シーツを握り締める。 柄こそ変わっているがきちんと洗濯もされていて清潔で、昨日あれだけ汚したのにこれってことは、むしろ寝ている間に交換してくれたってことだろう。 こういうのを物の弾みで…というより、魔がさしたの方が正しいか? 久しぶりに会った顔見知りの上忍に誘われて飯を食いに行って、俺の方もついこの間フラれたばかりで人恋しかったというか。 多分それは相手も同じだったんだろう。そうじゃなきゃさほど親しくもない、しかも格下の同性をわざわざ誘ったりしないもんな。 杯を重ねてほろ酔いよりちょっと飲みすぎたかって辺りで店をでることにして、このまま一人の家に帰るのも寂しいなぁと思っていたのを気取られたか、相手も同じことを思ったのか、家に来ればいいといわれてそのままほこほこあがりこんで…。 なにがどうなったか知らないが、セックスしてしまった。 最初は普通の態度だったはずなのに、距離が近いなと思ったときには押し倒されていて、見上げた先には確かな欲望を宿した瞳があって、まあそのままなるようになった訳だ。 行為自体は執拗で半ば無理矢理だったが気持ちよすぎて拒めないまま、何度も達して、それから俺を抱く男に注ぎ込まれたモノでシーツがべたべたになるまでヤりたおしてしまった。 それがまた気持ちよかったんだよ。むしろよすぎた。 こんなんじゃ詰るにも詰れない。荒淫のツケは体中に居座っていて、残された痕に冷や汗をかいてみても、身じろぎするだけで痛む腰と、それ以上に熱を持って疼く箇所がいたたまれない。 寂しさを忘れさせてくれたことには感謝した方がいい気もするし、ここは一つ、全部なかったことにすべきなんじゃないだろうか。 「あ、起きたの?もうちょっと寝てたら?」 のんきだ。というかマイペースなんだよな。この人は常に。それはそれとして、素肌に自分が立てた爪の痕や、勢いで噛み付いてしまったときの痕を見つけてしまえば、平静でいられる訳もない。 「わ、忘れてください…!」 洗濯の礼とか、酒のお代だってどう払ったかも曖昧で、泊めてもらったことに対しても感謝を伝えるのも忘れるほど動揺していた。 逃げたい。それだけを考えていた気がする。いたたまれなかったんだ。それくらい。 「あーなるほど。これって運命?」 「は?」 唐突な言葉に頭が付いていかない。どうしたらいいのかわからないまま一瞬思考も停止した。 おかげで腰にまわる腕にも、再びベッドに引きずり込まれても、どうすることもできなかった。 「俺、こんなに気持ちよかったの初めてです。最後まで付き合ってもらえたのも」 「うっ!それはその!わ、忘れて…」 「じゃ、しましょっか?」 「な、にを?」 「んー?結婚?」 「…は?」 疑問符が頭の中を一杯にして、体から覚えてもらおうかななんていう意味の分からない言葉を実行されて、それこそ動けなくなるまでヤって、それがまた気持ちよすぎて…って、もうこれは取り返しが付かないんじゃないだろうか。 そう気づいたときには俺の賃貸が勝手に解約されていて、毎日一夜をともに下だけのはずの男が迎えに来るようになって、ついでにどうやったのか籍まで入っていた。夫婦別姓にしときましたって、それは報告なのか。俺の人権は。 「ね、しましょっか?」 「し、しません!」 「そんなこといって期待してるでしょ?…ほら、もうこんなだ」 「え、あ!ちょっ!待て待て待て!」 「はいはい。続きはベッドで聞くから」 …こんなに爛れた毎日を送っていていいんだろうか。 一瞬冷静になってそう思うことも頻繁なのだが。 「気持ちいいんでしょ?」 「うっ!それはそうですが!」 「ならいいじゃない。俺は幸せですよ?」 「…そ?そうなんですか?」 「そうそう。だからね、しよ?」 「へ?わっこらまてあっ!」 流されるままに始まった生活…いやもしかして性活か。とにかく満たされすぎているこの状況から、どうも抜け出せる気がしないのだった。 ******************************************************************************** 適当。 確信犯。めろめろにしてから囲い込む大作戦は成功に終わったとか終わらないとか。 |