大爆発(適当)


「うわ…!ほんとにここ?」
「そうです。ええ。ここです」
周囲の大地は粗方抉り取られて大穴が開いている。元々生えていたらしい木々は乱雑に倒され、地形まで変形しているところも、ここで起きた何かがすさまじい破壊力を持っていたことを物語る。
その中央で場違いにもすいよすいよと幸せそうに眠りの世界に旅立っている人が転がっていて、そこがまるで自分のお気に入りの寝床かなにかのように健やかに睡眠を満喫している。
目を疑う光景だが、何度瞬きしても消えないってことは…現実ってことだよね。ま、わかってたんだけど。
「…イルカ先生。イルカ先生」
駆け寄って抱き起こしてみたが、どうやらよほどぐっすり眠り込んでいるらしい。俺の声に反応してかにへにへと笑み崩れてはくれたものの、起きる気配はない。
っていうか、もしかしてチャクラ切れ?
焦燥感と共に後輩の方を見ると、近寄ってきてもいなかった。
なによもう。さっさとこの人病院につれてきなさいよ!確かにものすごーく幸せそうに寝てるけど、これだけ大規模なチャクラ使ったら、普通なら倒れたっておかしくない。最悪チャクラを使い切って…。
今のところはチャクラの流れが止まった気配もないし、心臓も規則的に動いている。
それを確かめられたことで泣きそうになるほど安堵した。
もう無茶するんだから…。恋人になる前から目が離せない人だったけど、やっと手に入れたばかりなのに奪われるなんてことになったら、間違いなく俺は気が狂う。
本人は至って平和そうだけど、こんな所において置けない。
抱き上げると無意識にしがみ付いてくれたことにささやかな喜びを感じつつ、後輩の下まで一気に飛んだ。
…正直に言うなら、なんでさっさと助けなかったって嫌味も兼ねて。
「ああ、先輩は触れるんですね。近づこうとしたらすさまじい勢いでチャクラ叩きつけられるんで、僕はなにもできなかったんです。見ている限りでは健康そうですが」
あっさりそういわれたことで、どうやら後輩に無理難題を押し付けていたらしいことに気づけたけど。
これでも暗部の精鋭だ。何せ俺の部下だし副官だし、木遁使いで封印術にも結界忍術にも長けている。それが“なにもできなかった”って。
「イルカ先生…」
「まあその中忍は悪くないと思いますよ?勝手に先輩に横恋慕して、ついでに九尾の子も逆恨みして襲撃しかけたみたいですから。もう本人たちがふっとんじゃったんでわかりませんけどね」
そう、不穏な空気を察して、無理を言って護衛に張り付かせていたから、ある程度の事情は把握している。
よりによって集団で、しかも暴力だけじゃなくて心まで壊そうとか。幻術耐性の低さを本人も気にしていて、三代目にも指摘されたからとかって、やたらと警戒していたからソコを狙われる可能性については覚悟してたんだ。
本人があそこまで警戒するその理由が、こんなことだなんて知らなかっただけで。
「チャクラ量、確かに中忍にしちゃ多いけど…」
それでも中忍レベルにしてはって程度だった。…と思う。
時々だけど、危険な目にあったときなんかはチャクラがうねるのがみえたりはしてたけど。
「封印、かけてあったみたいですよ。吹っ飛んだときに気付けただけで、普段は僕でも気付けませんでした。制御できないんじゃないですかね。僕が見てる限りだと、本人ごと爆発したみたいに見えました。とっさに逃げたんですが…他はこの様です」
この人の教え子も螺旋丸の練習で盛大に大穴あけてくれたけど、無造作に周囲にあるモノ全部ふっとばすなんて。しかも本人はほぼ無傷。これは確かに術じゃないかもしれない。
「…記録、当たってみないとね」
「おそらく三代目ならご存知だったでしょうが…。現状で探り出せたのは、中忍でSランク任務とAランク任務をこなしてるってことだけで、詳細は…」
「そ。…ま、この人が無事ならそれでいい。ありがとね。テンゾウ」
「いいえ。感謝は形でお願いします」
「はいはい。今度お前の欲しがってた本やるよ」
「ホントですか!絶対ですよ!」
建築学の本なんて、任務で必要で手に入れただけで、中身を覚えたら用なしだ。でもコイツが欲しがってるって知って使おうと思ってたんだよね。何も言わなくても俺が持ってるってのを把握してるのがコイツらしい。っていうか暗部連中にプライバシーはないしね。また勝手にロッカー漁ったんじゃないだろうな?ったく。
「…代わりに、全部なかったことにして」
「記憶操作の必要は、対象の消滅で問題ナシですね。…ってことは、えー!ここ元に戻すんですか!?芝生や木はなんとかできますけど…せめて大穴埋めるの手伝ってくださいよー!」
「だーめ。この人、病院に連れてく」
「…そうですね」
意外なほどあっさり引き下がったことに驚いた。コイツは乗せやすいけど、いつも結構ちゃっかりしてるもんね。
「なによ。テンゾウらしくないね」
ちょっと茶化してやるだけのつもりで軽口を叩いたのに、腹心の部下は視線を地に向けた。
「僕はその、正直言ってその人が怖いです」
それ以上言葉が出なかったらしい。不安そうに顔色をうかがってきているのはわかるけど、そうね。そうかもしれない。
得体の知れない力。普通なら警戒する。俺たちみたいな連中は特に。
でもこの人は…俺の唯一無二の人だから。
「ごめーんね。じゃ、後頼んだ」
「はい。…その、お大事に」
「ん。ありがと」
この礼はしっかりしてやろう。それから…三代目に倣って、全てをなかったことにしなければ。
あの狸爺は多分何もかもを冥府の道連れにしたに違いない。本当は何かしら情報が欲しい所だが…この人を危険に晒さなきゃいいだけだ。本人が何もしらない可能性の方が高い。
もう二度と、この人を危険な目には合わせない。
「へへ…カカシ、さん」
「ん。おやすみ」
大切な、何よりも大切すぎて絶対に失えない人を抱き締めた。
全てを闇に沈めてでも、絶対に守るという決意を込めて。
 

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適当。
イルカ・ザ・ボマー。

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