「寒いときはこれでしょ?」 差し出されたものを手に取ると、確かに暖かい。 …本人、いや本犬は複雑そうな表情をしているんだが。 「えーっと。とてもありがたいんですが、その…いつも寒い時はこの子たちで暖を取ってるんですか…?」 この子と口にした段階で、忍犬はむっとした顔をしていた。 そりゃそうだろう。下手すると俺より階級だって実力だって上のはずだし、その分プライドだってあるはずだ。 そんな彼らを捕まえてカイロ扱いするのはいくらなんでもかわいそうじゃないだろうか。 「今お貸ししたパックンが一番のお勧めです。ちょうど懐に収まるサイズなんで。あったかいでしょ?」 とりあえず、この人にとっては当たり前だってことはわかった。 それから忍犬たちの諦めきった様子からして、この人が忍犬のプライドなんかを斟酌しないんだってことも。 「とても温かいです。確かに。…でもですね…」 多分本当になんの疑問も持たずに犬たちを使ってるんだろうし、俺みたいな部外者が口出しするべきじゃないのかもしれないし、それから…忍犬たちにとっては格下から庇われるなんて不愉快かもしれないけど、放っておけなかったんだ。 「はい」 素直な返事に躊躇いはいや増したが、だからといって適当に誤魔化せるほど俺は人間ができていない。 「その、主人であるあなたならまだしも、俺にカイロみたいに使われるのはかわいそうだと思うんです」 言ったとたんに忍犬たちが驚いた顔をした。 …まさか今まで寒いって言った人間全員に、こうして気軽に貸し出されてきたわけじゃあるまいな…? 口答えする中忍が単に珍しかったんだろうか。 「え…?でも、イルカ先生は寒くないんですか?」 目をまん丸にして聞かれたが、そりゃ寒いに決まってる。 帰り道、悴んだ手に耐えかねて寒いなんていっちまったから、この人が忍犬を貸してくれようとしたんだもんな。 「寒いですよ。そりゃ。でも…あーえっとですね。ほら」 犬がかわいそうだなんていい辛くて、言い訳する言葉も上手く思い浮かばなくて…とっさに握った手は手甲越しでも俺の方がずっと暖かった。 ああ、この人これじゃホントに寒いだろうな。 「ほんとだ。あったかい」 幸せそうにほわりと頬を緩ませた人がかわいく見えて、つい言ってしまったんだ。 「俺でもいいじゃないですか?なんならコタツもあるんでうちあがってくださいよ。酒でも飲んだらあったまりますよ?」 「え!あ、あの!はい!」 あんまり嬉しそうに笑うから俺まで嬉しくなった。 やっぱりすごく寒かったんだろうなぁ。 「じゃ、なべでも食いましょう!一人じゃ中々食べられないんですよ!わんこたちは…ネギ入れなきゃいいよな?」 そう聞くと、何故か忍犬たちまで驚いた顔をしたけど、まあ、その…寒いんだからいいよな? 握った手が早く温かくなればいいと思いながら、俺は家路を急いだのだった。 ちなみに…これが切欠で俺とこの人は何かと飯を一緒に食う中になって、それから告白なんて物まで受けて、気づいたら恋人同士になったりしたんだが…。 付き合い始めてから、最初に差し出されたカイロ代わりの生き物が、本当は俺の気持ちを探るための偵察用だったとか、おおっぴらに探ろうとしたのがその日が初めてだっただけで、今まで何度も様子を伺われてたってこととか…色々と恐ろしい告白を、懐に押し込められかかっていた忍犬から聞く羽目になるなんて思いもしなかった。 だけど。 「イルカ先生が温かいから、もうこの子たちであったまらなくても平気です」 そう言ってそれはもう蕩けそうにふわふわと笑う人が側にいてくれるから、まあいいかってことにしておいた。 ********************************************************************************* 適当。 さむいいいいい。゜。゜(ノД`)゜。゜。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |