「えっち」 「は?」 受付所で報告書を受け取った瞬間、理解できない言葉を聞いた。 なんだ?えっちって…なにがだ。どこがだ。 「どうしよう」 それはこっちの台詞だといいたいが、髪の毛を乱暴にかき回しながら悩んでいる風情の上忍には正直言って関わりたくない。 この人はちょっと変な人だから。 上忍には往々にしてあることだ。過酷な任務、想像を絶する苦痛と失う恐怖と戦い続けた結果、常識をどこかにおいてきてしまうのだ。 普段は穏やかで気遣いの出来る優しい人のに、戦闘中はふとした切っ掛けで凄まじい殺気を放ち、笑いながら敵の臓物を引っ張り出して撒き散らすような男もいれば、凄まじいこだわりを持って殺すときは必ず首や爪や…死体から剥ぎ取るという収集癖があるくノ一もいる。 有能ならば多少異常でもこだわらないのが忍だ。 任務をこなせるなら誰も何も言わない。 他人に害を及ぼさなければという前提はあるが、他人の中に忍、とりわけ下位の忍は含まれない事が多い。 下位の者たちへ無体を働けば当然取り締まられるが、軽度の精神的苦痛…戦闘中にえぐいものをみせられたりするくらいなら耐えろといわれるのがせいぜいだ。 しかしこの状況は…なにがどうなってるのかわからないだけに対処に苦しむ。 なんだ?えーっと。怒ればいいのか。これは。 多分えっちって言葉は俺に対して言ってるよな?報告書は今見た限りじゃ問題ないみたいだけど。 とりあえずさっさと穏便にお引取り願えることを期待して、さくさく確認印を押した。 「お疲れ様でした!」 さあ帰れ!とばかりに全開の笑顔を向けたら、今度は絶望に染まった瞳を向けられた。 おいおいおい。どうした?もしかして幻術か?毒か?それともあれか。なんかの発作とかなのか。 確かこの人の片目は写輪眼だったはずだし、もしかしたらそれの調子が悪いのかもしれないよな。 「えっち!」 ああ、また言いやがった。なにがどうしたんだかわかんねぇけど、重症だ。 えっちってことばしか言えなくなったとかかもしれないよな。 むしろ今の言葉が罵倒の色を帯びていたことの方が気になる。 俺はただ職務に忠実であるだけなのに。 「お疲れなんですね…。かえってゆっくり休んでください。ね?」 子どもに言い聞かせるように優しくゆっくりと言ってみたというのに、目を見開いた上忍は射殺しそうなほどの鋭さで俺を睨んでいる。 な、なんなんだよ!俺はなんにもしてねぇぞ!…多分。この人的にどうなってんだかわからんが。 「えっちすぎる!もうだめ!」 「は?え?お、おい!なにしやがる!」 両腕を掴まれて持ち上げられた。まるで父親が子どもを抱き上げるときみたいにひょいっと。 多分俺と同じくらいの身長の男に。 「えっちな人にはえっちなことをしようと思います。いいよね?」 いい訳あるかと叫ぶはずだった唇は男によってふさがれた。 舌に絡みつき口内で暴れまわるモノがなんなのか、考えたくもない。 暴れてももがいても押さえ込まれる。怒りか焦りか、自分でもわからないモノにせきたてられて涙が零れ落ちた。 「ふ、うぅぅ…!」 「あぁ、どうしよ。危ない」 「なにがだ。危ないのはアンタだ!」 やっと解放された口で怒鳴りつけてみれば、何故か一人で酷く納得したような顔をしている。 なんだよ。次は何をする気だ? 「そっか。そうだよねぇ?でも大丈夫。痛くはしません。がんばります。だからえっちだったんだ」 「へ?え?あの!?」 不穏な空気にとっさに同僚に視線で助けを求めたのに、ものすごい勢いで首を横に振られた。くっそう!友達甲斐のないやつだな!二度と残業変わってやらねぇ!当番もだ! 「好きです」 「は?」 「そういうわけですので、これからよろしくお願いします」 深々と頭を下げた上忍に戸惑っている間に、好き放題して満足したのか当の本人はさっさと姿を消した。 「なんだったんだ…」 「し、しらねぇよ!なんだよ!あんな危ない人じゃないぞ!はたけ上忍は!お前なんかしたんだろ!」 「してねぇよ!ほぼ初対面だって!」 そりゃ何度かナルトのことで挨拶くらいはしたけど、こんな面倒なことにはなる気配はなかったのに。 「ま、まあ。がんばれ!」 「…他人事だと思って…!」 まあ、でもあれだな。次からはさっさと逃げればいいだけだしな。 徹頭徹尾意味不明な上忍のお陰で疲れた…。今日は早く帰って寝よう。 そう思ってすっかり油断していた俺は、自宅に帰るなりエプロンつけた上忍が勝手に俺んちの台所でおさんどんしてるのを目撃する羽目になるのだが、当然そんなことを想像しもしなかったのだった。 ******************************************************************************** 適当。 ほれてるのでえっちにみえるてきな。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |