イイモノ(適当)


「イイモノ、見つけちゃった」
酷く楽しげな声が耳元に聞こえたのは覚えている。
その浮かれた興奮を隠そうともしない声は、成人した男の声なのにどこか幼くさえ感じて、純粋に微笑ましいと思えただろう。
…そのイイモノが俺だなんてきづかなかったから。
「へ?」
戦場で穏やかな気分になれることなどほとんどない。
まあ、当然だが…ぴりぴりした空気は野営中だろうがなんだろうが消えるはずもなく、精々薄れる程度だ。
それが…その声の主は本当に楽しげだったから、一瞬癒されたというのに。
足が宙に浮いていると気づいた時にはすでに恐ろしい速さで移動しており、あっという間に見知らぬ天幕の、妙に質の良い寝床の上に押し倒されていた。
「うん。やっぱり」
間近でみる声の主は、その声音に違わずキラキラと子どものように瞳を輝かせていて、この体勢を取らされていることとの繋がりなどまるで思いつかなかった。
するりと…まるで確かめるように動く手が、そのついでのように俺の服を剥ぎ取ってもなお、俺は相手の意図がまるでつかめなかった。
キレイな、男だ。
最初に声を聞いたときは相手の顔など見もしなかったが、間近で見るうっとりとした表情はあどけなささえ感じるのにどこかゾクっとする色気があった。
整いすぎた容姿のせいだろうか?危機感なくただ見ほれてしまったのは。
「え…?」
俺の服がいつの間に床に落とされ、それから男も服を脱ぎ捨てていく。露になる白い肌には目立った傷すらなく、唯一左目を塞ぐように走る古傷だけがまるで飾りのように男の肌に残るだけで。
その薄紅色に上気した頬がすっと寄せられて、その近さに驚いたときには全てが後戻りできなくなっていた。
「ん…。おいしそ。…ね、他もきっと美味しいよね?」
唇に触れて、俺の舌をぬるりと味わうように食んでいったソレが何かなんてわかりきっていたのに、俺はそれがなんのはじまりなのか分かっていなかった。
「おい、しい?」
「ちょっともう!かわいいし!…いいよね?誰かに盗られる前に、ちゃぁんと印つけとかないと!」
それから…ぼんやりする俺をせわしなく追い上げる手が何をしようとしているか理解する間に、僅かな痛みとソレを凌駕する快感を与えられて。
それから頭の中が真っ白になるくらいの激しさで全てを奪い取られていた。
*****
「イイモノ、みつけちゃった…!もう俺のだし!」
男は酷く幸せそうな声で俺に囁く。
何かとんでもないコトになっている気がするのに、俺もなぜか酷く満たされた気分なのが不思議だった。
「あ、の」
何を言ったらいいのか分からない。
だが近すぎる距離が…触れる肌のぬくもりと、今だ愛おしげに俺の肌をたどる悪戯な手が俺を戸惑わせるから、思わず声を掛けていた。
「ん?」
寄せられた唇が俺の顔中にキスを落として、いたたまれない。
良く考えるまでもなく、流されたとはいえ強いられた行為は処理でしかないだろう。
この生ぬるい幸福は、戦場の中だけのものに違いないのに、溺れてしまいそうな自分が恐ろしい。
ココの空気に狂ってしまうわけには行かない。任務は…まだ何も終わってはいないのだから。
「あの、あの…!」
どうか離してくれというべきだろうか?
この所の緊張感に磨り減った神経は、この心地良すぎる肌への依存を選んでしまいそうだからと。
だが、男は。
「なぁに?怖いの?大丈夫。俺がなんとかするから」
その笑顔が、声が、当たり前のことを言うように言い切った。
…自信というには自然すぎる物言いで。
俺にはうなずく以外のことが出来ないくらいに。
*****
そうして、溺れた熱の残滓で煮とけたように抜けた腰を気遣った男に待機を命じられ、動けない己の身を歯がゆく思いながら、それでも慣れない行為の疲労であっという間に意識は落ちて。
気付いたらもう里にたどり着いていたなんて…恐ろしい事実だと思う。
夢だと思ったほうが納得が出来る。
が、事実。
「ああ、起きた?ここ俺の家だから。いつ引っ越してくる?腰、まだ駄目でしょ?荷物は俺が運ぶから!」
矢継ぎ早にそう告げる男の腕の中で、息を呑んだ。
窓の外から見える顔岩は間違いなく木の葉の里で。
「な、ななな!?」
慌てふためく俺の腰はさっぱり役に立たないままだから、まだそんなに時間が経っていないのは明白だ。
「じゃ、これからずーっと宜しくねー!あ、一応。浮気相手は抹殺で、アンタもお仕置きしちゃうから気をつけてね?」
独占良く丸出しの物言いは最初に印象どおりの幼さなのに、その殺気はソレにそぐわない実力を感じさせてくれた。
理解できない。…その言葉に胸がときめくなんて。
「あ、あの!俺も!俺も浮気は…抹殺…?」
とりあえず権利を主張してみたくなったんだが、あまりの状況に上手く言えるはずもなくて。
「ん?俺は絶対しないから。大丈夫よ?」
ぎゅうっと抱きすくめられて、眩暈と共に溜息をついた。
イイモノ、みつけたのってどっちなんだろうと思いながら。


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適当ー!
ねむい。←ドヘタレ。
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