しあわせ誕生日(適当)



「…逃げるか」
でも、どうやって?
握り締めたクナイは鈍色の光を放ち、いっそのことこのまま里から出奔してしまいたい気分に狩られる。
ここにいたら恐ろしい目に遭う。それは確実だ。なぜって目的はわからんが、こうまでしつこいってことは絶対普通じゃない。
「イルカせーんせ?」
ほら、悪魔がすぐそこまで…っておいおい!もう家の中にいんのかよ!
「だだだだだ!だれだあんたさっきから!」
「えー?」
「えーじゃねぇよ!なんでついてくるんだよ!」
今日は任務だった。それも大分遠くの国に派遣されて、やっと帰ってきたんだ。
任務自体は終了していた。
だが帰り道でいつからか視線を感じ、それを振り切るようにルートを変え、ついでに変化の術やトラップまで駆使したというのにそれはついてきた。
冷静になろうと努力はした。
だがその得体の知れなさに感じた恐怖はだんだんと俺を押しつぶしそうに肥大化し、里に連れ込むわけには行かないってのと同時に、里へ行けば何とかしてもらえるかもしれないとも思い始め、結果的にそれを実行した。
報告が遅れると事務処理にも依頼人にも支障が出る。それにアカデミーで俺のかわいい生徒が待ってるんだ。ぼやぼやしてる訳にも行かない。
…念のため、帰還を知らせる式に変なものに付きまとわれているってことは匂わせておいた。
大門を潜るときも警戒した顔で知り合いが待っててくれたし、そのまま連れて行かれた木の葉病院で検査も念入りに受けた。
そして、そこにまで視線は追いかけたきたのだ。いっそ頭がおかしくなったといわれた方がまだ良かった。
だってな。いるんだ。黒いのが。いや正確には白い面をかぶった黒いマントの怪しいのが、処置室でチャクラによる探査を受けていた俺をみつめていた。妙な追っ手にどうこうされた可能性を危惧したからだが…原因が側にいるじゃねぇか!
おかげでどうやら視線の主が同胞だったらしいってことはわかったが、そういう問題じゃねぇ!
内偵を入れられるような…こんなあからさまな警告めいた行動をされる心当たりはまるでない。勿論もてたりもしないから、女がらみでどうこうってのもありえないと思う。
だがしかし、付きまとっているのは暗部だ。
勘違いや人違いなんてことはまずない…よな?
そうして怯えたまま家に帰り、周辺を警戒しながらとりあえず火影邸に飛び込むか、それともさっさと逃げを打つかで迷っていたら…これだ。
「こんにちは」
「…アンタ誰だ。なにしてんだ。ここはおれんちだ!帰れ!どっかに!」
「ここに帰って来たいと思ってるんですが」
「はぁ!?」
なんだもうこいつ。訳がわからん。帰ってくるって…中忍の薄給でもそこそこ余裕のある生活が送れるお安くてついでにぼろっちくて古くて、風呂がひろいってことだけがとりえのような物件だぞ?隣近所も中忍ばっかりだから、あんまりうるさくはしないし生活はしやすいけどな!
「あ、お誕生日でしたよね?」
「へ?」
唐突すぎる。それに何でそんなこと知ってるんだと思うとぞっとした。
この男の目的がわからない。妙に朗らかな態度なのも逆に恐ろしかった。
「プレゼント、俺とかどうですか?」
「いらん。帰れ」
「ま、そういわずに。ほーら通帳」
「うお!ゼロが…いちにいさんし…えー…なんだ暗部ってこんなにもらえんのかよ…こここここ!これ!もしかして任務一件分」
「はあ。まあ部隊長とかやってますんで」
「くそ!嫌味か!」
桁違いの給料。任務ごとに支払われるそれは延々と途切れることなく不定期に続いていて、ゼロはその度に増えていっているように見えた。
…自分が望んでついた職業に後悔なんてしてないが、あまりの格差に少し、いや相当に落ち込んだ。
「いいえ?ほら、お付き合いするには色々と…」
「おつきあい?」
「前お見合い持ってこられたときって、こういうことやたら聞かれましたけど。その気もないんでことわっちゃったら刺客まできてねぇ…」
なんだそれ。見合いってそんな恐いものだったか?おかしいだろ!
「いやいやいや。いらねぇしそもそもつきあわねぇし、その見合いは何もかもがおかしいと思います」
「そ?」
このタイミングで小首を傾げられるとどうも緊張感が持続しなくて困る。
何なんだコイツは。
「というわけで、帰ってください」
相手にするだけ疲れるってもんだよな。会話はなんとか成立してる気がするから早急に出て行ってもらおうと思ったんだが。
「あー…プレゼントなんでそれはちょっとむりですね」
「へ?」
「夜もがんばりますね!」
「夜もって…何だ!何する気だ!?」
「あと申しおくれましたが、俺の名前、はたけカカシっていうんです」
「しらん!でてけ!」
「ふふ!やっぱり!」
何でそこで悦ぶのかさっぱりわからん。
落ち込むべきかやっぱり逃げるかで迷いだした俺の前で、男はいともあっさりと面を外した。
「ホントは駄目なんですけど…お付き合いするんですし、ね?」
美形がいた。高級とりで美景か。怒りを通り越して絶望に近いものを味わっていると、なぜかその顔が近づいてきて…。
「んっ!んん!?」
「誓いのキス」
頭のネジが二本か三本かもっとぶっ飛んだようなことをいいながら、ふわふわ笑っている。
あれか。これはかわいそうな人だったのか?もしかして。
アレだけ高給取りなら任務も過酷なんだろうし、暗部なんだからそりゃ当然酷い任務ばっかりだろう。多分。
「…茶ぐらいならお出ししましょう。のんだら帰れ」
同情はするが俺にだって生活がある。第一もうでっかく育った一人前の男なんだから、自力で何とかしろといいたい。
「ちょっとずつ進めるから安心してください。あ、勿論いろんな意味で幸せにしますんで」
折角の誕生日なのに。任務だから帰ってきたらお祝いしようなって子どもたちに言われてるし、まあ子どもたち以外に予定がないってのを同僚に笑われたし、だがなんだかんだいってもてない俺を肴にしつつ酒に付き合ってくれそうだったのに。
なんだろうな。この状況。
「…風呂入って寝たい…」
「あ、お風呂なら沸いてますよ?」
「勝手に何してんだ!?」
「えー?だってここ俺のうちでもありますし」
「出てけー!」
「あ、じゃあ後で!」
なんかしらんがいなくなった。買い物袋と何故かがま口のでっかくて分厚い財布も持って出たのがなぜなのかなんて考えたくもない。
即効で家中に結界とトラップを張り巡らせ、一仕事終えてから一応風呂に入った。
「たんじょうびなのに…」
膝を抱えてちょっと嘆いてみた俺は、風呂から出るなり怪しげな男による誕生日パーティーが開催されるなんて思っても見なかったのだった。

ちなみに、自称プレゼントはそれからも好き勝手俺を振り回し、ついでにほだされるまで愛を囁くという荒業まで繰り出した。
…幸せにしますって誓いはどうやら守られているようなんだが、とりあえず、やっぱり誕生日にコイツの顔を見ると毎年腹が立つのだった。

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適当。
誕生日プレゼントだけ幸せ。
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