寝正月(適当)


「「あけましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします」」
 二人揃って頭を下げて、本当なら御節と一緒に酒の一杯も飲みたいところだが、起き上がれない。
 任務はいつだって待っちゃくれないから、節目節目の行事もいつもできるってわけじゃなかった。
でも今年は。
どうしても祝いたいと強請るこの人のためにツテを総動員して御節だなんだと大騒ぎしながら一緒に作って、両親を亡くしてから始めてマトモな正月を迎える予定だったんだ。
俺もがんばったがこの人も頑張った。
出汁のとり方とかは俺の方が馴れてるのと薬学得意だしな。調合系なら完璧だってんで俺が受け持った。で。野菜を切るのはこの人の方が器用だからさくさく済んで、煮物は結構簡単に済んだ。
金団はカカシさんは甘い物が苦手だから俺が作って、かずのこは…何がつぼに入ったんだかしらないが、ブツブツ言いながらカカシさんが作ってくれて、黒豆はやわらかい派(俺)硬い派(カカシさん)で喧々諤々の議論を繰り広げた後、結局両方作ればいいってことになって二人で二種類作った。
正月飾りも頼んでおいたのを受け取ってきて、お榊やお神酒や四方封じの塩なんかもしっかり準備して、後は正月を迎え撃つばかりとなっていたところだったんだ。
そう。俺たちは完璧だった。
ただ任務はそんなことに関係なくふって湧いたというだけのことだ。
師走も押し迫ったというか、大晦日の昼過ぎになって、二人してコタツでゴロゴロしてたら、窓ガラスをガッツンガッツンでっかいカラスが叩いてきて、それが急な任務を知らせるモノだって言うのは受け取る前から分かってしまった。
顔を見合わせて泣きそうに眉を思いっきり下げて、行ってきますと呟いたのを見送って、だから俺は今回もやっぱりダメだったかって、諦めかけていた。
幸いしっかり味付けしてある。数日ならもつだろう。せっせと冷蔵庫に仕舞いこみながらそんな言い訳をして、二人でどれが甘いか比べながら食ってたときは美味かったみかんはもう見たくもなくて、ふてくされるようにして、それでも一縷の希望を抱いて部屋の掃除だのなんだのは完遂した。
そうして、俺は待った。待ち続けた。
だってあんなに楽しみにしてたんだ。もしかしたらを望まないわけがない。
帰ってきたらすぐ入れるように風呂と、後は新品の寝巻きとかい…とにかく諸々用意して、残りは祈ることくらいしか出来る事がなくて、時計の針が進んでしまうことにすら痛みを覚えていた気がする。
そうして、結局除夜の鐘が鳴り響く中、やっぱり間に合わなかったカカシさんを思いながら心の中で密かに男泣きして、しょうがないから風呂だけでも入ろうと湯船でぼーっとしてたら。
ふってきた。カカシさんが。しかもクナイも忍具も巻物も、きっちり全部フル装備で。
「うお!?わー!大丈夫ですかカカシさん!」
「ただ、いま…!やった!避雷針成功!間に合いましたよね!まだごーんって!」
「間に合いましたね!やった!」
 半分湯船に沈みかけたのを大慌てで引き上げてドロドロのカカシさんに抱きついて大騒ぎして、その舞い上がったテンションのままにそのー…そのだな。えーっと。
まあ、ヤっちまった訳だ。
良く考えれば正月の準備に気合が入りすぎていた俺たちは、その間すっかりご無沙汰だった。二人とも凝り性だからなぁ。今までも術の開発についてとかで、二人して集中しすぎてサクラにちゃんとお風呂とか入ってるのって怒られたこともあった。
で、火がついちまえば止まれないのは雄のサガ。
風呂場でヤって、ドロドロの忍服をタライに放り込んで寝床に転がり込んでからも止まれなくて、むしろ着替えに興奮したカカシさんの手により、脱衣所でもそのーあー…。
要は、除夜の鐘では煩悩は一切消えてくれなかったってことだな。
任務帰り、しかもかなり無茶をした上で荒淫に走ったカカシさんも、一人ぼっちの大掃除で寂しいのを誤魔化すために盛大に徹底的に掃除に励んだ俺も、多少体力が落ちていたんだと思う。
朝がきて、まず気付いたことは、起き上がれない、腰が痛いケツも痛い、ついでに楽しみにしていた初日の出はヤってる間に上っていたってことだった。
折角の正月なのに、これじゃまさに寝正月で終わっちまいそうだ。
「おせちー後で食いましょうね」
