いらないならちょうだい(適当)



皆死んでしまうから辛くて辛くて、でもそんなこと誰にもいえないから鬱屈した思いは澱のように溜まっていった。
任務は途切れることなく降って来て、そしてそれを確実にこなすことだけを期待される。
そりゃそうだよね。俺強いし。
失敗すればそれまでだってのは、父親を見てよーっく分かっている。
あの人はなにも失敗なんかしていない。
今はそう思えるけど、周りは決してそうは思わないってことも理解している。
求められているのは常に成功だけ。
俺がよき忍であれば。…よき武器であればいいだけの話だ。
殺して殺して殺して、それからふと気づいたときには、誰もいなかっただけ。
そして…それが寂しいなら俺も後を追えばいいんじゃないかと気づいた。
誰も俺のことなんかみちゃいない。
ふっと里から姿を消すこともできるだろう。
抜け忍になる可能性を危ぶまれてはいるだろうけどね?
何せ特定の女なんかつくったことがないし、里への執着といえば慰霊碑に眠る大切な人たちだけ。
つまりはもうどこにもいない。
里からでれば追っ手がくるだろう。そしてそれはその直前まで守るべき仲間だったモノたちだ。
蹴散らして逃げることは多分できる。
…そうすれば…あの冷たい石に刻まれた名前だけになってしまった人たちが、悲しみそうな気がした。
でも、もう無理だったんだって言えばさぁ。許してくれるんじゃないかな。もう戦わなくていいよって言ってくれるんじゃないかなぁ。
だって誰も傷つけた訳じゃない。俺が一人消えるだけだ。
そう思いついたら壁だらけだった道がまっすぐに開けたみたいに唐突に目の前が明るくなった。
足取りも軽く里の外れを歩む。
底なし沼がいいだろうか。それとも崖?いっそ術でもいいんだけど、火は消しそこなったら大変だしね。
忍の里はこういうとき楽だ。普通なら中々ないようなちょうどいい場所が、演習場にわんさと転がっている。
ひさしぶりにうきうきした。歩いて歩いて、ぶち当たった池はおあつらえ向きに深そうで、ここならいいかもと早速沈もうと思ったんだけど。
…先客がいたのだ。
水中に静かに沈んでいく誰か。知らない顔だけど、放っておくわけにも行かない。
誰かが死んでる所で死ぬのもねぇ?俺がどうこうしたって思われるのも嫌だし。
だから捕まえて引きずり上げようとして、目を真ん丸くして驚く顔がちょっと楽しかったりしたんだけど。
「なにすんですか!…というかアナタはなにしようとしてたんですか!」
「んー?そっちは?」
「俺は修行です!ここは演習場なんだから当然です。…でもアンタ違うでしょう!」
なんでわかっちゃうんだか知らないけど、びしょぬれの体をぎゅうぎゅう捕まえられて、どうやら離してくれそうにないことだけは分かった。
「いらなくなっちゃったんだもの。もう。俺が」
説明するのも面倒でそれだけ言ってみた。
ここは止めよう。やっぱり崖がいいかもしれない。目が…目が腐らないようにしなきゃいけないってのを思い出したから、ちょっと他にも準備しなきゃいけないけど。
…こんな男一人、殺さずに振り切ることくらい簡単だ。ただ、この人の良さそうな男を傷つけてしまいそうなのは嫌だけど。
「いらないんですか?」
「ええ」
頷くとにかっと笑われた。
なんだろう。なんで嬉しそうなのこの人?
「じゃあアンタを下さいよ。いらないんでしょう?」
「えー…?」
予想外だ。上げるって…上げちゃってもいいものなの?俺って。
でも、どうしよう。なんか嬉しいんだけど。
「とりあえず俺は自分のモノが濡れて冷えて真っ白なんて嬉しくないんで、家に帰りますよ!」
「…はぁい」
手を引かれる。水の中に使っていたはずの男の方がずっと暖かいのが不思議だ。
でもなんだか振り払えなくて、そのまま家って所につれて帰られて、風呂もあったかくて男の手も飯も…布団も勿論あったかかった。
「もう俺がもらったんだから、勝手にどっかいったらだめですよ?」
抱きしめられてちょっとむらむらする。この人変わってるけど…なんだろう。どうしよう。
「ん。どこにもいきません」
勝手にさらさらと動く口は、どうやら俺よりも本能に忠実らしい。
「なら、いいです」
またにかっと笑われてなでられて、もうこの人のモノになったんだし、勝手に色々するのは諦めようと思った。

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適当。
とりあえずしめっぽく。
ではではー!ご意見、ご感想などお気軽にどうぞー!


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