失われた記憶6(変態さん)


毎度毎度変態行為を繰り返す駄犬との暮らしに疲れた切りながら、それが日常になっていくことに怯えていたある日。
駄犬の分際で人の上に乗りかかろうとしていた変態が一冊の本を取り出して見せた。
「き、記憶喪失って興味ありませんか…!素敵ですよね!全てを忘れても再びめぐり合い結ばれる二人…!まさに!運命っていうかぁ!」
興奮しすぎて薄桃色になっているのが良く分かる。…いつも通り全裸だからな。
それにしてもいい加減18禁本の中身を強要するのは諦めればいいものを、どうして何度握りつぶされても燃やされても懲りずに挑むのか理解に苦しむ。
とにかく、この益体もない本に心酔しきっている駄犬は、それを実行することに異常な執着を見せるので油断できないということだけははっきりしている。
つまりは相手にしないのが一番ということだ。
「そうか。興味はない。むしろ記憶がなければ貴様なんぞと接点もないし、まず間違いなく惚れるってこともない」
もっと言うなら今も別に惚れちゃいない。
…何の因果か婚姻関係というやつが成立してしまっていることについては色々と思うところはあるにしろ、とにもかくにも出来うるならばこんな生き物と係わり合いにはなりたくなかった。
俺に出会うまでは公の場で全裸になることもなければ、変態妄想を垂れ流すことも、むやみやたらと他人を攻撃したりなんてこともなかったらしいからな。
それが今じゃ…。
俺の匂いがするだのなんだのと叫んでは一瞬にして服を脱ぎ捨てるわ、延々と、それはもう延々と己の妄想をわめきたてるだけでは飽き足らず、俺にそれを強要しようとする。
その上、受付でもアカデミーでも、俺と少しでも会話しようものなら闇討ちじみた嫌がらせを受ける始末。
…まあお陰で受付で気のたった上忍にちょっかいをかけられることもなくなったわけだが…その手の連中をぶちのめすだけで済んでいたあの頃が懐かしい…。
物思いにふける俺に対して、やたらと元気というかみなぎっている股間をさらした上忍は、酷いショックを受けたようだった。
「そんな…イルカ先生が不安に狩られていたなんて…!大丈夫!何度だって出会った瞬間に一目ぼれしあいますから!安心して俺の腕にとびこ…あうっ!」
目に涙をいっぱいに溜めてすがり付こうとしてきたが、下半身までだらだら危険な液体を垂れ流しているような変態に同情の余地はない。
とりあえず不愉快にも程がある妄想を訂正がてら、軽く踏みつけてやった。
「貴様の妄想に付き合う暇はない。俺は寝たいんだよ!そもそも一目ぼれもなにも貴様が勝手に俺の家に押しかけてくるまで碌に…ぐえ!」
「そ、そこまで不安なら…俺が証明して見せます!今すぐにでも!」
駄犬の癖に足にすがり付いてついでに股間に頬ずりしつつ力強く言い放った。
…さてはこいつ、コレが目的だな?
それを証拠に顔が明らかに輝いている。
記憶を消して人をいいようにしようって腹か。
なら、こっちにも考えがある。
「おい駄犬。…賭けをしないか?」
「かけっこ…イルカせんせったら積極的…!顔ですか!背中もいいなぁ…!お腹も!で、でもぉ…!まずは中にいっぱいだしたいっていうかぁ…!」
「そっちじゃねぇ!」
「あぁん!」
いかんいかん。あまりのことについつい駄犬を踏みつけてしまった。これからコイツを黙らせなきゃいけないってのに喜ばせてどうするんだ!
