背後から忍び寄る怪しい影に気付いていたのに。 さてどうやって逃げ切ろうかなどと暢気に考えていたのがまずかった。 「イルカ先生」 名を呼ぶ声を耳元で聞いた。 気配を感じさせないくせに視線だけはわざとらしい程鋭い男に、いつも通り抱きしめられながら。 後ろを取られることには慣れた。慣れざるを得なかった。 何を気に入ったかしらないが、この男はこうして何度も…当然のように俺を抱きこんでくれるから。 上忍である男にとっては、それなりに場数を踏んだとはいえ中忍の俺を捕らえることなど大したことではないんだろう。 抵抗など無駄だというのは、思い知らされている。 こうもあっさり捕らえられるのだから、命すらきっと気付かぬ内に奪われるに違いない。 実力に差がありすぎるのを知っているだけに、今更どうにかしなければとも思えなかった。 ただ…やはり忍としての本能か、こうされると一瞬だけ体が強張る。 背後から獲物を捕らえるケモノの気配に、すっと背筋を氷が撫でたような感覚。 寄せられる体臭さえしない身体は、要するに全身が忍として完成されている。 つまりは、この男は生きながらにして最強の武器だってことだ。 それに寄り添われれば、本能の部分が恐怖する。 だから…それがいつから、こんな風に淡い期待まで含むようになったのか分からない。 ずっとずっとそれを恐怖だと、押さえ込み、隠すべき感情だと思っていたのに。 拒むことが出来ない理由が、恐怖だけじゃないなんて知りたくなかった。 「明日は朝からアカデミーです」 これでこれから先の行為を止めることはできないと知っているが、多少の手加減位はしてくれるだろう。 それは俺が俺としてあるために必要なことだ。 教師としてあることは、任務をこなすのと同じくらい、俺を俺だと…一人の忍だと信じさせてくれる。 だが…ただ事実だけを伝えているように聞こえているだろうか? できるだけ平坦に、注意深く感情がないように装った声に、浅ましい期待が滲んではいないだろうか? もういっそ暴かれてしまいたいと思う心が、零れ落ちてしまったら。 全てが変わってしまう。きっと。 「そ。… いーい匂い…」 欲望に煙る瞳からは理性なんてものは期待できそうにないが、これでもこの男は忍だ。それも飛び切り優秀な。 こうなったら諦める外ない。 「行きましょう」 「ん」 俺に既に熱を孕んだ腰を擦り付ける男の手を握り、自分から手を引いて寝室に向かう。 今日もこの思いを隠しとおせるように祈りながら。 ********************************************************************************* 適当ー! …あれー?なんでだろう…?そ、そろそろ別のにするはず…!わかんないですが! ではではー!なにかしら突っ込みやらご感想などございましたら、御気軽にどうぞ!!! |