「欲しいならあげる」 そんなにモノ欲しげな顔をしていたんだろうか。 通りすがり…というか、野営地から少し離れた水場で、見知らぬ男からその手に持つものを手渡されてしまった。 水浴びにきたら先客がいた上に、見たことのない顔だったから面食らっただけなんだが。 それからまあ…正直に言うと、顔がいいからってついつい凝視もしていた。 そこをつっこまれなかっただけ、良かったんだろうか。同性の顔を執拗に見るなんて、変態扱いされてもおかしくはない。 とはいえ他意はなかった。本当にただただ驚いただけなんだ。 こんな野営地じゃ身づくろいも碌にできないから、それなりにむさくるしいことになっている連中ばかりだというのに、男は妙に小奇麗というか、まさに掃き溜めに鶴というか…とにかく一人だけ妙に綺麗だった。一瞬人外のものかと思う程度には。 …腕の刺青で所属は知れたが、それでも思わず視線を逸らしそこなった自分が悪いのは確かだ。 水も滴るいい男を地で行く姿に、腹も立たなかった。 むしろ月夜に映える白い肌は鍛え上げられていて、自分の鍛錬不足を反省するばかりだ。 久しぶりの任務。そう大したランクのものではないとはいえ、だらけすぎていたかもしれない。 「ありがとうございます。でもですね…」 顔すら知らない男からモノを貰う謂れはない。 更に言うなら、後が怖い。 …ひょいと投げ渡されたにもかかわらず、手の中にある石らしきものは透き通って蒼い。傷一つ磨き上げられたこれが、おもちゃの類ではないというのはすぐに分かった。 なんだってこんなもん裸でもってんだろう。この人。 「ああ、水浴びするの?どーぞ。…俺はもうおわったから」 いつの間に水からでていたんだろう。肩に置かれた手を、思わずまじまじと見つめてしまった。 綺麗な指だ。…でもどこかで見覚えがあるような。 そんなことを考えている間にも、男は無造作に身体を拭き、さっさと忍服を身に着けている。 「あ、あの!すみませんでした!俺は別に後でも大丈夫ですのでゆっくり…」 「んー?もういいの。大丈夫だから。…じゃ」 「あ、はい!…え!あー!」 敵はもうあらかた片付けおわったとはいえ、こんな所で忍にあるまじき大声を上げてしまった。 見覚えがあるはずだ。服を全部きたのをみたら…あれ、カカシ先生だったんじゃないか! 同じ部隊にいること事態気づいていなかった。たしかに大所帯ではあったけど、依頼人の見得のためってのが正しいこの状況で、わざわざあの人を。…まあだからこそあの人なのかもしれないが。有名ってことなら、木の葉であの人以上の人はほぼいないといっていいくらいだから。 「もらっちまったよ…どうしよう。これ」 考えたくもないが、あの人が持っていたならなにかの忍具か、そうでなくても目が飛び出そうなくらい高い宝石であることは確かだ。 海の青を溶かし込んだような透き通った石。…それはもう綺麗なんだがどうしたもんだろうか。 今日は色々驚くことが多かったが、コレは極め付けだ。 誕生日だからって祝ってくれるような特別な相手もいない。里にいれば一楽の誕生日スペシャルが食べられたのに、野営地で誕生日なんてついてないなと思ったくらいだった。 それがどこから漏れたのか、知り合いが口々に祝いの言葉を口にし、ちょっとしたもの…携帯していた菓子だったり、タバコだったり、千本だったり…かたっぱしからおいて行かれたのだ。 もう里へ帰るだけとはいえ、ありがたいものもあった。気を遣わせて悪いなと思いながら礼をいい、全部一まとめにしておいたんだが…これは、懐にでもしまっておくしかないだろう。 里に帰って、返せばいい。そのためには大事に保管しなくては。…なくしでもしたら目も当てられない。 「偶然なんだろうけど、カカシ先生までくれるなんてな」 いい人だ。子ども達が巣立っていくに連れて殆ど会話もしなくなってしまったけど。 里に帰ったら少し話でもしてみようか。…お礼と、それから受け取れないってことと、それから今感じているこの暖かな思いを。 普段なら日課にしている水浴びをすっかり忘れて、俺はしばらくその場にたたずんでいた。 里に帰ってすぐ首尾よく件の上忍をつかまえることができ、なんだかんだと告白されるはめになるなんて、そのときは思いもしなかった。 …もっというなら、カカシさんが誕生日プレゼントに悩んでいたおかげで周りに俺の誕生日が知れ渡ったとか、俺にプレゼントをわたしそこねそうだったから、慌てて押し付けてしまったとかそういうことまで知る羽目になった。 思った以上に不器用で、ちょっとおっちょこちょいで、それから…それから一途な人であるらしい。 「好き」 余計なことには饒舌なくせに、こういうときは不器用な人を愛おしく思えたから。 …とりあえず、お付き合いってものを始めることにしておいた。 ********************************************************************************* 適当。 水浴び中忍を見つめるために物陰に隠れた上忍ぷらいすれす。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |