勢い(適当)


酒の勢いってのは恐ろしい。
確かに俺も酔っぱらっていた。
そして多分同じ寝床で呆然としている上忍も、原因は酒じゃないにしろ、頭が沸いていたのは間違いないだろう。
「…やっちまった…」
自分のものとは思えないかすれ切った声に、上忍がびくっと体を震わせた。
視線を合わせられないでいるのか、うつむいてぐちゃぐちゃになったシーツを見つめている。
そのくせ俺が身じろぎしてその痛みに呻くたびにおどおどとこちらの様子を伺ってくるのだ。
…上忍のくせになんだか小動物みたいだ。
やっちまったと言っても、どちらかというとやられたのはこっちの方なのだが、叱られるのに怯えている犬みたいな男の素振りのせいでどうにもやり辛い。
責める気なんて最初からなかった。
いや、少しは加減しろとか、なんで俺みたいなどっからどうみても男にしか見えないのを捕まえて、ここまでやったんだって辺りは聞きたいと思ったけど。
何せぐだぐだになるまで痛飲し、その上明らかに任務帰りだと分かる暗部に…たとえその髪の色で誰だかわかったとしても…親しげに声をかけた挙句に頭を撫でるなんて真似をした方が悪い。
元々酒を過ごすと陽気になりすぎてしまう方だ。これまでも何度かちょっとした失敗はしでかしたことがある。
…正気に返ったら見知らぬ人たちと一緒に力いっぱい忍談義してたり、桜の木下で団子になって寝つぶれてたことくらいだったけどな。 流石に、目覚めたら見知らぬ男と一夜を共にしてましたなんてのは初めてだ。
しかもしっかりやることやってるなんて、ありえない。
せめて酔ってる間のことを覚えていなければまだ救いようがあるのに、残念ながら大部分の記憶が、それもばっちり残っている。
行き成り引っさらわれて知らない部屋にいて、それが面白くてけらけら笑ってたら勢い良く服をひんむかれて、ついでに面を投げ捨てた上忍の苦しそうな表情を心配してたら、あれよあれよというまになるようになっていた。
入れられそうになってるってことに気づいた段階で流石に抵抗染みた行動に出た気もするが、興奮に高ぶった精神のまま俺を組み敷いたらしい上忍は、すっかり力加減なんてものを忘れていて、最後まできっちり全部やられてしまったって訳だ。
今思い返すだに、自分の馬鹿さ加減に涙が出る。
何をされているか気づくのが忍のくせに致命的に遅すぎたし、最初の行動からしてありえない。
あの時感じた血臭は、今でも覚えている。警戒する前にこの人を慰めなきゃって思ったのも。
本当なら逃げるか気づかないフリをすべきだった。
それなのに、面の奥でゆらぐ瞳が、なんだか泣いてるように見えて放っておけなかった。
だって、この人は俺のことをどう思っているかしらないけど、俺にとっては…。
「ごめんなさい」
「へ?」
唐突な謝罪に驚きすぎて、間抜けな声が出てしまった。
それを笑いもせずに、男が今日になって初めて俺に視線を向けてくれた。
「アナタが笑ってくれて…我慢できませんでした。俺を訴えてくれてもかまいません。どんなにアナタが欲しくても思いとどまるべきだったのに」
ああまただ。あの時と同じ顔。
「なんでそうなるんですか」
男と寝るのが好きだなんて噂でも一度も聞いたことがない。
あんなときでもなければ、自分でどこかで処理しきれたはずだ。…色町などいくらでもあるのだから。それを思うと自分の方が申し訳なく思えてくる。
ただ俺は、この人に悲しんでもらいたくなかったんだ。
「だって、いやだって言ってたのに…最低でしょ?上忍のくせに」
「あーえーその、他の女性とかなら流石に怒ります。でも、アナタは…その、俺の大切な人なので」
ぼかしていっても意味は分かってしまっただろう。
目を見開いているこの人を見れば分かる。
酔いが冷めて冷静になった分、いたたまれなさもひとしおだ。
「…それ、どういう意味?」
ああ、終わりだな。ひそかに抱え続けた思いは自分にとっても重かったから、ここらで日と区切りつけるべきだったんだろう。
「付きまとうつもりも…これを理由に何かってことも考えてません。ただ、俺は…」
そこから先が上手く言えなかった。言ってしまえば終わりになってしまうかもしれない。 さっきまで感じていた脳が焼ききれそうな快感と密やかな幸福感なんて、幻だと分かっていたのに、俺はそれが失われることを惜しんでしまったのかもしれない。
突然、男が俺にすがりつくように抱きついてきた。
「好き。好きなんです。だから言って」
「…え…?」
「嫌なら、ちゃんと言って。お願い」
その懇願はあまりにも都合がよすぎて、でも言わなきゃと思った。
今しか、きっと言えない。こんなにぐちゃぐちゃで、訳が分からなくなっているときくらいしか。
「好きです。でも、ずっというつもりはなくて、だけど…」
「ああ…」
落胆とも歓喜ともつかぬため息は、もしかしてその両方だったのかもしれない。
「ごめん。でも駄目。だって好きすぎて我慢できない」
昨夜のように任務で血に酔ったんじゃなくて、明確な意思を持って俺の肌を暴き始めた男の手に、くすぶっていた熱があっという間によみがえってしまった。
もう、駄目だ。
「俺も、我慢できません」
泣き笑いで口付けた男が、同じような顔をしていることにまた笑って、それから。
それから、ずっと一緒にいる。



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適当。
変な話。気づいたら寝ていたのでやっつけがさらにやっつけでござる…。
ではではー!なにかご意見ご感想等ございますれば御気軽にお知らせくださいませ!

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