。 「アンタ、ずっと俺のでいなさいね?」 だからこれだけは命じておかないと。薄れ行く意識の中でなんとか言葉にすることができた。 満足感に浸りながら目を閉じると、小さな声で男が囁いた。 「好き、大好き。…来年も一杯お祝いさせてね?」 そうだな。今度からは最初から休みを取ろう。恋人をどろっどろに甘やかす権利なんて、ある意味最高の誕生日プレゼントだ。おまけに気持ちよくもなれる。後が辛いが。 来年も一緒にいることが当たり前に思えていることに感謝して、今度こそ俺は意識を手放したのだった。 ********************************************************************************* 適当。 イルカせんせサイド。寝落ちて更新しそこないました(´・ω・`) ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |