「良く見かける光景だった。 だからそれを特に見咎めた訳なんかでは当然なく、ただ単に顔見知りなのに挨拶しないのも変だろうと、その程度の感覚だったんだ。 「おはようございま…」 「イイイイイイルカせんせ!?」 それがどうしてこんなにもあからさまに驚かれてしまったのか理解できなかった。 忍らしく冷静沈着を絵に描いたような人が、たかが中忍に声を掛けられただけでこうも動揺するなんてありえないだろ? 「あのー?なにかありましたか?」 「いえ!その!なんでもありませんから!」 そう叫んで逃げるように去っていく上忍を、呆然と見送ることしかできなかった。 「なんだったんだ?」 いつも通りエロ本らしきものを読んでいたくせに、挨拶した途端にそれこそ目に見えないくらいの速さで唐突にそれをしまいこんで、挙句の果てに混乱しきった顔で逃げていった。 いったい何があったんだろう。 「恥ずかしがるくらいなら往来で読まなきゃいいんだしなぁ?」 それにそもそも普段は一応礼儀を弁えているというか、話しかけるとポーチにしまってちゃんと話を聞こうとしてくれている。 そのときにあんな風に慌てたりはしなかった。むしろ気だるく感じるほどにゆっくりと優雅に振舞い、急いでいるこちらの神経を逆なでするほどだったはずだ。 「うーん?」 何かおかしなことはあっただろうかと思い返しても、心当たりなど到底検討もつかない。 唯一普段と違う所といえば、開いている本にカバーがついていたことだろうか。 それ以外には思い当たる違いなどなかった。 わざわざエロ本にカバーをかけるような人じゃなかったのに、今更そんなことを始めたって辺りに理由が潜んでいそうだが。 「まあいいか」 それでなくても激務だ。余計なことに裂くほど時間に余裕はない。 そして上忍にもプライバシーってものがある。 …というか、あれだけの上忍になると個人情報のほぼずべてが即機密になる訳で。 厄介ごとに関わらないという選択肢を選んだのは、多分まちがっちゃいなかったはずだ。 あの本が色事の指南書で、その上男同士専用で、しかもあれだけ物慣れているようだった男が、いきなり土下座してまでやりたいと言い出すなんて、想像のその字も存在しなかった。 そしてその必死さにほだされて、その手の行為に及ぶにはまずは告白なんじゃないでしょうかなんていっちまったのが一番の問題だ。 あれから毎日のように告白しにくるようになった上忍が受付の名物になるまであと少し。 その頃にはうっかり頷いてしまいそうな自分にため息をついておいた。 ********************************************************************************* 適当。 今日からしごとーしごとー。 ではではー!ご意見、ご感想などお気軽にどうぞー! |