訪問者(適当)


「…せんせー」
弱りきった上忍が玄関先でぎゅっと俺の忍服の袖を握った。
その顔は今にも泣き出しそうで、そういえばこの人はめちゃくちゃなことをしでかすようでいて、案外うたれ弱くて情けないところもあったんだと思い出しつつ家の中にしまいこむ。
…当代火影がこんなんだって知れたらことだからな。
本来なら俺の家になんか上げたらマズいんだが、このまま放っておいたら確実にこの人は泣く。それもさめざめと哀れっぽくも密やかに…俺の心臓を抉るような悲しげな顔で。
だからこれはしょうがないことなんだと己に言い聞かせ、玄関の施錠と結界を同時に発動させて、やっと一息ついた。
いつだって俺に節を曲げさせるのはこの男だ。我侭で自分勝手で…そのくせこうして弱い所をみせるから、俺は。
いや、今更だ。とにかくこの男を何とかしなきゃいけない。腹心の部下を呼び出すのが一番なんだが、確かあの人復興支援とかで霧隠れにレンタル…もとい、任務に出てるはずだもんな。そういやあの人も俺んちで愚痴ってったんだった。先輩が酷いって。
そんなもん、俺が知るかって話なんだが、あまりにも哀れっぽくめそめそするもんだから、宥めてすかして酒を飲ませて、布団も貸してやって、結局そのまま送り出したんだよなー…。
ったく。特別手当出して欲しいくらいだ。まあそんなことを言おうものなら、またひとしきりこの人に騒がれて、里唯一の木遁忍者がしばらく姿を消しかねないから言えないんだが。
しょうがねぇ。とにかくなにがあったか聞いてみないことにはなにも始まらない。
座布団の上に座るように促し、適当に茶っ葉を急須に放り込みつつ、殊更優しい声で宥めながら聞いてやった。もちろんその無駄に逆立っている頭をなでてやることも忘れない。何でか知らないが、この人は火影笠を嫌がるから、今日もほぼ普通の忍服姿だ。背中にでっかく六火とか書いてあるのは、多分上に纏っていたマントで目立たなかったに違いない。この里では珍しい髪の色でばれてた可能性については…俺じゃどうしようもできないしな…。ほんっとーにもう!なにしでかしてくれんだこの野郎!
「…どうしたんですか?火影様」
そんな内心の憤りを他所に、自分でもちょっと引くくらい穏やかな声が出たことに、我ながら驚く。
「…イルカ先生に会いたくなって」
儚げな微笑みは女ならそりゃもう大騒ぎするだろう美しさだ。何でかこの人は俺よりずっと強い癖して庇護欲をそそるところがあるから危険なんだよ。
ナルトのことは俺が選んで決断したことだからそりゃいいんだ。あれから色々あって全部乗り越えて、今は自分の道をちゃんと歩いてくれてるしな。今度結婚するってんで礼服も新調したばっかりだし。
でも、アイツとこの人は…違う。
自分から望んで深みに嵌るつもりは欠片だってない。
「そうですか。飯…になりそうなもんは冷凍のうどんかラーメン…はインスタントしかねぇしな。朝の残りの味噌汁と飯食いたかったらちょっと待ってもらっちゃうことになりますけど、食ってきますか?」
「あ、持ってきてるんで。イルカせんせもまだなら一緒に食べてくださいよ」
どっからだしたんだよと思ったら、どうやらマントに隠れて見えなかった背中に、そこそこでかい背嚢があったらしい。随分用意周到だけど、こんなもん持ってめそめそしてたのかこの人。
「え?おお!美味そうな弁当ですけど…いいんですか?」
「もちろん」
またにこっと笑いやがった。ああくそ!笑うな!…なんて言えねぇけどなー…。
