お昼寝襲撃者(適当)



 今日はいつもよりぐっと気温が下がったから、たまにはいいかとクーラーを切り、風通しの良い居間で昼寝をすることにした。
 タオルケットと適当に並べた座布団、それからまくらだけは寝室から持ってきて、これで準備は完了だ。
 そよそよを吹き込む風の心地良さにうっとりする。ここんとこのドライヤーみたいな熱風じゃない。これならきっと良く眠れるだろう。
 ホクホクしながら座布団の上にねっころがって、瞳を閉じた。
 すぐに訪れた眠りは予想以上に心地良かったんだが。
「あのー」
「んー」
「暑いんですが」
「そ?」
寝苦しくて目を覚ますと、背中にぺっとりと上忍が張り付いている。
 全然知らないというわけではない。だがしかし、勝手に上がりこまれるのを許すほど親しくも無い。
 大体人んちに断りもなく上がりこんでおいてなんでこんなにも堂々としてるんだろう。
 しかも暑い。そりゃそうだ。いくら空気が冷えていても、今は真夏。オンボロ扇風機と玉に吹き込んでくる風があっても、人間の体温は高い。つうかくっつき過ぎだ。
 なにが楽しくて人の安眠を妨害するのかわからんが、はがれる気はなさそうだ。
 寝ぼけているのを言い訳にほっぺたをつんつんつつきまわしてもどけてくれる気配が無い。
 どうしようか。このままコレは放っておいて、俺は寝室で寝ればいいのか。
 折角の気持ちのいい寝床を奪われるのは癪に障る。とはいえそのまま寝続けるってことは、この暑苦しい物体に耐えるということになり、久方ぶりの涼しさを無駄にすることでもある訳で。
 プライドと実利を天秤にかけたら、実利に傾くのが忍だ。しょうがねぇ。何の気まぐれおこしたかしらないが、働き者の上忍様に寝床を譲ってやろう。
 俺の寝ていた座布団の隙間に無理矢理収まろうとしてはみ出していた上忍を、座布団の真ん中まで転がして、タオルケットも譲ってった。
うむ。よし。完璧な昼寝セットだよな。やっぱり。
ほんの少し満足感が湧き上がったので、寝床を奪われたことについてはそれでよしとした。
さっさと起き上がって水分補給だ。上忍様のおかげで汗もかいたし、冷蔵庫から出したての麦茶は美味い。
「ぷはー!うー冷てー美味い」
 この間ナルトにおっさんくさい飲み方だといわれたことを、飲み干してから気付いたが、真夏の麦茶はこうやって飲むのが礼儀だよなと気を取り直し、おかわりもした。
 さてと、喉も潤したことだし、上忍様はそっとしておいて俺も昼寝しよう。
「…」
「なんですか。寝てていいですよ?」
 なんでまたくっついてるんだ。気配が薄いから気付かなかった。しかも妙に必死だ。アカデミー生ならまだしも、自分とさしてかわらない図体のでかいイキモノに張り付かれると圧迫感が凄い。
「なんですか…一体」
 物言わぬ上忍様は、言葉による対話を拒否し、肉体言語のみで問題を解決することにしたらしい。
 そっと手を引かれて、今度は俺が座布団の上に転がされる。それからおもむろに再び背後に張り付いて…だからなんなんだよ。上忍。なんか言えよ。
 諦めないだろうってことだけは分かったが、それ以外はさっぱりだ。
「あーしょうがねぇなあ。ああほら、そこ、押入れ開けて、座布団、アンタでかいから3枚じゃたらねぇか?ほら並べて」
 言ったことはちゃんと聞いているらしい。せっせと座布団を並べてくれた。それからくりっと首をかしげてコレでいいの?って顔でこっちを見る。半分以上隠れてても意外とわかるもんなんだなぁ。表情。
「うっし。そんじゃそこのタオルケット。ナルトの何で小さいですが。ああほら、ちゃんとおなかに掛けなさい」
 なんかちょっと不満そうだが、昼寝で寝冷えってのはつき物だからな。きっちり対策はしとくもんだ。
「はい。アンタこっち。俺はこっち。暑いからぺったりくっつくのはなしです」
 ほんの少し、不満の色を称えた瞳で見られた気もするが、俺が無視してねっころがったら大人しく同じように転がった。よしよし。これでいい。
「じゃ、おやすみなさい」
 無言の男がぎゅーっと手を握ってきたのを眠気を理由に放置して、再び夢の世界に旅立つ。
 おやすみ。


「ふが?うー?」
 言い訳をするなら寝ぼけてたんだ。ここんとこ暑くて寝苦しかったのと、クーラーをギリギリまで我慢したのがマズかったんだろうな。
 俺の隣に横たわり、健やかな寝息を立てる上忍。手は握られたままでむしろ腕ごと抱え込まれかかっている。
「あぁあ…」
 やっちまった。事情も聞かずにこんな事許したら、居着くかもしれない。
 常識で考えれば上忍様に対して大変失礼な真似なのかもしれないが、俺は確信していた。
 こういうイキモノを拾うのは初めてじゃないからだ。むかーし、怪我した忍をうっかり拾ってやっぱり居座られたことがある。ある日突然回収にきたらしいのに引っさらわれてそのままもどってこなかったけど。今の今まですっかり忘れていた。
 っつーかあれだ。それコイツだ。そうだ。なんで俺はすっかりわすれてたんだ。
「ただいま」
 それはきっと宣言。いつくっつーか。コイツ的には帰ってきたつもりなんだ。
「…おかえりなさい」
 うっかりいつものくせで言っちまったもんだから、にこーっと笑ってまたくっついてきた。だから暑いんだって。
「晩御飯はなすの味噌汁がいいです」
 この上おさんどんまでさせるつもりかこの上忍。あの時は事情がありそうな怪我人だったから飯を食わせてやっただけだってのに。
「飯は俺がやってもいいですが、風呂掃除くらいやんなさいね」
 勝手に住み着く気なのに、俺ばっかり働かされるのは理不尽だよな。そう思ってびしっといってやったつもりだった。…それがここにいることを肯定していることに気づかずに。
「ん。でももうちょっと」
 忘れていた。こいつはびっくりするほど寝穢いんだった。…まあ、いいか。俺も眠い。というかこれは逃避か。
「…起きたら洗濯物も手伝え」
「はーい」
 あれだけくっつくなといったのに、なし崩しで張り付いてくる。暑い。…でもそれが心地良いってことまで思い出してしまった。
 戻ってきたんだからいいか。飼う覚悟はあの時したんだから。
 山をなす問題点には目を瞑った。どうせコイツは出て行かない。…きっと今度こそもう二度と。
 それが意外と嬉しいことに驚きながら瞳を閉じた。
 にんまりと笑う男がやっと手に入ると呟いたのも知らずに。


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適当。
これからしょっちゅう遊びに来るナルトとの熾烈な縄張り争いが繰り広げられたり、起きたらベッドにいるのが当たり前になって油断した中忍がつるっと食われたり、昼寝はやっぱり暑かったりしそう。
ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

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