「尻軽女は好きじゃないんだよねぇ?」 3日、里を開けた。 その間に男を引っ張りこんだ女は、そのくせ俺に愛していると喚きながら泣き崩れたのだ。 お互い本気じゃなかった。それなのに自分から不貞を働くって言い方もなんだが、他の男と寝ておいて、今さらすがり付いてくる意味が分からない。 「どうして!愛してるのに…!」 「愛、ねぇ?」 俺に絡み付くようなねっとりとした媚びる視線を向けて、今さら何を期待しているのやら。 俺の帰還は予定よりずっと早かった。 ソレを喜んで迎えろとまでは言わないが、疲れた体を休めようと訪れた先で、俺と寝た寝床に別の男と寝ているとまでは思わなかった。 女にとっては寝耳に水だったって事だろう。 まあ今更どうでもいいことだ。 「捨てるの…?あんなの本気じゃないのに!」 その台詞に笑い出さなかったことを褒めてもらいたいくらいだ。 本気なんて。…俺が一度だって本気だったことがあるとでも思っていたんだろうか。この女は。 「ざーんねん。俺も本気じゃなかったのよ。…ちょうどいい寝床じゃなくなった所に、戻る気はないの」 やってすっきりすることもできない上に、ほいほい他の男を連れ込まれるなんて、面倒なことこの上ない。 今は俺の女だなんだと殴りこまれた過去が蘇る。 …留守がちな俺のことを待てない女ばかりがひっかかってきてるのかもしれないってことにいまさらながら思い当たって落ち込んだ。 俺はただ、待っていて欲しいだけなのに。 手料理なんかあってもなくてもどっちでもいい。寝床なんて野営続きの俺にとっては布団があれば十分だ。 「酷い…!」 詰る女に、またやっかいな噂が増えるのだろうと思うと溜息が零れたが、今更だ。 女ほど自分勝手で好き放題に振舞うくせに、自分だけは平気な顔で被害者面ができる生き物を俺は知らない。 これまでも寝床を暖めるために連れ込んだ女たちは、面倒ごとばかりを運んできた。 いっそ商売女だけにしたい所だが、里の上層部はいい顔をしないのだから仕方がない。 …徒に肌を合わせると機密が漏れるというのなら、こんな…股も口もゆるそうな女からの方が危険だと思うのだが。 「じゃーね?」 どっちがだ。といわなかっただけマシだろうか。 女と別れるのは慣れっこにしろ、疲れきって、誰かのぬくもりが欲しいときに一人でいるのは正直堪える。 「あーあ」 寂しいなんて、思いたくないのに。 「カカシ先生!」 しょぼくれた気分をぶち壊しにきたのは、顔見知りの中忍だった。 いつも笑っていて、ちょっと心配になるくらいのあけっぴろげな素直さは、子供たちが懐くのが分かる。 この人みたいだったら、俺の側に誰かいてくれたんだろうか。 ま、この人晩生みたいだし、別の意味で一人だったかもしれないけど。 「こんにちは。イルカせんせ。慌てちゃってどうしたの?」 「あの!報告書にサインを頂くのを忘れていたんです!疲れているところに申し訳ありません!」 差し出された紙には、確かに俺の名前が抜けていた。 …女の所に急いでいたせいだが、そのことすら馬鹿馬鹿しく思えてきて、それが顔にでていたのかもしれない。 「申し訳ありません。…具合、悪いんですか?」 すっと差し出された手は、自然に俺の額に触れた。 上忍に気軽に触れるのはこの人くらいだ。…触れられても嫌な気分じゃないのも。 「んー?ちょっとね。やな事があっただけ。あ、この書類じゃないから安心して?俺のミスでもあるんだし」 こうして心配されるのはすこし気分がいい。 …今の俺は飢えているから。 こういうあったかいものが、俺のことを待っていて欲しいと思うのは傲慢なんだろう。 時にはゴミのように人を消す生業を選んだ時点で、当然の報いか。 どんなに名が売れても…それはつまりそれだけの命を摘み取ってきたということに他ならないのだから。 「あ、あの!…おかえりなさい!じゃなくて!えーっと!?今日、これから酒でも飲みませんか!ほら、疲れてるときって余計なことばっかり考えちゃいますし!」 …今の言葉は俺が何よりも言って欲しかった言葉だ。 沢山は望まない。俺を待っていてくれるなら…おかえりなんて言ってもらえるなら最高だ。 ああ、どうしよ。…ほれちゃったかもしれない。この人に。 「いいの?」 ドサクサにまぎれてそっと手を握ると、笑顔の中忍は力強くソレを握り返してきた。 うん。かわいい。この顔をもっと見たい。 「もちろんです!…っていっても、安いとこしかいけないんですが…」 照れたように鼻傷をかく人を逃がさないために、早くもっと深い所でつながってしまいたい。 抵抗されても抑え込めるだろうし、それにきっとこの人は…俺がすがったら突き放せないに違いない。 「じゃ、行きましょうか?」 不埒な思いに気付くでもなく優しい人が俺の手を引く。 さぁ。今夜が勝負だ。 憂鬱な気分から一転、獲物を狩るときのような高揚感が俺を包む。 人でなしの恋を成就させるために…今夜の獲物は一生逃がさないともう決めてしまった。 「ん。行こ?」 握り締めた手のぬくもりは、俺が何よりも求めていた俺だけの居場所だ。 …幸せって意外なとこから来るのかもねぇ? そう一人ごちて、始まったばかりの蜜月の予感に俺はうっとりと目を細めたのだった。 ********************************************************************************* 適当。 つかまった中忍のある意味計画的犯行編とかいるんだろうか。 ではではー!なにかご意見ご感想等ございますれば御気軽にお知らせくださいませ! |