はちみつ(適当)

痺れる様な感覚が指先から全身にじわじわと広がっていく。
どうやら目もやられたらしい。
視界のふちから広がっていった白に全てが染まり、天地の感覚さえ今は遠い。
これはもう流石に無理だろう。
「短い一生だったなぁ…」
妙にしんみりと呟いてから、涙がにじみ出るに任せた。
伝う水分の感触すらも曖昧だが、見ている人間もいない。
救援など望むべくもないこの状況で、少しばかり醜態をさらしたからなんだっていうんだ。
そう、どうせこのまま朽ち果てるならとやけになっていたのかもしれない。
久々に声を上げて泣いた。バカみたいに悲哀に満ちた声で。
我ながら何やってんだろうと思いつつも、声を上げて泣くだけで少しだけむなしさが遠のく気がした。
任務中の襲撃は予想されていたことで、しかも俺は捨て駒に近い扱いだった。
仲間が無事にたどり着けば、任務は達成される。俺の命は二の次だ。
分かっていて引き受けて、でもきっと覚悟なんざ全然できちゃいなかった。
一人で終わるのかと思うと寂しくて泣き喚くくらいには。
…でも、もうすぐ母ちゃんと父ちゃんの所へいける。
いい加減泣くのも苦しくなってきた。そろそろ息をするのも諦めようかと思い始めたとき、ふわりと何かが頭を撫でていった。
「あらら、子供?にしちゃでっかいねぇ?」
なんだよもう。だれかいたのかよ!
いやこの状況からして多分敵なんだけど!
機密に類する類の物は持っていない。記憶をあさられれば多少は里の情報を知ることができるかもしれないが、俺の頭に納まってることなんて、常識的な忍の技と、ラーメン屋のサービスデイくらいもんだ。たいしたことはないだろう。
それにしてもさっさと自殺しとけばよかった。流石に無様すぎる。
忍の生き死にに無様も粋もないもんだけどな。
「毒…?んー?これならなんとかなる?かな?駄目だったらごめんねー?」
「んぐ!?ぐ!」
軽い口調の見知らぬ男…だよな。多分。声からして。
そいつに口をこじ開けられたかと思ったら、液体を流し込まれた。それもとんでもなく苦いヤツを。
「あー吐いちゃ駄目だからがんばって。それ効くよ?味はさいってーだけど」
仲間か敵かは判断がつかない。とはいえわざわざ死にかけで転がってるのを助けようとはしないだろう。
意を決して飲み込んだ毒よりも毒らしい味の液体は、驚くほど早く効果を発揮した。
「うえええまじぃいいい!」
「それだけしゃべれりゃ上出来。無理しないで息して。あともうちょっと寝てなさいね」
「う、はい」
ああ、見える。なんだこれ怖すぎるだろ。こんなに早く効く薬なんて始めて使った。
おかげで命の恩人且つ俺の恥ずかしい姿を見た男の顔が…顔が、見えてる。
おいおいちょっとまて。この格好って。
「任務中に犬拾ったことはあるけど、人間拾ったのってはじめてかも」
にこやかに微笑む男は確かに木の葉の印をその身に持っていた。それも二の腕に。つうかこいつ暗部じゃねぇか!
「いやそのあの!みてません!ありがとうございます!でもその!まったくもって記憶にございません!」
「はいはーい落ち着きなさいね?寝てろって言ったでしょ?」
ふわりと横たえられた地面にはいつのまにやら毛布まで敷かれている。なんていい人なんだ!っていうか暗部!どうしたら良いんだこの場合!
「あのう。その、俺」
「怖かったねぇ?ま、ちゃんと連れて帰ってあげるから」
頭を撫でられた。多分二度目だ。あったかくて優しい。
「うー…!」
「はいはい泣かないの。アンタかわいいなぁ」
あったかい腕なんて久しぶりだ。いや女にもてないとかそういう意味じゃなくて。
誰かにこうして大事に抱きしめてもらえることが単純に嬉しかった。
慣れてないんだよ。ずっと一人だったんだ。こんなことされたら、なんかもう、もう!
ぎゅうぎゅうしがみついて泣いて、そうしているうちに唐突に眠気が襲ってきた。
「え?あれ…?」
「いいよ。寝てな。起きたら里だから」
でも顔みちゃいましたけどとか、でもみてないですやっぱりなにもしりませんとか色々言いたいことはあって、でもそんなことより大丈夫だって言ってくれる声が優しすぎた。
「ん、父ちゃん」
「父ちゃん、ねぇ?どうせなら…」
後はもう、真っ暗な闇に落ちて、何もかもが曖昧になった。
*****
「元気そーね?」
「わ、わぁ!あん…いえその!」
暗部の中身が俺の部屋に遊びにきたっていうか勝手に家に上がりこんでいて、その格好が俺とおそろい…つまりは正規部隊のものだったので思わず尻餅をついてしまった。
「ん。あれから泣いてない?」
「泣いてません!その!…ちょっとだけしか!」
だってあったかすぎたんだよ。この人が。だから全部この人のせいだと思うんだ。
寂しくて涙がでるなんて。
「ああもう!やっぱり放っとけないかも。もういいや。ね、いいでしょ?」
なんだかわからないけどそんな人にそんな風に言われたら、思わず首だって縦に振るってもんだ。
「じゃ、よろしく。ハニー」
「へ、え?」
「ま、色々追々。とりあえずちゅーからはじめましょうか?」
にこっと笑って恥ずかしいことを言った人にそのまま唇を奪われて、それから。
なんだかいつの間にか恋人ということになっていた人と、今に至るまで一緒に過ごしている。

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適当。
甘ったるい関係。
ではではー!ご意見、ご感想などお気軽にどうぞー!


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