いい肉の日(適当)

仕事が終わったとはいえ、受付所で騒いでいたのがまずかったかもしれない。
「あんたそんなに嬉しいんですかそれが」
同僚との会話に割り込んできた凄腕と名高い銀髪の上忍は、あからさまに冷ややかな視線を向けてきた。
任務から帰ってきたばかりで疲れていたのかもしれない。
そう思ってはみたものの、少しだけ腹が立ったのも事実だ。
とはいえ、今の俺は機嫌がいい。
たかか不機嫌な上忍に馬鹿にされたぐらいじゃ、この喜びは揺らがない。
なんてったって。
「ええもちろん!安月給の中忍なもので、木の葉牛なんてめったに食べられませんからね!」
そう、めったに食べられない肉…それも最高級の木の葉牛なんて、こんな機会でもなければ口にできない。
これまでいい肉の日とやらを知らなかったこと激しく後悔した。
たまたま商店街のキャンペーンで当たりを引いたときは、その存在をさっぱり知らなかったから喜ぶ前に驚きが先にきて、手渡された引き換え券を見たときは喜びよりも何かの罠を疑ったくらいだったけど。
まあつまり、それくらい俺にとっては縁のない美味い食い物が手に入るのだ。少しくらい舞い上がっても罰は当たらないだろう。
普段から高いものばっかり食ってそうな高給取りの上忍に馬鹿にされたくらいで、肉への期待は変わらない。
期待に満ち溢れたまま、上忍に微笑むと…何故かごくりとつばを飲み込む音がした。
何だ上忍?やらないぞ!これは俺のだ!商店街の商品券だから、流石に一杯はないんだぞ!グラムで決まってるから、ステーキとすきやきで最後まで迷ったんだからな!
「肉、好きなの」
「ええ、まあ」
魚も好きだ。肉と同じく高級品だから俺にはあんまり手が出ないけど。まあ下手にちょこっとだけの高級な刺身を食うくらいなら、らーめんの方が好きっていう貧乏舌だけど、美味いものは分かる。
そういう意味では一楽のらーめんは最高だよな…!安くて美味くて…!
「…じゃ、今度飯食いにいかない?って誘ったらくる?」
「へ?」
なんでそんなに決死の覚悟決めて敵陣に突っ込んでく時みたいな顔してるんだろう。この上忍は。
誘われる理由によるなんて正直に言ったら危険だろうか?
じいちゃ…三代目もよく俺に飯を食わせてくれたけど、その半分は見合いの勧めかもうちょっと自分の体に気を使えとかっていう小言もセットだ。それも大事に思ってくれてるからだって思えるから逆に嬉しいんだけどな!
「木の葉牛でいいんでしょ?…いや?」
「…いえ。美味いものは好きですから。ただそのー…俺はそんなにしょっちゅう外食ができるほど、その、先立つものが」
しょぼくれた生徒なんかがいたら、うっかりらーめん奢っちゃったりするしなぁ…お陰で自炊の腕ばっかりあがったけど。
「奢る」
「行きます!」
脊髄反射で返事をしたのは、…まあその、肉好きなんだよ!三代目は御年だからお相伴に預かることがあってもあっさり系のことが多いし!めったに食えないもの鼻先にぶら下げられたらつい吊られちゃうだろ!
この上忍に悪意は感じられないってのが一番大きな理由だけど。
「じゃ、明日。ここに迎えに来るから。よろしくね?」
「え。あ!はい!」
返事を待たずに上忍は一瞬で消えていた。
なんでわざわざ瞬身なんて使ったんだろう。そんなに慌てることないだろうに。
…もしかしてナルトのことでそんなに悩んでたんだろうか。わざわざ飯に誘うってことはなんかあるんだろうけど、その中身が恐ろしい。
「でも、まあ肉だしな」
今日も肉、そして明日も肉。
しばらく粗食が続いてもがんばれるかもしれない。
俺の頭は今夜久しぶりに食べられるはずの木の葉牛のステーキに飛んでしまい、それ以上深く上忍の誘いの意味を考えることはなかった。
******
「ど?おいしかった?」
「ええ。肉はね…!」
奢りというか、木の葉牛でつやっつやになった俺を引っさらうように迎えに来た上忍につれられてきたのは、上忍の家だった。
すきやきとステーキで迷ってステーキを取った俺のためにか、豪勢なすき焼きと、それからちょこちょこ他にも美味そうなものが並んでいて、男の目的のことなんてすっかりわすれていた。
だって普通、全部平らげた後、俺まで平らげられるなんて思わないじゃないか。
程よく酔っ払って腹も一杯でふわふわした気分を楽しんでたら、そのままベッドに連れ込まれた。
好きですなんて言われて、肉なんかでいいならアンタが体調崩さない程度ならいくらだって食わせてあげるからなんて懇願されて…あんまり必死だったから子どもにするみたいに頭をくしゃくしゃに撫で回してやった所までは覚えている。
それで最後までしっかり頂かれるなんて予想できるわけないだろ?
お陰で腰はがたがただ。散々とんでもないものを突っ込まれたところもじんじんと熱をはらんで疼いている。
…痛くないあたりが業師って所なのか。この際それをありがたいと思うべきだろうか。それとも、いきなり何するんだって殴ったら、この羞恥と混乱を何とかできるだろうか。
「明日は流石に肉ばっかりは良くないから、別のモノ作るね?」
同意も得ずに人のことをスッカリ綺麗に食べてしまった男は、どうやら俺を餌付けすることにきめたらしい。
なんだか、マズイ気がする。今俺が迫られている決断は、肉と引き換えにするには重大すぎる決断じゃないだろうか。
男と、なんて、考えたこともなかったのに。
その必死さが、人肌の心地よさが、不安そうに俺を見つめてきた揺れる瞳が…その全てが俺をグラつかせた。
だって、そうだろ?
寂しがり屋なのは自覚してる。肉も魅力的だけど…絶対この人俺の側からいなくならないって分かっちゃったんだよ。
「肉じゃなくてもいいです。色々すっとばしすぎたことは後で説教させろ。でも」
「でも…?」
少し震えた声からすると、大胆なことをしでかした割りに、まだ不安がっているらしい。
「俺も、好きですよ」
多分これでそれも吹っ飛ぶだろうけどな。
…俺の平穏な日常ってやつと一緒に。
喜ぶどころか理性を綺麗にすっ飛ばした男にまた散々挑まれるとまでは予想できなかったのは誤算だったということだけは、付け加えておく。
まあどっちにしろ、「いい肉なんて、アンタ以外に知らない」なんて明後日な台詞で喜ぶ男につける薬はなさそうだ。
幸せそうだからまあいいかって思う俺と同じくらいには。


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適当。
上忍はアホの子ですが、中忍はアホの子大好物でしたと言う話。
でも肉は鳥肉のが好きだ。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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