「…味噌汁、あっためてきます」
「どーも」
あーあ。居座る隙を与えちまった気がする。しっかし今度はなんだ?飯持参ってことはまたなんか厄介事でもあったんだろうか。
何かって言うと俺のところに相談と称してごろごろしてくからな。この人。火影の癖に。変な噂になったらどうしてくれんだ。
程なくしてなべのそこに残っていた味噌汁はふつふつと泡を立て始め、慌てておわんに移して上忍…いや、火影様の前においてやった。
「ナスですね」
「…そうですね」
えらくうれしそうにしてるが、別に他意はない。たまたまただ!たまたま!そろそろこの人がくるかもなーなんてことは…そりゃちょっとは思ったけど。
「イルカせんせー」
「はいなんですか」
「結婚とか、しないの?」
「…する予定は今んとこありませんね」
その質問は反則だ。ザックリと胸をえぐるその台詞に、たっぷり毒を吐いてやりたくなった。誰のせいだなんて、付け入る隙を与えるような言葉は、絶対に口にするつもりはないが。
俺は、ずっと一人でいい。そりゃ嫁さん貰ってなんてことに憧れた時期もあったけど…俺たちの世代は失いすぎた。俺の周りにも結婚してるヤツは実のところ少ない。その分下の世代がせっせと結婚してくれてるみたいだから、それはそれでいいんだと思う。
里は続いていく。それを支えていけるなら…それでいいじゃないか。
「じゃ、して?」
「…お見合いのお話でしたらお断りします」
ああくそ。そんなイイ笑顔で言うんじゃねぇ!
先代のときもそんな話はあったが、全部断ったのを、この人だって知っているはずだ。確かに里は今他里との交流が盛んになって、里を越えての婚姻も推奨されちゃいるが、俺なんかじゃなく、上忍にいくらでも候補がいるだろうに。
アンタが、言うな。
そう小さく毒づいたことに、この男はどうせ気付いているだろう。
…気付いていて、俺をからかって遊んでやがるにちがいない。
「お見合いじゃないです。恋愛かな?まだ始まってもいないけど。っていうか、始めたくないんでしょ?」
「…ええ。そうですね。無精者なもので、誰かと一緒に暮らすなんてのには向いてないんですよ」
そうだ。始めたくなんかない。この胸に燻る思いは…殺すべきもの。
でもどうやっても消すことができなかったんだから、あとは…こうやって蓋をしてしまう以外どうしたらよかったんだ。
「そんなことないでしょ?こうやってさ、急に押しかけてきた俺なんかに、こんな風に世話焼いて」
ギクリとした。なにを言い出すつもりなんだ。この男は。
上っ面だけの話なら付き合ってやれても、これ以上の話はしたくない。
「それは、アナタが火影様だからです」
「ウソツキ。俺がただの上忍だったころからでしょ?」
「はは!たしかに上忍でもそうしたかもしれませんね。何せ俺は中忍ですんで。それにほら、ナルトの面倒も見てくださってましたし。その節はありがとうございました」
さあもうこれ以上の話はしない。帰れ。飯食って俺の目の前から消えてくれ。
打ち切った会話を気にも留めずに、男はふふっと笑ってみせた。
「…ねぇ。俺さ、もうすぐ火影やめようと思ってるんだけど」
「え?もう?え。ではその、後任は?」
もしかしてっつーかもしかしなくてもあれか。ナルトか。ええ!どうすんだ!結婚式と就任式のどっちが先なんだ!?…サスケ、だったりは…?しないよなー流石に。
礼服新調しといてよかった…っつーかそれは里の重要機密なんじゃないのか?