「イルカ先生いっぱい食べちゃったんで、今はおなか一杯ですしねー?まだできちゃいそうだけど」
じったりと不穏な視線を向けられたので、とっさに鼻の頭をぺちりと叩く。ったくもう。任務漬けでもこっちだけは衰えねぇよなぁ。どうなってんだか。
「アンタ起き上がれるようになってから言いなさい」
「…はーい」
1年の計は元旦にありというが…これじゃ今年も思いやられる。
が、しかし。
「今年もずーっと一緒にいられるってことかもしれんな」
そう思えばなんだか気分がよくなってくるから不思議なもんだ。
一人ニヤ付く俺に、何故かカカシさんがすがり付いてくるまで、いつの間にかカカシさんが怒っていることに気付かなかった。
「今年もだけなんてダメですからね…?俺はいきてる限りイルカ先生に取り付くんですから」
「そ、そうですね!」
殺気混じりに穏やかに、且つ若干の狂気を感じさせる台詞を吐いて、しかもかっこいいってんだから凄い人だ。絶対無意識だもんなー。
「御節食べて初詣行って、それから一緒に酒飲んでだらだらするのを定番にするんです。温泉も計画します。折角休み取れる立場になったんだからぜーったいそこは譲りません」
…引退しても引っ張りだこなんだけどな。現役火影よりはましだけど。大体今回だって何でギリギリになっちまったのかって、忘れてるんじゃないだろうか。そういう所もかわいいんだけどな。
「俺は生きてても死んでても取り付いちまうだろうしなあ」
心配で放ってなんかおけねぇって。なにしでかすかわからんし。なにせ顔のいい気狂いってこういう人のこと言うんだろうなっていうのが、俺から見たこの人の評価だったからな。
初対面から気さくなようでいて、会話に不自然な間があるし、気付いたら背後にいるし、飯食ってるとにこにこ笑うからかわいなーって思ったのに、イルカ先生って卑猥ですねとかいい笑顔のまま言い出す始末。腹立ちまぎれに笑顔のまま水ぶっ掛けてやったら水遁でイルカ作って泳がせて、ついでに俺の大事に取っておいたチャーシュー奪ってくし。
何だコイツと思うだろ?ぶん殴ろうとしたら逃げられちまうったし。イライラしながら机に戻ったらそこにべらぼうに高いけど滅茶苦茶美味いお菓子がおいてあった。へのへのもへじつきで。
ちょっとだけ怒りが収まって、お茶の時間に封を切ったら一緒に食べましょうって追加のせんべいもったのが立ってて、何で上忍と優雅なティータイム満喫してんだ?って思いながら結局夕飯もほこほこついてくるから食わせる羽目になった。
で。だ。そのまま告白されてあれよあれよというまに恋人とやらに格上げされて、そうなってみるとかわいくみえちまうというか、あれだ。
…きっと俺もおかしいんだろうな。多分。
今思い出してみて深刻にそう思った。
本人的には、気を引きたかったって主張してたが、普通に上忍の気まぐれにしても迷惑すぎると思ってただけだったって。懐っこいのと飯食わすと喜ぶのと寂しくて眠れないとかいって布団入ってくるのがかわいくてな。ついつい。
うん。まあ、色々あるが、この人から目を離すと俺の方が心配で死にそうだから、この際諦めるしかないだろう。
「イ、イルカせんせ…!」
「うお!何すんですか!」
いきなり飛び掛ってこられると腰が辛い。骨ずれてんじゃねぇかってくらい痛む腰に、更なる負担をかけないで欲しい。
普段から頓狂な言動と行動の目立つ人だが、それにしても、何があったんだ?
「俺も、ずーっと一緒にいます」
「はいはい。ちゃんと休んで御節食えるようにしましょうね?」
「うん」
ぴったりくっついて剥がれそうにないイキモノを撤去することはもはや諦めた。素肌の感触は色々と危ういが心地良い。 なによりまぶたがもう開いてくれそうにない。
「おやすみなさい」
「ん。おやすみなさい。…食ってからまたやりましょうね?」
それに関しては応相談っつーかいい加減枯れろ。
そう説教するのも後回しにすることにして、俺は襲い来る眠気に逆らわず意識を手放したのだった。

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適当。
あけまして。今年がよき年でありますように。
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