犬まみれの日(適当)


やわらかくて暖かくて居心地のいい寝床が、いつの間にかそれなりに暖かいが硬いモノに変わっていた。
「ふが?う…うー?」
おかしい。さっきまで大きな犬たちと一緒に寝てたはずなのに、つるつるして硬い。不審に思って手探りで感触を確かめてみたら、一部の毛並みだけがヤケにふわふわだ。
こんな毛並みのヤツ、いたっけ?
必死に思い返してみても、寝ぼけた頭では沢山いたってことくらいしか思い出せなかった。
昨夜のことだ。庭先に迷い込んできたらしいでっかいイキモノたちに、最初はそれなりに警戒したものの、しょぼくれた顔でくーんくーん泣くんだもんな。ほっとけねぇよな。かわいいし。
幸い俺の家は賃貸だけど、忍用だから獣を入れることにも寛容だ。明日飼い主を探すとして、とりあえず今日のところはうちで過ごさせよう。
そう決めて、なけなしの肉とか、貰ってきた魚のあらとかを適当にゆでたり焼いたりして食わせたあと、寝室に連れ込んだ。
少ないながらも餌を食って落ち着いたのか、全員揃って布団の周りを陣取り、中でも一際大きな口のたぷたぷした犬は俺の布団に重なるようにして寝転んでたから、折角だしと、犬を枕に寝ることにした。…はずだったんだけどな?
「んー?寝ようよ」
そうだ。俺はねむい。眠いんだけど…なんだろう。これ。
犬っぽい匂いはするんだけど、しゃべるってことは忍犬だったのか?本当はこのさわり心地からして怖い事実にたどり着きそうだから、目を瞑ったままでいたい。…けど、それも怖い。
思い切って重たくて仕方がないまぶたをこじ開けたら、懐にみたことのないものが居座っていた。
「うー…?え?あ?」
なんだ?何が起こったんだ?
人間がいる。犬がいない。あんなに沢山いたのに一匹も。
「うちのこ匿ってくれてありがとね」
うちのこ…ってことはあの犬たちは全員コイツのなのか。うらやましい。まああのでっかい犬たちを養えるほどの給料はもらってないけどな!
それにしても変なヤツだ。勝手に俺んちに上がりこむのはどうかと思うが、まあ緊急事態だったんだろうからそこは流すことにしても、俺の布団に潜り込んでくる方の意味がわからない。
うーん?でもまあ、飼い主は探さなくて良くなった。だって目の前にいるもんな。
ってことは…もう寝ていいよな?
「…こまったときはおたがいさまだ。おやすみ」
襲い来る眠気に抗えないまま、さっさと意識を手放した。
翌日、朝になってから流石にまずかったんじゃないかって思ったんだけどな。二の腕に見たらいけない刺青がくっついてたし、顔半分隠してるけど夜みたときは全部出してあったし。
記憶消されたりするんだろうかと警戒しつつも、何故か用意してあった飯を一緒に食ったら、大人しく家に帰ったから良かったんだが。
結局、その翌日からそいつが犬を連れて遊びにくるようになったとか、いつもいつも男だけ勝手に泊まって行くようになったとか、そうやって油断しきっていたらぺろっといただかれていつの間にか籍まで入れられていたとかって言うのは…。
俺の一生の不覚なのかもしれない。


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適当。
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