「あのですね。これ、プロポーズのつもりなんですが」
「は?」
なんだ?なにがどうなってんだ?なんでそんなしょんぼりしてんだ?そんな顔すんなよ。思わず撫でちまいたくなるだろうが。
「いいですよー。頭触っても。好きでしょ?」
見透かされていたらしい。癪に障るがじーっとこっちをみられてるのも居心地が悪くて乱暴に頭をかき混ぜてやった。
「…よくわかりません。アンタの言ってることは何一つ」
「敬語、やめてくれた。嬉しいなー」
「ふざけるのは止めなさい。…で、なにがどうなったんですか?」
「火影だと婚礼がどうのってめんどくさいんで、俺も結婚したいって騒いだら、テンゾウがぶーぶー言うんで、追い出したんですよ。ちょっと働いて来いって」
「アンタまたそんなかわいそうなことを…」
また八つ当たりか。確かそんなようなことを本人も言ってたっけな。子どもっぽいっつーかなんつーか。
「でねぇ。ナルトに結婚するから火影止めたいって言ったら、いいってばよ!いつでも俺が引き受ける!なんて言うから、じゃ、そうしようかなーって」
「はぁ。そうですか」
ついに結婚。確かに遅すぎるくらいだ。火影に婚姻の義務はないが、政略的に利用できる分、未婚だと面倒なことになりやすい。先代も見かけは二十歳そこそこ位にしか見えないせいで、そりゃもう厄介なことになったもんだ。今はわざわざ婚姻による和平なんか必要ないくらい他里との関係が良好だから、この人のことはそんなに問題にならなかったみたいだが、そりゃそうだよな。この人ならいくらでも相手がいるだろう。
嫁さんもらったらもう遊びに来るなっていっておかないと。そうじゃないと嫁さんがかわいそうだし…俺が、もっとかわいそうだ。自分で言ってて情けねぇな畜生。
「だからね。諦めてそろそろ俺を選んでくれませんか?イルカ先生」
「は?」
「ああうん。既成事実から始めようって、それはもう決めてあるんでとりあえずごはん食べましょうね」
「え?ええと?」
「ほら、イルカせんせコレ好きでしょ?」
「もが!うお!うめぇ!あの、でもですね!」
「いいからほらちゃんと食べて?腹が減っては戦ができないっていうでしょ?」
「そ、そうですね?」
なんかもう訳が分からんが、何か考えようとすると口に食い物が放り込まれるからおちおち考え事もできない。
どうすんだ?なんか、今、受け入れがたいことをたっぷり耳にした気がするんだが。
「楽しみですね。結婚式」
「ええ。そりゃもう!そのために礼服新調しましたから!」
「…ま、服なんかは追々ね」
この顔がクセモノなんだよなぁ。にこーってちょっと頭の中身が心配になるような笑い方するくせに、やることはしっかり裏の裏まで読んであってかなりえぐいことも…って、今はそんなこと考えてる場合じゃなくてだな。
規制がどうとか…。
「あの。アカデミー勤務に何か問題が?」
「あーそうね。そっちもできれば俺付きになって欲しいんで」
「は!?え!?いやなんで!」
「えー?だって受付業務のプロだし、三代目の手伝いも五代目の手伝いもしてたじゃないですかー?綱手様に引っ付いて引退しちゃったシズネさんの穴埋めるの大変なんですよ?」
「は、はあ。そうですか。そういうことならその、同じ程度にお手伝いなら」
「…んー?ま、最初はそれくらいでもいいか。じゃ、正式に辞令出しますんで」
「え。ええ。その、校長先生とも相談してください」
「りょーかい。ね、おいしい?」
「ええ。はい」
美味いよ。これ高いんだろうなぁ。俺なんかが一生食おうと思わない値段に違いない。
…ナルトは俺のせいで貧乏舌に育っちまったからなー…。
「ふふ。良かった」
さっきとは打って変わってご機嫌な男は得体が知れない笑みを浮かべている。
なんだよ。しょぼくれた犬みたいな面してたくせに。
「アンタも、食べなさい」
「うん。そーいうところも好きだし。…ま、今日は色々がんばりますねー?」
「は、あ?そうですか」
よく分からん。よく分からんが。…とりあえず飯食ってるこの人はかわいいから、もうちょっとだけ見ておこう。
「抵抗できないくらいには術が効いてるみたいだし、ちょうどいいかもねぇ?」
うふふーっと頭に花が咲いたみたいに笑った男に、思わず俺も微笑んでおいた。

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適当。
現実逃避してる隙に美味しくいただかれましたとさ。
ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

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