生贄の幸福(適当)


突きつけられたクナイがぷつりと音を立てて僅かに沈んだ。
痛みは、一瞬。
だがその一瞬で俺は完全に身動きする隙を失った。
ふわりと笑った男を見る。
何故か、酷く幸せそうだ。
首筋から滴る生暖かい命の欠片は、俺に凶器を向けた男の口の中に消えた。
「甘い、ね」
…それが俺の行動に対してなのか、それとも男の口内に消えた鉄さびくさい液体のせいなのか、俺には分からなかった。
男は木の葉の忍で、上忍で…俺に構う暇などないほど、忙しい日々を送っているはずだ。
里の状況は良いとはいえない。
里長の命と引き換えに永らえた里は、それだけでは足りないとばかりに、さらに多くの命を求めた。
里中の忍が任務に借り出され、傷つき倒れるまで戦い続けている。
アカデミー教師である俺でも例外ではないのだから、実力のあるものなら猶のことだろう。任務は降りしきる雨のように少しずつ忍たちの体力を奪い、時に痛みを感じることすら忘れさせた。
この男も、そうなのだろうか。
「カカシさん」
名を呼んだのは、それなりに付き合いのあった人が、まるで別人のようだったからだ。
ギリギリの所まで己を追い込み、戦い続けるものほど狂うのが早い。
狂気に飲まれてもどってこられない者たちもいる。
飢えた乳飲み子のように赤い…自分から流れ出した体液を干す男は、今その境界に立っているのだろう。
無意識につかんだ腕は、振り払われなかった。
「イルカせんせ。…どうしてここに来ちゃったの?」
男が笑う。…涙を流しながら。
互いに任務中だと知っていて、男は問う。
「カカシさん。触れても良いですか?」
それに答えずにそっと触れると、男が苦しげに瞳を閉じた。
「ねぇ。駄目。そんなことしないで?我慢できなくなる」
アナタの全部を自分のモノにしてしまいたくなる。
告白は俺の血で赤く染まって、まるで紅でもさしたような唇から零れ落ちた。
胸が、苦しい。
こんなにも男は苦しんでいるのに、思われていることが嬉しい。
「…どうぞ。欲しいのなら」
俺はずっとアナタが好きだったから。
そう告げたときの男の表情を、俺は一生忘れないだろう。
獣の瞳は一瞬だけ理性を映して、それから。
「もう、駄目。ずっと我慢してたのに」
欲望に屈服した獣は俺だけを見ていた。
…酷く幸福な痛みに飲み込まれて、自分だけを求める獣に全てを差し出した。
ねじ込まれた欲望を受け入れて、喘ぐ俺に注がれるのは男が俺に欲情した証と、それから。
「好き」
切なげな悲鳴染みた告白を心地よく感じながら、俺はゆっくりと意識を手放した。
手に入れた大切な人に全てを捧げ、支配することに、暗い喜びを感じながら。


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適当。
ねむけにまけました。
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