失われた記憶9(変態さん)


執務室に入るなりらぶらぶじゃのうなどと言われて卒倒しそうになったが何とか耐えた。
そりゃそうだよな…執務室の前でコイツなんて全裸に…!
だからどうしてらぶらぶなんて幻覚を見てるんですか三代目…!
あれか、やっぱり年なのか。もうしょうがないのか…!
こっちが血反吐を吐きそうなほど落ち込んでるってのに、当の本人は未だにちょっとぐずっている。
「おい。さっさとしろ!三代目はお忙しいんだぞ!」
本来ならこの駄犬も忙しいはずだ。
こなした任務ランクを見る限り、AやSばかりが並んでいるというありえない状態だった。まあ最近は子どもたちとの任務もあるから、Dランク任務もまざっちゃいるが、子どもの頃から優秀だったってことは間違いない。
…優秀すぎておかしくなったのかもしれないよな。まあ変態になる素質はたっぷりあったんだろうけど。
「だ、だってぇ…!イルカせんせが俺のこと忘れて…う、浮気!相手を殺してイルカせんせは監禁陵辱輪姦プレイ!」
「待て待て待て!?監禁もそういう変態的なのもお断りだ!」
最後のは単なる希望だろうがと怒鳴りつけようと思ったのに、どうにも剣呑な視線からして変態の本気を感じて総毛だった。
まあ俺がこの駄犬の嫁になってしまったってのは周知の事実だから、わざわざ変態上忍の番相手にちょっかいかける女性なんていないだろう。
男でこんなごついのにその気になるのもいないだろうし。
…まあそういう意味で駄犬は本当に稀有なほどにホンモノの変態だってことだよな…。
そんなのに目をつけられてしまった己の不幸を、この賭けで返上する。
そのためにも駄々をこねる駄犬を上手く丸め込まなくてはならないのだ。
「イルカせんせ…?だいじょぶですよ…!ぜぇんぶ俺がしてあげますから…!ご飯も口移しでトイレも介助っていうかもう全部俺の…あぁん!」
とんでもない妄想であらぬ方向に盛り上がり、にじり寄る駄犬を思いっきり踏んでやった。
「おい駄犬。記憶を消すのなんのと言い出したのはお前だな?」
「はぁい!だってぇ…!運命的な出会いって何度でも繰り返したいと思いませんか…!ま、この指輪のおかげで何度でもくりかえせちゃうんですけどぉ…!」
途端にもじもじしながら頬を染めてちらちらこっち見てくるのが鬱陶しすぎる。
床に転がって腹見せる上忍など、五大陸広しといえどコイツぐらいだろう。
…他にいたら恐ろしい。まあ忍なんて常識ハズレの連中ばっかりだからありえない話じゃな…いや考えたら恐ろしいから止めよう。
「自分で言い出したことを貫き通せないとはな。幻滅だな。…約束も守れないような駄犬は…」
「う、浮気はだめぇ!だめですぅ!俺、俺がんばります!初夜プレイ再び!」
「な、なんだそれは!?お前ちゃんと誓約書読んだか!?」
初夜…男同士のアレをそう呼んでいいのかどうか甚だ疑問だが、駄犬はそういや大騒ぎしてたな…。
あれからどれくらいたったんだろう。色々と思い出したくもない記憶はどんどんと積み重ねられ、毎朝のようににこやかに全裸で奇襲してくるというか下手すると同じベッドでつっこまれたまま…く…!
「イルカせんせ…!また俺を好きになってくださいね…!」
そっと手を握りついでにケツを撫でようとした駄犬を牽制しつつ、怒鳴りつけてやった。
「いいか!?術ミスるなよ!ちゃんときっちりお前の記憶をきれいさっぱりとだな…!」
「俺のこと忘れちゃうなんて…!」
「お前が言い出したんだろうがー!?」
なんなんだコイツ。そもそも訳の分からんことを言い出したのはこの駄犬だろうが。
気づけば苛立ち紛れに激しく言い争い始めていた。
…ここが三代目の前であることを忘れるほどに。
「あー痴話喧嘩もたまには必要じゃが…どうするんじゃ?カカシよ」
「えー?だってぇ…!イルカせんせとまた運命的な出会いを体験したいなぁなんて思ってもいるんですけどぉ…!で、でもでも俺のこと忘れて浮気…!里中の男抹殺してからじゃないと…!」
「落ち着け馬鹿!まさか本気じゃないだろうな!?すみません三代目…!」
こいつならやりかねん。
アカデミーの同僚までその嫉妬の犠牲になってるからな…。そもそも男と寝るわけないだろうがってのは駄犬に言っても無駄だろうし。
「ふむ。イルカを信じられぬのか?…おぬしのためにこれまでああも尽くしてくれておるというのに」
里長の言葉だけあって、その台詞にはすばらしく重みがあった。
…頭の中身が変態妄想だけなんじゃないかと思う駄犬にも響くほどに。
「そ、そうですよね…!俺とイルカせんせの間に割り込むことなんて、誰にもできませんよね…!」
流石三代目だ…!尽くした覚えは毛頭ないが、助かった…!
「三代目…ありがとうございます…!」
「うむ!内助の功というものは、里を支える重圧をもだな…!」
心からの感謝は、どうにも勘違いされた気がしてならないが、目的達成の前には些細なことだ。
「じゃ、いきまぁす!」
笑顔だ。鬱陶しいほどに。さっきまでみーみー泣いてたくせに。変態駄犬馬鹿上忍め。
「約束…忘れるなよ?」
念押しになぜか涙を流しだした駄犬を最後に、俺の意識は途切れた。


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変態さん。
ねむい
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