なれそめ(適当)


 目覚めてすぐ、やわらかくて暖かい寝床に包まれていることに気が付いた。
病院じゃなさそうだし、もしかして死んだ?
天国とやらにはいけそうにないけど、地獄もこんな感じなら悪くないかもしれないなんてことを考えて、その割には突き刺さったクナイの残した傷痕はじくじくと痛み、血もチャクラも足らないせいか手すら震えて使い物になりそうもない。
死ななかったという事実は容赦なく喉もとのクナイのよう突きつけられている。
天国であって欲しいそうじゃなくてもいい、もう何も考えずに済むんだと信じていたかった。それが現実逃避だということを受け入れたくなかった。
やっと終われると思ったのにね。
単独任務で受けた傷…ひときわ深く腹をえぐるそれは、ほぼ間違いなく致命傷だったはずだ。少なくともこんな風に放置されるレベルの怪我じゃない。今までならもし生き残っていたなら病院で目覚めるか、医療忍に取り囲まれている。それも無茶を咎める言葉つきで。
体に包帯が巻かれていることを考えると、まるで手当てをしてないってわけじゃなさそうだけど、こんな風に放置されてるってどうなのよ?
喉の渇きにつばを飲んで、口の中の苦味に顔を顰めた。
なるほど。造血丸と兵糧丸を放り込んでくれたらしい。当然意識がなかった俺が飲み込めるはずもないから、あの恐ろしく生臭く苦いそれを砕いて与えたんだろう。
美味いとは到底思えないが慣れた味だ。口をゆすぐ余裕があることなどめったにない。
寝床の心地よさに甘えてこのまま意識を手放してしまおうか。
殺す気ならとっくにやっていただろう。忍以外がこの手の丸薬を持っていることはまずない。
おそらくは同胞。それも任務中かなにかですぐに動けない状態で俺を拾ったってとこ?
それならしょうがない。任務の邪魔をするのは本意じゃないし、ほぼ相打ち状態になったとはいえ、確実にターゲットは殺った。
歩けるようならとっとと姿をくらましたいところだけど、この分じゃ歩けるようになるまで後数日は掛かるだろう。
「いったいっつーの。あーくそ!」
捨て身だった敵のしおらしい演技にはひっかかってやらなかったけど、子どもを盾にするとかさ。サイテーでしょ?
ま、ヤルときはそれでもやっちゃうけど、俺にはあの時そうしなくてもコイツを殺せるってことが分かった。ついでにこの状況なら俺が諦めてもバレないだろうってことも。
あの子どもは無事だろうか。どこかで浚ってきたのか、それともあの抜け忍崩れの子かはわからない。
単なる感傷と、それからそある意味利用しようとした子どもには、少しばかり同情した。
当たり障りなく死ぬには最適なタイミングだったから使っただけなのにね。あんなに血なまぐさいものを、忍でもない子どもが見たら、一生忘れられはしないだろう。
ああでも、左目を処分する前だったから、結果的にはよかったかね?首尾よく命を絶てても、この眼を消し損ねるなんてありえないことを忘れていた。
「腹、減った」
「おお!起きてる!ラーメンでいいですか?」
 やたらと元気溌剌といったような声が耳を打つ。うるさいっていうか…ラーメンって、それカップラーメンじゃない…。 一応怪我人なのになにを食わせるつもりなのよ。
「なんでもいいけど、巻き込んじゃった?」
「あ、いえ。あなたを見てしまった子どもが俺を呼びにきたので。この村に潜入してたんです。子どもの方は覚えていてもいいことはないのでけが人を見つけたってことだけにしてあります。あなたは…?」
「任務は終了。もしかして処理もしてくれた?」
「はい」
 ふぅん。健康そうな顔して一応忍なのね。あそこには少なくとも血と臓物が片手以上の人数分飛び散ってたはずなんだけど、当たり前って顔で、むしろ俺の顔色を見たり脈を図ったりしてる。この態度とチャクラからして中忍以上?…カップラーメンはありえないけど。
「じゃ、悪いけど後ちょっとだけ寝かせて。動けるようになったら移動するから」
「あ。大丈夫ですよ!俺の方も片付いたので、今日は飯食って寝て、明日かついで帰ります」
「は?」
「急いでるならこれしかないんですが、もうちょっとしたら隣のおばあさんが煮物くれるっていうし、猟師の知り合いが肉もくれたんで焼くくらいなら。イノシシ!脂乗ってますよ!あ、あとは味噌汁なら俺でも。それから飯はこれから炊きます!」
看病とかそういう経験ないんだろうか。煮物はともかく野菜がないし、基本こってり系のものばっかりなんだけど。ま、食えないわけじゃないけど。
「…ま、なんでもいーよ」
「丸薬だけじゃ血が戻らないですよね…」
心配そうな顔をしてるとこみると、考えが浅いだけで悪いヤツじゃなさそうだ。担がれるのはごめんこうむるから説得はするつもりだけど、いかんせん体調がそれを許さない。
今日のところは色々諦めることにして、この危なっかしい男の作った飯を待つしかなさそうだ。
「寝る。できたら起こして」
「はい!あ、お粥とかのがいいですか?俺、頑丈なんでよくわかんないんですが」
今更俺の具合の悪さを悟ったのか気を遣い始めた男は片手を振って拒否して、そのまま布団にもぐりこんだ。
死ななかったな。今回も。
頭にあったのはそれだけで、男が一人で盛大におろおろしてることなんか構ってる余裕もなかった。


