ね、いい?(適当)


「ね、いい?」
にこりと笑った上忍が、俺の手を取って体ごと引き寄せた。
なにがいい、だ。
「あんたいい加減懲りないんですか…」
何度も何度も誘われた。
最初は意味が分からなかったし、そういう意味での誘いだと分かってからも、上忍の悪ふざけだと思っていたのに。
ある日いつものようにやってきた上忍が吐いたお決まりの台詞に、軽い気持ちで「はいはい。いいですよ」なんていっちまったのが不味かった。
今更後悔しても仕方がないのは分かっている。
…そしてあの日の俺には、きっと男の意図に気づくことなんてできなかったんだろうってことも。
「そ。よかった!」
俺の軽口ににっこり微笑んだ上忍に、それから何をされたかなんて思い出したくもない。
連れて行かれた店は随分と高級そうで、飯は美味いし酒も美味いし…次の間に布団が敷いてあるなんて予想もしていなかった俺はしっかりきっちり酔っ払った。
腹もくちくなって、幸せな気持ちで今日の礼を言おうとした俺は、荷物のように持ち上げられてその布団に転がされたのだ。
俺の服を剥ぎ、男も服を脱ぎ捨て、あらわになった性器が既に十分に興奮していることに驚いた。
身の危険を感じるべきだったというのに、俺が取った行動といえば、その大きさとこの状況に夢でも見てるんだろうとぼんやりソレを眺めるばかりで…。
それをかわいいなどと屈辱的な表現をした男が、愛撫というには激しすぎる行為に及んだのは、その顔をみて興奮したからだと後から聞いた。
言い訳ばかりの男の言い分を聞く気になどなれないし、今更理由が分かった所で起こってしまったことは変えられない。
足の間に顔をうずめた男に、性器を、それから後ろにまで舌を這わされて、羞恥に悲鳴を上げて暴れた。
もがく俺に、男は怯むでもなくむしろさらに興奮したのか、中にまで舌を入れて散々蹂躙し、挙句そこをかき回すように指まで入れてきやがったのだ。
ぬかるむソコが立てるくちゅくちゅという水音は余りに卑猥すぎて、まるで自分が女になったかのように感じさせられた。
…そんな所で感じてしまうことが、酷く恐ろしくて。
ソレなのに望まぬ快感に鳴いて縋ってしまう自分が情けなくてたまらなかった。
散々嬲られて男がその凶器を俺につき立てた瞬間、そんなことすら考えられなくなってしまったけれど。
熱の記憶は今も鮮明だ。…思い出したくもないのに。
身の内に食んだ肉が熱液を吐き出し、誰も受け入れたことのなかったそこをどろどろになるまで汚したことも、その衝撃に小さな絶頂を迎えて、それに気をよくした男に、今度は性器に触れられもせずに達するまで後ろを穿たれたことも。
「報告書は受領済みです。お帰りください」
あんな風に訳が分からなくなるのはもうイヤだ。
見知らぬ寝床で抱き込まれたまま朝を迎えて、痛む腰を抱えて逃げるように家に帰って、後から後からにじみ出てくる男の欲望の証を洗い流したときに、誓ったのだ。
もう、この男とは関わらないと。
…ソレでなくても引く手数多の凄腕上忍だ。わざわざこんな男に構う理由など、せいぜい毛色の変わったおもちゃで遊んでみたかった程度のことに違いない。
今はまだ遊び足りないそぶりで俺にちょっかいをかけてきてはいるが、きっとすぐに他のおもちゃを見つけて去っていく。
だからできるだけ男の誘いは無視をして、忘れる努力をするしかない。
「やだね。…ねぇ。いいからおいで?」
「なにをおっしゃっているのか分かりかねます。何度もいいますが、既に受付は済んでおります。あなたがここにいる理由なんてない。お帰りください」
こんなにしつこいのは、俺が逃げたからだろうか。いっそのことなんでもないように笑っていればよかったとでも?
…迷いだらけの自分を追い詰めるように、男がタチの悪い笑みを浮かべた。
「意地っ張りもかわいいけどね」
すっと距離を縮められて、とっさにクナイに手をかけた。
同胞でも許せないことがある。…里内で伽の真似事などするつもりはない。
もっとも里外でも自分のようなごつい男に誘いをかけるものなどいはしなかったが。
この男だけだ。物好きにも俺にあんな風に触れてきたのも、こうしてしつこく誘いをかけるのも。
「離せ。俺はもうあんたとは…」
「ん、それは無理。だってもう俺のモノだし」
「なっ…!そんなの同意した覚えは…!」
「えー?最初に聞いたよ?イイ?って」
そんなのは詭弁だ。…うかつにうなずいた自分がおろかだということは痛感していても、こんなめちゃくちゃな言い訳を聞くつもりはなかった。
「黙れ。…あんたのおもちゃになるつもりはない」
「そ?」
そっけない返事に、これで開放されるんじゃないかと期待した。
「分かったなら…うわっ!?」
だが男はあっさりとソレを裏切って、俺を床に組み敷いたのだ。
「おもちゃにするつもりなんて、俺もないのよ。…ただ、あなたが欲しいだけ」
ま、もう俺のモノだけど。
そう呟いてうっとりとその夜の記憶を反芻しているらしい男に殺意さえ沸いたというのに、男はしたり顔で誘いをかけてきた。
「ここも、あそこもまたぐちゃぐちゃに蕩けちゃうまで舐めてあげるし、中から溢れてくるくらい擦って突いて出してあげるよ。何も考えられなくなるくらい俺で一杯にしてあげるから…」
「ふざけるな…!」
イヤだ。こんなの。…こんな自分勝手な男に満たされるなんて絶対に。
「ああ、イルカせんせは言葉じゃわかんないもんね?あんな鳴いて縋って欲しがったのに…まだわかんないの?」
また襲われるのだと思った。言葉通りにこの場で強引に体を奪われるのだと。
だが、男はやわらかく俺を抱きこむばかりでそれ以上のことをしてこない。
「なん、なんだよ…!」
「いいから黙って…あんたは俺に抱きしめられてりゃいいんですよ」
抱き込まれて、伝わってくる体温と、それ以外の何かまで俺の中に染み込んできそうな気がして。
恐ろしいのに目が離せない。
「あ…」
震える俺に、男がゆっくりと触れるだけのキスをよこした。
「…まあいいですよ。いくらでも待ってあげる。…鈍いにも程があるあんたが、自分の気持ちに気付くまではね」
その肌の心地よさは、あの夜の記憶のせいか、それとも…。
「あぁ蕩けちゃって。…そんな顔しちゃ駄目でしょ?」
待って上げられなくなるかもよ?
そう嘯いてもう一度キスを落とした男に、俺はきっともうすぐ…。
「あんたなんて、あんたなんて…!」
いえない言葉が何よりの証拠だ。…俺はいつの間にかこの男に。
「ふふ。ま、時間はまだまだあるんだし、もう暫くは待ってあげますよ」
…だから、早く好きっていってね?
穏やかで有無を言わさぬ言葉に、俺は…自分がとっくの昔にこの男にとらわれていたのだと知った。


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適当。
ねむいのでてきとうなのでしたよねむい。
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