平和なある日の(適当)


「平和ですねぇ」
縁側でのんびり茶を啜りながら転寝できる生活が日常になるなんて、思っても見なかった。
「そうですね」
こうしてこの人の側で、こんな年になるまで生きながらえるなんてことも。
髪を梳く手が暖かい。ま、この人は全身が暖かいっていうか、くっついてるところからじんわり暖まりそうっていうか。俺を癒す何かをずっとあふれ出させている気がする。
「あのね。どっか行きませんか?」
「どっかってどこですか?」
「どっか。一緒に」
どこでもいいんだ。出かける先なんていくらでもある。なにせ任務漬けの人生送ってきちゃってるからね。知らない土地の方が少ない、と思う。ま、忍なんてやってればめずらしくもないんだけどね。
「どっか、かぁ。温泉ばっかりじゃカカシさんもつまんないでしょうしね。うーん?」
「温泉でもいいよ!ちょっとくらい遠出しても流石に文句言われないでしょ。もう」
忍だけは引退させてもらえてないけど、役職からは退いた。ご意見番としてだなんだと言われても、俺よりずっと頼りになる仲間があの子には付いてる。
もうあの子って年齢じゃないか。なんだか孫が出来た気分だったもんねぇ。子どもが生まれるってばよって騒いでた姿は、出会った頃と殆ど変わっちゃいなかったけど。立派になったもんだ。
未だに抜けてるところは多いし、賢さでいったら歴代火影では一番問題あるかもしれないんだけど、あの子の強い意志が里を支えている。自分で考えてばっかりの火影よりこれからはああいう誰からも慕われる子のほうがいいんじゃないかな。
問題はこの人だ。
「んー?どうでしょう。確かこの間会議が…うーん。あ、クリスマスからは三日くらい時間取れそうですね。あとのは…休めるか?うーん。あ、あと年明け早々にも予定が」
「えー?みーじーかーいー」
ほらやっぱり。うーん。この人お人よしだし冷静だしで、俺がどうしてもその手腕が欲しくて側においてしまったのがまずかったんだろうけど、恋人に支えてもらいたかっただけなのに!
その優秀さと当代そっくり…っていうかあれだな。アイツがこの人から学んだんだろうな。生きる姿勢を。
とにかく優秀な恋人は、あれよあれよというまに事務方の長を経て人事だのなんだのを取り仕切るうちに、すっかりご意見番みたいな状況になってしまった。直情傾向は相変わらずなんだけど、悪戯小僧のまんまの部分が当時の火影…つまり俺へ罠やら悪意やらを向けられたときにクリーンヒットするみたいで凄まじい勢いと鮮やか過ぎる手際で片付けちゃったのよねー…。あいかわらず自分に向けられる悪意には鈍いままなんだけど。
おかげで誰も彼もが、昔この人を狐の眷属だなんだって罵ってた連中まで、今じゃイルカさん呼ばわりでやたらキラキラした目でみてたりして、ほんっと腹立つ!
「はいはい。我侭言わない!まあ俺もそろそろ引退したいんですけどねぇ」
「しよーよー。引退。で、いちゃいちゃしましょ?」
「アンタあいかわらずですねぇ…」
呆れたみたいに言う声が、昔はとても恐かった。愛想付かされるんじゃないかって。でもどうしてもこの人が側にいてくれないと駄目だったから何度も我侭も言ったし甘えた。
いつからだろう。恐くてたまらなかった台詞の最中に、恐くてみられなかったこの人の顔を見つめられるようになったのは。
その瞳に溢れる優しさに、戸惑いや不安じゃなくて、眩暈がするほどの幸福感をもらえるようになったのは。
「ずーっとかわんないよ。俺は。だって好きなんだもん。ずーっと惚れっぱなしですよーだ。…イルカせんせは俺のこと好き?」
「うっ!なにきいてんですか!お、俺は!その!嫌いなやつに膝枕なんてしません!」
照れ屋なこの人から言葉が欲しくてごねたこともあったっけ。未だに好きっていってくれたのは、告白に答えてくれた時の一度だけだけど。でも思いは伝わるから。不安になんてもうならない。
「じゃ、お休みとって旅行ね?年明けも最低でも7日くらいまではお休みもぎとりますから!ちょーっと遠いけど穴場があるんでそこいきましょ?」
ちらって見上げてみればしょうがないなーって顔したイルカ先生が、凄く暖かい目で俺を見てる。優しくて俺の事が好きだと何より雄弁に語るその瞳で。
温泉に行ったらこの人を独占できる。…なんていうか、ちょっと踊り出したいくらい楽しみだ。
「ああもう!しょうがねぇなあ。カカシさんは。…あとで交渉してきますよ」
よし。これでいける。昔はここで一発殴られてたけどね!今日は機嫌いいみたいだし!…実は前任者特権でゴリ押ししてあるし、いーなーとか言われたけど、アイツもこの人のこと大好きだからこれで十分押し切れる。
昔はシフトに干渉なんてしようものなら里のはてまで吹っ飛ばされる勢いで殴られそうになったりしたけど、今は俺の方が匙加減を学んだし、この人もなんていうか、その。あきらめた?
「温泉、森に囲まれてて自然も多いし、泉質がいい上に露天はもちろん、お湯の種類も多いんですよね」
「そ、そうですか!」
にへーって笑ってて、そのほっぺたにかじりたくなるくらいかわいい。皺とかできてても、そこがまたたまらなくかわいい。
…それは温泉でいちゃつけばいっか。今へたに手を出して警戒されちゃうのもね。出先だと開放感からか意外とこの人もガードが甘くなるし!
しょうこりもねぇなぁって呆れられるのもお約束のうちっていうか、ね。そういうのも楽しいって思えるようになった。
「ふふ」
「なんですか?」
「なんでもなーい。です」
この不審げな顔もいいよねー?我慢も後もうちょっとだと思うと胸がときめく。
「…そうですか?」
疑念に満ちた視線には、年齢を重ねても未だにこの人に有効なこの面と利用しつつ、にっこり微笑んでおいたのだった。

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適当。
甘えるカカシてんてーがかわいいのでまあいいかーっと自分も意外と甘いなって思ったりしてるてんてーがいたらいい。
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