「さあ!食べてください!」
「…これを?一人で?」
「あ、俺も食います!」
「…そ」
なにがこの男のスイッチになったのかわからない。わからないが…もらい物の煮物とやらを除いても、小さなちゃぶ台の上一杯に食い物が並んでいる。肉が多いが、ゆでて乱暴に切っただけに見える野菜と、同じく乱暴に切っていためただけの野菜が並んでいるところをみると、俺に気遣った結果なのか、それとも秋道一族並みに大食いなのか。二人分にしても多すぎるでしょ。
動きの鈍い内臓で、こんなもの見るだけで胃がもたれそうだ。
「肉!どうぞ!」
「…ありがと」
キラキラした目で食えとせかされると食わないわけにはいかないって言うか、その気迫に負けた。なんなのその使命感。肉だけで体ができてるわけじゃないんだけど。
気の進まない食料を何とか口に放り込んで飲み下した。熟成なんかじゃちゃんとされているらしくて、しょうゆだけ味付けでもまずくはなかったが、この男は料理をしないらしいと言うことも同時に悟った。
なんとしても今日中に動けるようになりたい。チャクラの回復具合から言うと非常に難しいと言わざるを得ない状況だが、こんな食生活続けたらおかしくなりそうだ。
「おいしいんです!」
「ん。アンタも食えば?」
「え!あ。その、でも、あんなにいっぱい血が出たんだから肉を!」
「いーから。病み上がりでそんなに食えないの。あんたがちゃんと食ってくれないと、今の俺じゃ動き回れないんだし」
それは単になりゆきとはいえ一応護衛的なものをやらせていることのお詫びみたいな言葉のつもりだったんだけど、男は何を勘違いしたのか途端に猛然と肉をほおばり始めた。
なんなの。イヤ別に食べたいわけじゃないけど。
「担いで!ちゃんとすぐに急いで帰りましょうね!里に!」
「…あーうん。喉詰まらすから食べながらしゃべんのよしなさいね?」
…この勢いだけってところが知り合いの自称親友に似てるけど、この男はちょっと違う。なんていうか…間抜けでかわいいっていうか、迷惑なんだけど、一生懸命な子犬っぽい。
「ふぁい!」
「あーほら。ちゃんと野菜も食べなさいよね」
「ん!ぐ!」
飲み込もうと四苦八苦しながら首を必死に上下に振る男に茶をついでやったりするのに忙しくて、いつの間にかあれほど帰りたくなかった里への思いは薄れ始めていた。
*****
「それが、きっかけかなー?そこからはねー。本気で担いで帰るし、動けないけど病院はヤダって言ったら看病してくれてねー?だからチャンスだと思ってそのまま居座ったの」
恩師…というか、もう火影さまなのよね。顔布つけたままだからすっごく怪しいんだけど。
私たちの先生を火影邸に住まわせるって聞いて、事務作業がいやだからって、イルカ先生を仕事漬けにする気なのかって思ってたのに。
滔々と語られたそのなれそめは、直談判に行った私を凍りつかせた。
なんか、わかるわ。ナルトも看病っていえばラーメン食べさせられてたみたいだし。その雑さと一生懸命さはイルカ先生らしいっていえばらしいんだけど。
「あのー…きっかけって?」
「あーうん。そのまま色々押し切って、ずーっと同棲はしてたんだけどね?ほら、俺が引っ越すことになったから」
「えーっと、それってば…どういうことだってばよ?」
これはまずい。まだナルトは理解してないけど、そういえばこの人も上忍の癖に天然だったんだったわ!?ナルトが理解した途端大騒ぎしても困るし、それにこれって結構危ない話なんじゃないかしら。火影の恋人っていうか愛人っていうか、とにかく狙われる立場ってことじゃない!
ナルトが文句ついでに言いふらしでもしたら…。
そこまで悟って、私はこの件を闇に葬ることに決めた。
「わかりました。いーい?イルカ先生は体力があるけど無意識にすっごく無茶するんだから、ほどほどにしないと私たちが怒りますから!」
「ん。りょーかい。無理しないでほしいしねー?ほら疲れ切って寝てるとこ襲うのも悪くないけどやっぱり反応があったほうが…」
「おそう?」
「ほら!行くわよナルト!」
「ってて!いてーってばよサクラちゃーん!」
「またおいでー」
のんきな元上忍師、現火影の声を背後に聞きながら、大急ぎでその場を後にした。
こっそり今度根掘り葉掘り聞き出そうと心に決めて。



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適当。
上忍も天然で中忍も天然なので、いつかぽろっとばれるけど似たようなパターンで真実は闇に葬られるとか、事情聴取に行ったサクラちゃんがのろけまみれにされてげっそりしたりするといい。
そろそろつづきをかきたいです。かけたらかく。

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