「いいか?俺は記憶を失ったらお前に惚れないっていう自信がある」
「まったまたぁ!そーんなに心配しなくても!大丈夫ですよー!勿論!俺が!全身全霊をもってイルカ先生の色々を一から…!」
案の定ろくでもない計画を滔々とまくし立て始めた駄犬を遮って、要点だけ伝えた。
「お前は記憶が消えても俺がお前に惚れる方に賭ければいいだろ?」
「イルカせんせったら…!勿論です!ほれちゃいます!なにがあってももうたっぷり溢れるくらい入れて出して…!」
会話が成立していない気がするんだがまあいい。
…コイツがこの賭けに乗ったのは事実だ。
「賭けに、乗るな?」
「はぁい!乗りたいです!むしろ踏んで…!」
ちょこんと犬座りしている駄犬に、ダメ押しのようにさまざまな付加条件をつけてやった。
俺に対して解術以外の術や薬物を使わないこと(記憶操作ついでに洗脳されるのを防ぐため)、他人を巻き込まないこと(他の人間に会わせないように監禁されるのを防ぐため)、記憶がない間は襲わないこと(俺から誘われたときに限って記憶を戻させることにした。まずないからな。妄想で勝手に同意したと思われても記憶が戻ればなんとでもできる)、強姦など以ての外(やたら体からだのなんだのと…。未だに諦めてなかったのか…!)、俺がしょっぱなから駄犬を殺そうとしないように一応全裸不可(普通に不審者だろ。全裸で家にいたら)、条件を出会った頃と一緒にするために駄犬はこの家に帰らない(一人でゆっくりしたい)、駄犬はできる限り普通の上忍として接すること(気苦労を減らしたい。駄犬は何を勘違いしたのかきゃいきゃい喜んでたが、記憶のない俺がいきなり踏めなどといわれたら長期任務にでかねんぞと脅しておいた)などなど…とりあえず興奮してびた一文きいちゃいないのをいいことに、しっかりきっちり紙に書き出し、血判も押させた。
賭けに勝ったら俺のいう条件を何でも飲むことってことまで織り込んで。
…ちなみに駄犬が勝利した場合は1週間風呂掃除を俺がやるってことにしておいた。万が一の場合に備えて被害を最小限にしておかないとな。
これで勝てないってことはないはずだが、駄犬ははぁはぁ言いながら大喜びするばかりだ。
やっぱりアホなんだな。おかげで助かった。
「じゃあ、いつ開始するかとか細かい所は受付業務なんかにも影響するから、そっちに事情を話してから…」
「受付で出会い…!その場で激しく愛し合う二人…!」
「ねぇよ。…わかってんのかおい?駄犬。…これは、勝負だ」
妄想たっぷりの駄犬を踏みつけつつ、一応挑発してやった。…ら、なんかこうなんでかしらないが別の方向に興奮したらしい。
「そうですよね!これからしばらく記憶がなくなってえっちできないし…今のうちにヤリダメしたいですよね!」
「ど、どうしてそうな…んぐ!あ、くそはなせ…!」
「イルカせんせ…!もう一度…!いえ!何度だって、記憶が消えても耳が生えてもメイドさんでも…も・ち・ろ・ん!生まれ変わっても何度だって二人はめぐり合いますからね…!」
呪いの指輪のはまった俺の指を食みながら、駄犬が囁く。
コイツが言うと本気でどこまでも付きまとわれそうで恐ろしいが、それ以前にもう完全にやる気だってことの方が問題だ。
先走りをまとった凶悪な肉棒をもどかしげにこすりつけながら、口の中に指を突っ込んできている。
「ん、ふぅ…や、め…!」
「永遠に…絶対に一人になんかさせませんから…!」
その台詞に一瞬だけ胸が苦しくなった気がしたのは、呼吸がしにくかったせいだと思いたい。
…結局、その日は足腰立たなくなるまで好き放題にされて、散々な目にあった。さっさと例の薬よこせといっただけなのにつっこま…いや思い出すな俺!泣いてなんかいないぞ…!
そんなわけで、色々耐えかねた俺の手により、その日のうちに戦いの火蓋は切って落とされたのだった。


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変態さん。
つづきあといっか…い…?
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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